IRO運営(2):ワールドクエスト進捗確認

「失礼します」


 GMチョコはノックへの返事を待たずに部屋へと入った。

 机に突っ伏しているミシャPを盛大にスルーして、ソファーへと腰掛ける。


「どうしてこうなった……」


「どうしてこうなった」


 ミシャPのつぶやきを拾ってオウム返しするGMチョコ。


「どうしてこうなった〜♪ どうしてこうなった〜♪」


「踊りましょうか?」


「よろしく」


 タブレットをローテーブルに置いて立ち上がり、どうしてこうなった踊りを始めようとするGMチョコだったが、


「冗談です。ごめんなさい」


「コーヒー淹れますね」


 二人分のコーヒーを淹れ、一つを突っ伏しているミシャPの隣へと置く。

 GMチョコ的には、突っ伏したくなる理由もわからなくもないが、彼女としては「デスヨネー」というのが正直なところだ。


「どうしよ?」


「別に成り行きに任せればいいんじゃないです? 一応、こういう事態も想定はしてたんですよね?」


「そりゃそうだけど、早すぎでしょ……」


 やっと起き上がったミシャPがコーヒーに口をつける。

 そして、しばらく考え込んでから「はぁ……」とため息一つ。


「古代遺跡に所有権がある話も、特に隠すほどじゃないと思いますけど。いずれバレる要素でしたよね?」


「まあね〜。でも、早くても今のワールドクエストが終わってからの予定だったんだけどなあ……」


 そう言って頬杖を付く。

 プレイヤーが建国し、その領土内に古代遺跡があった場合に、ギルド対抗戦的な要素として登場するはずのものだった。

 なので、当面そのつもりはなかったというのが正解だ。


「で、報告はそれじゃないんだよね?」


「ええ。死霊都市の攻略スピードが極端に遅くなるんじゃないかって懸念が上がってますね」


「え? 第一部は初動こそ遅かったけど、それこそショウ君のおかげでだいぶ巻いて、なんなら少し早く第二部に行けそうじゃなかった?」


 その問いに対し、GMチョコがタブレットを操作し、レポートをミシャPへと送る。

 受け取ったミシャPが手元のエアディスプレイにそれを映し、ふんふんと読み進めて行く。


「あー、死霊都市への前線拠点で物価が高騰するって推測ね。ある程度上がっちゃうのはしょうがないというか、観光地価格になるのは想定内だったと思うけど」


「そこから、もうちょっと読み進めてもらえます?」


「ん? 何これ? この上がり方予想はちょっと異常……。あー、プレイヤーズギルドが独占して、さらに上げる可能性が高いってことか……」


 ミシャPはそこまで読んだところで、エアディスプレイから目を離した。

 が、GMチョコがさらに続きも読めと言わんばかりに、指をすいすいっと動かす。


「古代遺跡に管理者が存在する。しかもプレイヤーがそれになれるって情報が先に流れちゃったんで、その影響もあるみたいですよ」


「えー……」


 と渋い顔をするミシャP。

 レポートでは想定される物価からさらに3倍になるという懸念が示されており、それによりワールドクエストの参加者が減少。進捗が著しく落ちて、第二部の想定期間が3〜5倍になるという推測が書かれていた。


「もう少しこう何というか」


「手心というか」


 グッとサムズアップし合う二人。


「それにしても、やりすぎると、ワークエの進捗が悪いことへの責任問題みたいな話がプレイヤー間で起きそうなんだけど?」


 エアディスプレイをしまい、再びコーヒーに口を付ける。

 プレイヤーの行動は極力制限しない方針だが、公式フォーラムで罵詈雑言が飛び交うのは看過できない。


「自分たちだけでワークエをクリアできる自信があるんじゃないです? トップクラスが揃ってるギルドですし、人数も多いですしね」


「うーん、他の人たちは?」


「普通は見返りのあるリターンが判明するまで様子見だと思いますよ。他の古代遺跡は確実なリターンが判明してますし、そっちの管理者も狙えるかもですし。

 あとはギルドに入った新規プレイヤーとまったりレベリングしてるギルドも多かったり、なんというかワールドクエストが他人事っぽい感じに……」


 確かにワールドクエストを必死に追いかけなくても、十分楽しめる要素が他に存在しているのは確かで、それはそれで嬉しい話でもある。

 ただ……


「なんで、そんなさっぱりしてるの? 死霊都市を独占しようとしてるギルドはガツガツしてるけど、やっぱり差がありすぎない?」


「だいたい島の影響ですね。

 ここ最近は特に食を改善しようって動きがすごくて。少し前はカムラスでしたけど、今はレッペリンですね。コショウがお高いですし。

 あと幻獣や妖精を探してる人たちとか、家を自力で建てたい人たちとか、畑を耕してれば満足な人とか、釣りをしてれば満足な人たちとか……」


「バタフライ・エフェクトかー……」


 ポツリとつぶやいたミシャPの言葉にGMチョコが渋い顔をする。


「あの映画、あんまり好きじゃないんですよね。いや、すごくよくできた映画ですけど……」


「救いの無いエンディングって感じだよね……

 じゃなくて、普通にバタフライ効果の方の話。『ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?』ってやつ」


「彼の場合はそんなささやかな羽ばたきじゃないと思いますけどね」


 GMチョコが笑って答え、残っていたコーヒーを一気に飲み干した。

 既に日付が変わろうという時間。絶賛残業中なので、さすがに上がるつもりらしい。


「2週間様子を見て、ダメそうならプランBで」


「プランB了解」


 もちろんプランBとは『あ? ねぇよそんなもん』である。

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