第222話 油断大敵

 ご飯も食べて、さっそく灯台裏へと。

 ひょっとしたら、山小屋の方か教会の方へ抜けれるかもなので、持って帰るものはインベントリとバックパックに突っ込んだ。


「相変わらずというか、謎に広い通路だよなあ」


『何か大きなものを運び入れたりとかでしょうか?』


「なるほど。船から下ろしてここから運び入れてたのかな?」


 もしくは運び出してた? でも、何を運んでたんだろ?

 というか、地下にアージェンタさんが転移してきた大部屋があったんだよなあ……


「よし! じゃ、開けるよ」


「ワフ!」


「〜〜〜♪」


【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。解錠しますか?】


「はい」


 両手にそれぞれ取っ手を握って……引いて開ける。

 気配感知にモンスターがいる感じはないが、暗くて見通せない。と思ってたら、フェアリーたちが小さな灯りを3つ4つと出してくれ、入り口部分が淡く照らし出される。


「広いな……」


「ワフ」


 ルピがするするっと先行し、あちこち見回して警戒してくれてる風。と、スウィーが肩から離れて足元をふらふらと。


「ああ、例のアレがあるかもか」


『非常用のですね』


 照らされてる範囲を見ると、広い通路がそのまま続いてるのかと思ったけど、左右に1mほど高くなっている凹型みたいな部屋。


「ん? あれかな」


 向かって左の段を登ったところに見える謎の小窓。スウィーが飛んでいくのを追いかける。

 近くまでくると、あの地下の大部屋で見つけたアレにそっくりだし、間違いないと思うけど。


「これってアレで合ってる?」


「〜〜〜♪」


 スウィーがサムズアップするので間違いないさそう。

 そっと下から上へとスライドさせると、中サイズの魔晶石が現れたので、ゆっくりとマナを注ぎ込む。

 2割ほど入れたところで天井が明るくなって、一気に部屋全体が見渡せるように。


「おお?」


『広いです』


「すごいな」


 アージェンタさんが来た地下ほどでもないけど、うちの高校美杜大付属の体育館ぐらいある大部屋。

 この通路から続いてる凹んだ部分は奥までまっすぐ続いてる。こういうのってどこかで見たような……


「あー、これって段の上が駅で、今歩いてる部分は線路なのかな」


『あ!』


 電車の代わりに船かなと思ったけど、ここまで水入るのかな? いや、魔法がある世界だし、ホバークラフト的な船とかありそう。


「ワフ」


「上を調べようか」


 一足飛びに段の上へと飛び上がったルピに急かされ、俺も左側へと上がる。

 特に目立って何かがあるわけではなくて、いや、左手奥に通路が繋がってるっぽい。

 対岸、右側に目をやると、こちらほどの広さはなく、二人並んで歩けるぐらいで何もなしと。


『奥に行きますか?』


「うん。方角的には島の中心? 制御室の方向に行きそうだしね」


 転移エレベーターとかがあるから、実際に向かってる方向と一致してるとは限らないけど……


「ワフン」


「うん。気をつけてな」


 ルピが先行してくれ、スウィーは定位置。フェアリーたちは俺の後ろを警戒してくれている。

 ゆっくりと進んでいたルピの足が止まり、気配感知に何かが引っかかった。


「スウィー、危なくなったらみんなで逃げろよ」


 頷いて肩を離れるスウィー。

 ゆっくりとルピに近づくいていくと、繋がっている通路から現れたのは、毒々しい色の粘体。

 そして、浮かび上がるネームプレートは赤く【ベノマスライム】という表示。

 しまったな。まさかこんなところにスライムが出てくると思ってなかった……


「ヴヴゥ〜」


 ルピが四肢を踏ん張って唸る。

 切らずに叩いて潰していくのが一番いいらしいけど、打撃武器持ってないんだよなあ。


「うわっ!」


 突然、体の一部から吐かれた液体に、慌ててスウィーとフェアリーたちをかばう。

 その液体が掛かった肩口から背中全体にかけて、ピリピリとした痛みが走り、精霊の加護を掛けてなかった自身の間抜けさに気づく俺。


『ショウ君!』


「っ! 加護を!」


 精霊石から湧き出た光が体を覆い、MPと引き換えに痛みを抑えてくれるんだけど……なんだか意識がふわふわして……目の前が霞んでて……これ毒か!

 てか、カムラスのコンポートに抗毒Ⅱがついてんだから、俺とルピも食べとけば良かったんじゃん。何やってんだか……

 レクソンから作った解毒薬を取り出して一気にあおる。


「うぇ……にっが……」


 その苦さのおかげなのか、意識も視界もしゃっきりと元通りに。

 ついでに、笹ポも取り出してあおると、4割近く削られたHPが戻り始めた。


『大丈夫ですか!?』


「「「〜〜〜?」」」


 ミオンだけでなく、スウィーやフェアリーたちも心配そうに俺を見てて、ちょっと恥ずかしい。

 今回は完全に俺の不注意というか、油断しすぎだ……


「じょぶじょぶ。ちょっと調子に乗ってた」


 ナットの話だとスライムは別段強いというわけでもなかったけど、ちゃんとしたパーティで相手するのと、俺とルピだけで相手するのとじゃ、当然話が変わってくるわけで。


「ヴヴゥ〜バウッ!」


 その声に振り向くと、ルピの前足の攻撃がベノマスライムにヒットし、その一部を削ぎ取って、奥の壁へと吹き飛ばす。

 が!


「水の盾!」


 ちぎれた場所からルピに向かって飛ばした毒液を水の盾で遮る。

 攻撃した場所から反撃してくるのはわかりやすいけど、めんどくさい相手だな。

 ルピも理解したのか、襲い掛かろうとし、やめてを繰り返してて、


「ルピ、無理はしなくていいぞ」


「ワフゥ」


 申し訳なさそうな声を出すルピ。

 俺がなんとかしないとだけど、火球はちょっと打ちづらい。となれば……


「<石礫>!」


 突き出した手の先から放たれた石礫がベノマスライムにガンガンと突き刺さり、そのまま後ろへと押していく。

 で、反撃が来る前に、


「<落石>!」


 上空から縦横1m四方の石壁が落ち、ベノマスライムをぺしゃんこに押しつぶした。


【キャラクターレベルが上がりました!】

【精霊魔法スキルのレベルが上がりました!】

【元素魔法スキルのレベルが上がりました!】

【応用魔法学<地>スキルのレベルが上がりました!】


「ふう……」


 どうやら倒したっぽい。気配感知は……大丈夫そう。

 ほっと一息ついて、精霊の加護を解除する。


「勝ったのは良いけど、油断しすぎてたな……」


『すごいです!』


「ワフ!」


「「「〜〜〜?」」」


 ルピが嬉しそうに戻ってきて、スウィーとフェアリーたちも合流。

 フェアリーたちがまだ心配してくれてるみたいで、


「大丈夫だよ」


 そう答えると、


「〜〜〜?」


「「「〜〜〜♪」」」


 スウィーとフェアリーたちが話し始めたのは何なんだろ?

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