第224話 名も無き女神像

『ショウ君、その扉は解錠コードが必要な方に見えます』


「うわ、マジか……」


 解錠コードって言われると、山小屋の記録で見た例の4桁しか知らないんだよな。

 いや、でも、この扉があの番号で開けば、制御室に繋がってる可能性大か。

 それと……


「アンデッドがいるかも……」


『あ……』


 あの広い地下やそこから上がった通路にいたアンデッド。

 あれは多分、厄災から逃げてきた人たちなんだろうけど、解錠コードがわからなくて詰んだんだと思う。

 崩落現場の向こう側に制御室があるんだとしたら、そこまで逃げてきてた可能性があるわけで。

 崩落があった日と厄災があった日はどっちが先なんだろ? あ、記録には崩落の話がなかったし、崩落の方が後で確定か。


「ワフ?」


「ごめん。この扉が開いたら、アンデッドが出てくるかもだから、注意しような」


「ワフン!」


「〜〜〜♪」


 精霊の加護を掛けて準備万端。

 これで例の番号で開かなかったら凹む。


【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。解錠コードを入力してください】


「4725」


【解錠コードが合致しました。解錠しますか?】


「はい」


 ぐっと押し込んで開くと、隙間から中が真っ暗なのがわかる。

 そして、気配感知に多数の反応……


「あかりを」


 光の精霊から出たあかりが浮いたところで、一気に押し開ける!

 扉の前にいた、鎧を着たスケルトンが突き飛ばされて後方へと倒れた。

 ネームプレートにはスケルトンナイトと書かれてて納得。地下で会ったジェネラルよりは弱いよな。


「行くぞ!」


「ワフ!」


 剣鉈を抜き、円盾を構えて……の両脇を光の矢が飛んで行く。


「は?」


 通り過ぎた光の矢が、こちらに近づいてくるゴーストに刺さって、そのまま吹き飛ばすんだけど……

 振り向くと、三人一組になったフェアリーが手を繋いで輪になってて、


「〜〜〜!」


 スウィーが腕を振り下ろすと、輪の中からあふれ出た光が矢となってゴーストへと飛んでいく。


「マジかよ……」


『すごいです!』


「ソロなのにアライアンスプレイまで出来るとか最高だな!」


「ワフ!」


 スウィーとフェアリーたちには負けてられない。

 光の矢を追いかけるようにダッシュし、目の前の骨、スケルトンナイトを袈裟がけに。

 着込んでいる鎧の肩口で止まる剣鉈をそのまま押し込んで、


「そらっ!」


 前屈みになったスケルトンナイトの胸板に前蹴りを浴びせて後方へと吹き飛ばす。

 玉突きになって後ろにいたスケルトンナイトも倒れたところに、


「バウッ!」


 ルピの右前足の一閃が倒れたスケルトンナイトの頭にヒットして、兜と頭蓋骨だけが飛んでいく。

 随分と強くなったよな。今ならアーマーベアにも勝てるんじゃないかって気がするよ。


 向こうは同士討ちを気にせずに、火球や石弾の魔法を撃ってくるんだけど、その都度、スウィーとフェアリーたちが的確な精霊魔法、水の盾や風の盾(?)を使ってそれを防いでくれる。


『スウィーちゃんたち、すごいです!』


「〜〜〜♪」


 きっと調子乗ってドヤ顔してるんだろうなと思うものの、助かってるのは確かだし、さっさとこいつらを片付けちゃおう。

 殲滅スピードを上げて、一体、また一体とスケルトンナイト、ゴーストを倒して前進。

 あかりが照らし出す範囲にはアンデッドが居なくなって……


「っ!」


 前方から飛んできた白い何かを円盾で受け止めると、バキッと鈍い音がしてそれが地面へと落ちた。

 え、これって……つらら?


「バウッ!」


 それが今度は三本飛んできて、一本は円盾で受け止めたが、二本は後ろへと!


『ああっ!』


「スウィー!?」


「〜〜〜!」


「良かった。俺の後ろに隠れててくれよ……」


 気配感知にこれでもかと主張してくるそれが、ゆっくりと近づいてくる。

 あかりに照らされているはずの場所が、なぜか薄暗く侵食され……

 じっと眼を凝らした先に現れたのは闇の中に浮かぶ赤い目。


【マルーンレイス】


「……スウィー、フェアリーたち連れて扉まで逃げて」


 振り向かず告げる。

 正直、一瞬でも目を離すとヤバい気がして、目も頭も動かせない。

 扉から外へと出れば、陽の光を嫌って追いかけてこれないはず。

 俺とルピとでどれくらい時間を稼げるか……


 ブゥン


「えっ?」


 気配が消え、次の瞬間に、


「まずっ!」


「ワフッ!」


 真後ろ、スウィーたちが逃げる先に奴が!


「間に合えっ!」


 飛んでくる火球に円盾をぶつけるように割り込むと、ゴブマジの火球とは比べようもない爆発が俺を吹き飛ばした。


『きゃっ!』


 ぐっ! スウィーたちは?

 吹き飛ばされた俺に巻き込まれただけで、直接のダメージはないっぽい。

 で、俺のHPは一気に7割近く削られた。

 コプポを飲んでHPは半分近くに戻ったけど、残るポーションは笹ポ1本だけ。


「ガウッ!」


 ルピが駆け出し、ジャンプして前足で攻撃を仕掛けるが、マルーンレイスが再び消え、2mほど下がった場所に現れる。

 裏に回られたのもそうだけど、準備動作無しでショートワープするのか。


「ヴヴゥ!」


「ルピ、落ち着いて。こっちへ!」


 完全にキレてるっぽいルピに声を掛け、いったん下がらせる。

 逃げようとしても相手が回り込んでしまう以上、ここで倒すか、突っ切って扉の外に出るしか……


「wейгхтедфиелд……」


「なっ!?」


 体が一気に地面へと押し付けられ、手に持っていた剣鉈と円盾ごと石畳に叩きつけられる。

 なんだ、これ!

 ルピも伏せの体勢を強いられて歯を食いしばってるし、スウィーやフェアリーたちも地面に這いつくばって苦しそうな顔。


「……」


 マルーンレイスがゆっくりと闇を纏って近づいてくるのが見える。

 何かしないとと思うものの、剣鉈が重くて持ち上がらない!

 何か! 何か考えろ! あいつに効きそうな物! 塩! 違う!


『ショウ君!』


 ミオンの素の声が脳を揺さぶって、ボケた俺の意識を覚醒させた。

 ああ、あれがあった!


「困ったときの女神頼み!」


 剣鉈を手放し、インベントリからのっぺりした女神像を何とか取り出す。

 もうちょっとちゃんとした女神像だったらなと思いつつ、精霊の加護とマナを巡らせる。

 罰当たりかもだけど、こいつをぶつければ……


「うわっ!」


 女神像から溢れ出した翡翠色の光が一気にあたりを明るく照らし、マルーンレイスの纏っていた闇を打ち払う。

 そこに見えたのは、宙に浮くボロボロのローブとその中に見える赤い目だけ。


「югггяаа!」


 苦悶の声(?)をあげつつ後ずさるマルーンレイス。

 体を押さえつけていた圧も一気に解けて……


「ガウッ!」


 先に動いたルピが一気に距離詰めてローブを薙ぐと、それは紙のように引き裂かれてはらりと落ちる。

 気がつくと濁った血のような赤い目はもう無くなっていた。

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