晶瑩玲瓏

月曜日

第229話 噂の信憑性

「暑い。もう夏だな……」


 窓の外を見てそうつぶやくナット。

 もうすぐ6月。今日の最高気温は28度を超えるらしい。


「遅くなってごめんなさい」


「おう、おつかれ」


 今日の日直だったいいんちょが、少し遅れてやってきた。

 ミオンは……タブレットで何か見てるっぽい。


「ミオン?」


「ん」


 パタンとカバーを閉め、全員座ったところでいただきます。

 購買の惣菜パン、意外と美味いんだよな。


「そうそう、ナットといいんちょに聞きたいんだけどさ……」


 とりあえず、アライアンスの件について2人なら何か知ってるはず。


「アライアンス? 前のワークエで襲撃来た時は組んでたぞ?」


「それってノームたちも入ってた?」


「おう。なんか入りたそうにしてたしな」


 NPCも自律的に動いてて、協力しようとしてくれるのは間違いないのか。

 ただ、モンスターと直接戦闘して怪我をするようなことはなかったらしいので、NPCが行動不能になった時にどうなるかは不明のまま……

 一方のいいんちょのほうは、


「私はそういうゲームの仕組的なことはさっぱり。ユキさんの言うとおりにしてただけよ」


「例の有翼人たちとは……まあ組んでねえか」


「ああ、そりゃそうか」


 苦笑いのいいんちょとコクコクとうなずくミオン。


「そんなこと聞いてくるってことは……フェアリーたちとか? ってか、古代遺跡の管理者とかいうワールドアナウンスお前なんだよな?」


「あ、うん。まあ、それまでにいろいろあって……」


 いいんちょにはフェアリーやセルキーたちを危険な場所に連れて行かないよう、キツく注意されました……


 ***


「ごちそうさま」


「ワフン」


 部活の時間。久々(?)の山小屋ご飯は、フォレビット肉とレクソン、チャガタケ、仙人筍の炒め物。

 やっぱり塩コショウが入ると格段にうま味が違う。ただ、猛烈に白いご飯が欲しくなる……


『お邪魔するわね』


 自身の昨日のライブコメントをチェックし終えたベル部長がスタジオ入り。

 昨夜は結局、日付が変わる前に解散したこともあって、質問できなかったことがたくさんあるらしい。


「ルピ。俺は手紙書かないとだし、スウィーのところに遊びに行っていいよ」


「ワフ」


 元気よく森の方へと走っていくルピ。

 手紙を出し終わったら、ちょっと散歩にでもかな。崩落があった通路が修復されてるか確認に行くか。ああ、拾っただけのあれこれを鑑定もしないと……


「まずは、アージェンタさんにレポート書いて出さないと」


『質問しても良いのかしら?』


「大丈夫っすよ。ミオンがフォローしてくれるし」


『任せてください!』


 食器を洗って片して山小屋へと戻る。

 さて、昨日あったことを時系列で全部書くか……


『じゃ、まず土曜のライブのことなんだけど、コショウ使ってたわよね?』


「ええ。魚料理なんで白コショウの方っすね」


 えーっと、まずは灯台の裏にある大きな洞窟に入って、ベノマスライムってのを倒したんだよな。


『白コショウは本土では見ないんだけど……』


「え?」


 ベル部長の話だと、本土で使われてるのは黒コショウ。それも全部が魔王国からの輸入品らしい。

 王国は魔王国から一番遠いせいで、コショウがめちゃくちゃ贅沢品らしく……


「うーん、島の南側に普通に見つけたんですよね。IROだとレッペリンっていうらしいですけど」


『島の南側ってどれくらいの緯度になるのかしら……』


「カムラスの実って、漁村の近くにあったんですよね。だとしたら、まあそこから南に行ったあたり?」


 白コショウの作り方を調べた時に、リアルだとインドとかが原産地らしいって話を見たかな。

 ただ、この島はお一人様専用のせいで、本来は同居しない植物も……ってなってそうなんだよな。


『クリーネよりさらに南ってことね』


『村があるんですか?』


『いえ、未開地よ。地図で言うと……』


 ミオンとベル部長は、多分、公式ページの地図を見ながら話をしてるんだろう。なので、今のうちにさくさくと手紙を書き上げる。

 マルーンレイスってボスと多数のアンデッドを倒して資料室に到達。そこでスウィーたちが指輪を見つけてくれたんだよな。


『これは調査した方がいいわね』


『部長が行かれるんですか?』


『魔術士の塔を優先したいところだし、悩ましいわね……』


 昨日、日曜のライブではレオナ様も加わって、さらに攻略は加速。

 11階の残りと、12階を隅々までチェックして13階に突入したそうで……


『応用魔法学<風>の魔導書が手に入ったし、さらに他のもあるんじゃないかって』


「お、マジっすか。おめでとうございます」


『おめでとうございます。部長も手に入れたんですね!』


『……今、ミオンさんが「も」って言ったのは?』


 はい。言いましたね。


「えーっと、例の制御室の手前に資料室があって、応用魔法学の残り水火風全部揃いました」


『そうなのね……』


 ちょっとガックリ感があるベル部長。

 申し訳ないなと思うものの、


「まあ、取るかどうかは別っすよ。その3種でSPを12も使うのはちょっと……」


 今、SPは23余ってるけど、そろそろスキルが素で10になりそうなのがちらほらあるし、上位スキルのことを考えると全部取るのは躊躇われる。

 元素魔法を上限突破して空間魔法を取りたいし、生産スキルの上限突破の方も気になるんだよな……

 ベル部長は純魔ビルドだし、アイデンティティとして魔法スキル全種取りたいんだろうな、やっぱり。


『ショウ君、王国の南側なら……』


「うん。あっちにはナットと奴のフレがいるんで、まるっと任せちゃっていいんじゃないすか?」


『そうねえ。コショウが見つかったとしても、白銀の館で取り扱うにも人手が足りない気がするわ。ユキさんに確認を取ってからお願いすることになると思うけど』


「りょっす」


 部活終わりにでもナットにメッセ入れておくかな。


「よし、書けた」


 じゃ、さっそくと思ったんだけど、どうせならあの通路が元に戻ってるか確認した方がいいか?


『送らないんですか?』


「あ、うん。崩落したところが修復されてるか確認した方がいいかなって」


『あ、そうですね』


 そうと決まれば、さくっと行って見てこよう。

 山小屋を出て、


「ルピ〜」


 そう呼ぶと、ルピが嬉しそうに駆けてくる。背中に乗ってるスウィーがロデオ状態になってるんだけど大丈夫なのかな……


「ワフ!」


 飛び込んできたルピをしゃがんで受け止めると、スウィーがくたっと左肩へと張り付く。

 乗り物酔い? 普通に飛べるんだから、わざわざルピに乗らなくても良い気がするんだけどな。


「ちょっと展望台のところまで散歩に行こう。スウィー、これ食べて元気出して」


「ワフン」


「〜〜〜♪」


 グリーンベリーを受け取った瞬間、すっかりご機嫌になる女王様。

 さて、特に何か持っていく必要もないよな。一応、装備だけはきちんとしておくか。


『質問の続き、よろし?』


「あ、どぞどぞ」


『砂糖も手に入れたのよね?』


「ええ、ブルーガリスっていう、まあ、テンサイっすね。あれ? 砂糖も実は高いとか?」


『いえ、砂糖はちゃんとあるわよ? 聞きたいのは、コショウやテンサイになる植物にどうやって気づいたのかなのよ』


 ベル部長は俺がフォーラムとか見ないのを知ってるし、ミオンからそれを聞いて解決したってのも考えづらいなあっていう話らしい。

 そもそも、レッペリンやブルーガリスの実物はベル部長も見たことがないそうで。


『植物図鑑のおかげですよね』


「そうそう、山小屋に残されてた図鑑が優秀で。あー、あと図鑑があると学問系スキルが取れるから、それも絡んでるかも」


 レッペリン(コショウ)を見つけたのもその辺が裏で作用してる気がしなくもない。

 一応、その話も伝えておく。


『王国では図鑑は見れないんですか?』


『商業ギルドなんかで見れるのだけど閲覧料が高いのよ。それに話を聞いてる限りだと、ショウ君が持ってるものより劣るんじゃないかしら?』


「あー……」


 俺が持ってる図鑑は厄災の前からある古代魔導文明の図鑑だもんな。

 ベル部長たちが持ってるやつが、厄災の後からできたようなやつなら、だいぶ違う気がする。


「俺が持ってる図鑑と同じものとなると、魔術士の塔とか死霊都市に期待ですかね」


『そうねえ。でもこれで少し理解できたわ』


『何がですか?』


『ショウ君の島がエンドコンテンツに近いんじゃないかって噂があるのよ。もちろん、無人島スタートの調整は入ってるでしょうけれどね』


 ……

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