第227話 管理者

「ちょっと休憩……」


 MPを8割近く、300以上入れても、特大魔晶石の1割ちょい。

 まあ、もう1回やれば2割は超えるだろうけど……


『大丈夫ですか?』


「うん、大丈夫。MP空になるとまずいから、休憩しないとだけど」


 俺がMPを注いでる間、フェアリーたちは部屋の中をふらふら飛び回って、何か落ちてないか調べてくれている。

 そして、


「ワフ」


「あ、そっちはやっぱり崩落した場所?」


「ワフン」


 先にそっちを確認すべきだったよなと思いつつ、右手奥に繋がっている通路の先を伺う。

 大きな岩盤が崩れ落ち、完全に通路を塞いでる光景は間違いなく、


「この向こうだな……」


 となると、部屋の南側の壁が展望台のところに出てるはず?

 地図の縮尺に間違いがなければ、部屋の南側の壁に穴を開ければ、展望台の端っこぐらいに出れそうだよな。


「〜〜〜!」


「いやいや、そんな早く回復しないから……」


 スウィーがはよマナ補充しろと急かしてくるんだけど、さすがにそんなすぐには回復しないし。


「ワフ〜」


「ああ、ルピ、ありがとう。なんか、MPもらってばっかりな気がするよ」


 マナエイドはその分、ルピのMPが減るはずなので、あまり無理はさせたくない。

 小サイズの魔晶石が、ムカデとルーパグマ2匹分あるし、あれも普段持ち歩くことにするか。

 というか、前の部屋で見つけた蒼月の指輪を身につけたら、MP回復量が倍以上になるんだよな……

 インベントリから蒼月の指輪を取り出して、もう一度鑑定。特に変なところはないし、大丈夫な気がしてきた。


『指輪、試してみるつもりですか?』


「うん。大丈夫そうかなって。ああ、ルピ、これって変だったりしない?」


 手のひらに乗せたそれをルピに見せると、お手のように前足を置いてもにゅもにゅしてくれる。

 ルピの肉球がすごく気持ちいいんだけど、今はそれを堪能してる場合じゃない。


「MP回復早めたいし、つけてみるよ」


『は、はい……』


 指輪ってサイズとかどうなんだろうって気がしたんだけど、邪魔にならなそうな左手の中指に通してみる。

 うん、ゲーム特有の謎のサイズ可変っぽい。


『大丈夫ですか?』


「大丈夫。特に気分が悪くなったりとかもないし……ちゃんと外せるよ」


 呪われた装備品とかって、だいたい外せないもんな。

 そういう物があるのかとか、判定方法だとかは、明日にでもベル部長に聞こう。


 しばらく待ってMPが9割まで戻ったので、また魔晶石に注ぎ込む。

 そして、充填率が2割を超えたところで、ぱっと天井が明るくなった。


「ふう……。しかし、これ毎回やるのは大変なんだけど、何日ぐらい持つのかな」


[非常用マナの充填を確認しました。保全状態を終了し、再起動します]


「『え?』」


 天井? なんか聞こえてきた言葉の後に、照明が二度三度と明滅する。

 なんかやばいことになりそうな予感が……


「いったん部屋を出よう! みんな近くに!」


 来た通路に出て中の様子を窺っていると、照明が一段明るくなって安定し、


[再起動が完了しました]


 という声が聞こえてきた。


『再起動って何でしょう?』


「うーん、この古代遺跡ってマナリサイクル施設とかいう話だったから、そのシステムが再起動したとか?」


『あ、そうですね。ひょっとして……厄災の影響で停止してたんでしょうか?』


「あー、そういうことか」


 厄災が起きて、マナが少なくなって、通常稼働できなくなったから、保全状態ってのに移行してたって感じか。


「〜〜〜?」


 スウィーがほっぺたをツンツンと突き「どうすんの?」と急かす。

 単純に再起動しただけなら、おかしなことは起きないよな。多分だけど……


「行ってみようか」


「ワフン」


 改めて部屋に入ると、さっきまでサイドテーブルだった部分に、なんだか複雑な魔法陣が浮かんで光ってて……これ自体が魔導具、いや、魔導施設ってことか。


「なんかすごいな。オーバーテクノロジーってこういうのなのかな……」


『すごく神秘的です』


 意味は全くわからないけど、端からふんふんと眺めていると、


[ようこそ。指輪をはめた状態で、所定の位置に手を置いてください]


「うわ!」


 テーブルの中央に来たところで、いきなりそう声が響いてびっくりする。

 所定の位置とかいう場所を示してるのか、テーブルの手元近くに手のひらほどの丸い枠がちかちかと点滅していて……


「これだよな」


『指輪はその指輪でいいんでしょうか?』


「多分? さっき鑑定した時に、古代魔導施設の最上位管理者が〜って書かれてたし」


『試すんですよね?』


「ここまで来たらね」


 さっきの指輪チャレンジでちょっと吹っ切れた。

 今さらこの指輪が違うとかでも、いきなり電流が流れたりはしないはず。

 一応、気をつけるように皆に伝えてから、そっと左手を置くと、


[確認中……完了しました。管理者情報が初期化されているため、管理者登録を実行します]


 そう聞こえ、丸い枠の点滅が消えたので手を離した。

 置きっぱでないとまずいなら、点滅が続いてるはずだし。


『管理者登録って何でしょう?』


「この古代遺跡の管理者じゃないかな」


『え? それってショウ君が……』


「だよなあ」


 どういう仕組みかさっぱりわからないけど、再起動したら管理者情報が消えてたので、とりあえず再起動させた人を管理者にしましょうってこと?

 それってセキュリティ的に問題あるんじゃ……


[管理者登録を完了します。管理者の呼称を設定してください]


「……『ショウ』で」


[管理者登録が完了しました。ようこそ、ショウ。現在、本施設は再起動後の各部点検中です。特に指示がない場合、点検完了までおよそ15分です]


〖ワールド初の古代遺跡の管理者が現れました!〗

【ワールド初の古代遺跡の管理者:10SPを獲得しました】

【古代遺跡の管理者:SP獲得はありません】


「うわー……これはやらかしちゃったなあ……」


 間違いなくワールドアナウンスされてるやつ。


『フォーラム見てきましょうか?』


「ううん、いいよ。多分、誰も理解できてないと思うし」


『そ、そうですね』


 それにしても、何の問題もなく管理者登録されちゃったな。

 もうちょっとこう、事前に問いかけとかあれば、考えるとか相談する余地があったんだけど……


「なんか、アージェンタさんに話したら怒られそうな気がする」


『それはないと思いますよ? この島の魔導具はショウ君が自由にして良いという話でしたし』


「うーん……。ともかく、戻ったらアージェンタさんに手紙を書くよ」


『そうですね』


 怒られたら、新作の甘味でも送って許してもらおう……

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