第231話 備え(甘味)あれば憂いなし

「ふう、こんなもんかな」


『お疲れ様です』


 夜のIROは月曜農作業の日。

 収穫して、雑草抜いて、水やりして。

 ヤコッコの卵も回収し、ブルーガリスの葉っぱをどっさりと餌箱に放り込む。


『残りの時間はどうしますか?』


「フェアリーたちが集めてくれてた戦利品の鑑定と、一輪車作れないかなって」


『一輪車……ですか?』


 あ、これ、ミオンがピンと来てないというか、別の一輪車を想像してそう。

 ネコ……猫車……手押し車の方がわかりやすいかな。


「手押し車ってわかる?」


『ちょっと調べてみます。……あ、荷物を運ぶためのですか?』


「そうそう、それそれ」


 多分、検索か何かで画像を見たんだと思うから、間違ってないはず?

 お嬢様には縁のない物だとは思うけど、田舎だと普通に『ネコ』で通じるからなあ。


『鉄でできてそうですけど。あとタイヤは?』


「木製のもあるから、そっちかな」


 そう答えると、多分また検索してるっぽいので、山小屋へと戻る準備を。

 ルピはもう足元にお座りして待ってくれてるんだけど、スウィーとフェアリーたちは、まだグレイプルを物色中。


「そろそろ帰るよ〜」


「〜〜〜♪」


「「「〜〜〜♪」」」


 その声に、各自1個ずつ、お気に入りのグレイプルの実をお土産に抱えて戻ってくる。

 もう一回ぐらい、グレイプルだけを採りに来た方がいいかな? ワイン、ビネガー、ドライグレイプルと用途が多いし……


『これですね。なんだかすごく可愛いです』


「アンティークっぽいやつ? そのまま据えて花壇にするようなのもあるけど、俺が作るのは実用的な方かな」


 フレームとタイヤ、木箱を乗せるガイドだけのシンプルなやつにしておけば、用途によって木箱の大きさを変えればいいはずだし。


『これって、階段はどうやって?』


「えっと、車輪が乗る幅の板を渡して、そこだけ斜面にする感じ。この真ん中にこう……」


 ちょうど山小屋へと出る階段に差し掛かったので、身振りを加えつつ説明してみる。

 この階段、結構斜度があるから、後ろ向きに上った方が良さそう。


『なるほどです!』


「まあ、うまくいけばいいけど……」


 耐久度が足りなくて、ボキッと行きそうな気がしなくもない。

 その時は、フレームは鉄で作るかな……


「ワフッ!」


 階段を上り切ったところでルピが駆け出し、スウィーやフェアリーたちが続いて行く。

 あとは地味な作業になるし、好きに遊んでてもらおう。


「よいしょっと」


 荷物をいったん土間に置いて、収穫した野菜やらを持って山小屋に。


『ショウ君。箱が光ってますよ』


「え? あ、返事早いな!」


 急ぎで返事しないといけないってことは、やっぱり古代遺跡の管理者になっちゃった件がまずかったのかな? それか、甘味が足りなくなったか……

 とりあえず、1階に降りて、日持ちしないものは収納箱へ。

 グリシンやオーダプラなんかは日陰で保存しとけばいいので、普通の木箱に放り込んでおく。1階の暗さがちょうどいい。


「覚悟を決めて確認するか」


『はい』


 魔導転送箱を開けると……入っているのは手紙だけ。


『ショウ様


 非常に重要な報告をいただき、ありがとうございます。

 現状確認と転移魔法陣の件で、直接お話しできればと思います。

 ついては、明日にでもそちらにお伺いしたいのですが、ご都合の程はいかがでしょうか?』


 え? 明日!?


「明日っていきなりすぎない? せめて、明後日とか……」


『でも、明後日だとライブと重なっちゃいます』


「あああ、そうだった……」


 前回ちょろっと出ただけでも大騒ぎだったのに、またってのは勘弁して欲しい。

 そうなると、明日一択だよな。もしくは、木曜とか……だと遅いんだろうなあ。


「じゃ、明日でいいか。夜って9時ぐらいでいいかな? 飛んでくるのか、地下に転移してくるのかわからないけど、それは返事で聞こう」


『そうですね』


 もう一度、1階へと降りて、紙と万年筆……じゃなくて魔導刻印筆を取ってくる。

 筆記用具、持ち歩こうと思ってたし、常にインベントリに入れておこう。


「えっと、オッケーなのと時間が9時からでお願いするとして、あとは地下に転移してくるのか、港にくるのかか」


 いつも通り、手短に内容を書いて、ミオンにも見てもらう。


『いいと思います』


「さんきゅ。じゃ、さっそく送ってっと。……戦利品の鑑定と一輪車は後回しにして、椅子をもう一つ作らないとだよな」


『あ、そうですね』


 この島にお客さんが来ることを想定してなかったからなあ。

 家の中より、外の方がいいか。中は殺風景だし。

 というか、新作の甘味を作っておこう……


 ………

 ……

 …


「今って10時過ぎぐらい?」


『はい。少し回ったところです』


「うーん、思ったより時間掛かっちゃったな……」


 お客様用の椅子づくり、さくっと終わらせるつもりが、手頃な木材がなくて木を切るところからに。

 今後も考えると、ちょっとまとめて木材調達する日を設けないとだよな。


『残りの時間は戦利品の鑑定ですか?』


「いや、お客様用のお菓子を用意しようかなって。わらび餅なら材料はそろってるし」


『え?』


 片栗粉、砂糖、水を混ぜて煮て冷やすだけ。

 冷やす方法に悩んだんだけど、水の精霊にできるだけ冷たい水を出してもらえたおかげでなんとかなりそう。

 その間にグリシンを挽いてきな粉を作る。

 わらび餅がいい感じに固まるまで、石臼でごりごりごりごり……


 そろそろいいかな?

 適当な大きさに切って、きな粉をまぶして、フェアリーの蜜を垂らす。


「〜〜〜?」


「スウィー、ちょうど良かった。新作できたから食べてみて」


 ルピに乗ってやってきたスウィーが興味津々で覗き込んでるので、味見役になってもらおう。

 試食できるサイズ、小指の先ほどのかけらを、小さなつまようじに刺して渡す。

 透明のプルプルに茶色い粉と蜜。見たことない物体に怪訝そうな顔をしつつ、端っこをパクッと……


「〜〜〜!」


 途端にガブガブしはじめ、口の周りがきな粉だらけの女王様。まあ、美味しいようで何より。

 ただ、これちょっとフェアリーの蜜を使いすぎるんだよな。


「うーん、黒蜜作れるか試してみるか」


『黒蜜ですか?』


「うん。まあ、うまくいくかは微妙だけど」


 鍋に空砂糖と水を同量入れ、火にかけて煮詰めるだけ。

 黒糖から黒蜜を作るのは、これでできたはずだけど……


『青くなってますね……』


「これじゃ黒蜜じゃなくて、青蜜だよな……」


 少しだけスプーンに取って味見……


「あ、いける。いや、これ美味しいな! スウィー、これちょっと試してみて」


 フェアリーの蜜の代わりに青蜜をかける。なんか、かき氷の青いシロップみたいになってるけど気にしない。


「〜〜〜!!」


「美味しいのはわかったけど、口元が真っ青になってるよ。あと、他のフェアリーたちも呼んできてあげて」


 きな粉まみれで口元は真っ青になっても、一心不乱にわらび餅をかじる女王様だけど、他のフェアリーたちにもって話には納得してくれて、ぴゅーんと飛んでいく。


「ワフ」


「うん、ルピも食べてみて」


 ランチプレートに盛ってあげると、ルピも美味しそうに食べてくれる。

 きな粉が鼻の頭についてて可愛い……


『ううう、美味しそうです……』


「わらび餅は簡単に作れるし、今度作ってみる?」


『え?』


「作り方は教えるから、一緒に作ってみるのもいいかなって」


『は、はい!』


 いきなり魚さばいてとかよりも、お菓子作りとかの方がチャレンジする気になるよな。

 少しずつ、ゲーム以外のことも共有できたらなって思うし……

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