第221話 灯台裏へと

「ばわっす」


『ショウ君』


 夜。いつもより早い7時半すぎだけど、バーチャル部室にはミオンだけ。

 美姫は夕飯を食べてすぐにIROへ。ベル部長のライブで魔術士の塔のさらに上を目指すらしい。


『お昼はゆっくりできましたか?』


「あ、うん。ナットが来て格ゲーしてた」


 昨日のライブが終わった後、今日の昼は休むことを伝えてた。

 休むとか言いつつ格ゲーしてたってのもどうかなって思ったけど、ミオンは全然気にしてないのか嬉しそうな顔。


「ミオンは?」


『はい、短編動画を作ってました。見てもらえますか?』


「うん」


 ミオンが見せてくれたのは、俺が料理してる部分をレシピ動画風にまとめたものがいくつか。

 フォレビットとルディッシュの塩煮込みだったり、パーピジョンの唐揚げだったり……

 ああ、うちのライブからの切り抜きはあちこちにあるけど、ライブじゃない料理で、動画に残せてないものか。


「すごく良いと思う。一応、月曜にヤタ先生に見てもらってからかな?」


『はい』


 ちょっと緊張してた感じだったのが、俺の言葉でホッとして、すごく嬉しそうな顔になる。

 それがまたすごく可愛いから、リアルでもこれくらい表情豊かな感じになって欲しいんだよな……


『どうかしましたか?』


「あ、えっと……そうそう! 衣装を新しくしないとって」


『あ、そうですね。水曜日は視聴者さんに誤解させちゃったみたいですし。あの……』


「うん。俺もスタジオ行くよ」


 ミオン的には俺が選べばなんでもって感じなんだろうけど、今回はちゃんと二人で相談して決めたい。

 ナットに普通を目指せって言われたけど、普通は相談して決めるよな?


『はい!』


 とりあえず、教会裏の畑でライブする時のための衣装を選ぼうと言うことで、スタジオに。

 俺の中でのイメージはあって……小さい頃に真白姉がよく来てたオーバーオールがいいんじゃないかなって。


「色、どれがいい?」


『え? えっと、ショウ君が選んでくれたのが良いです』


「いや、ミオンの好きな色とかも知っておきたいから」


 少しずつでいいから、普通に自己主張できるようになって欲しいかな。無理にとは言わないけど。

 スタンダードなインディゴ、色あせた感じがいいライトブルー、清潔感のあるホワイトなどなど。


『え、えっと……、これでしょうか?』


「りょ。インディゴなら上は白のブラウスか、ボーダーのパーカーか……」


 二つをチョイスして渡す。

 戸惑ってるミオンだけど、普通に着替えて自分で鏡を見てみるように言うと、それぞれ身につけてから不思議そうな顔をする。


「あ、どっちもいまいちだった?」


『いえ、そうじゃないんです。ブラウスとパーカーで全然印象が違うんだなって』


「うんうん。ブラウスだとちょっと大人っぽいし、パーカーだと可愛い感じ」


 美姫なんかはまだまだボーダーの方が似合うけど、真白姉ならもうブラウスの方が似合うだろう。

 ミオンはどっちでも似合うけど、そこは本人に任せたいところ……


『両方はダメですか?』


「あ、うん、いいけど。両方同時は無理だからね」


『はい!』


 我ながら甘いなあと思うけど……

 服に全く興味がないよりは、ある方が普通だよな?


 ………

 ……

 …


「ワフッ!」


「おはよう、ルピ」


 昼はナットと遊んでたし、さっきまでミオンの服を選んでたので、ほとんど一日ぶりかな?

 寂しい思いをさせてたかと思うと申し訳ない感じ……


「ちょっと待って」


 配信を開始して、すぐに視聴者数が1になったのを確認する。

 おっと、あかりを出してもらわないとうす暗いままだ。


『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』


「ごめんごめん」


「ワフ〜」


 ミオンに返事しつつも、盛大に甘えてくるルピ。

 いつも以上に甘えてくるのは、やっぱり俺を待ってたのかな?


『ルピちゃん、寂しかったんですね』


「やっぱそうかな? ごめんな」


 ひとしきり撫で回して、やっと落ち着いた頃に、スウィーとフェアリーたちが飛んでくる。


「〜〜〜♪」


「おはよ」


 ロフトを降りて、酒場の方へと。

 テーブルや椅子はライブが終わった後、セルキーたちが運び入れてくれた。

 それだけじゃなく、食べ終わったあとの食器や調理道具の片付けまでしてくれて、さらには追加でオランジャック(アジ)を採ってきてくれたり。

 昼間の漁の手伝いっていう仕事の報酬以上に、また仕事してくれた気がしなくもなく。


「ルピはちょっと待ってな。スウィーたちは先にこれ食べていいよ」


 カムラスのコンポートはこれでラストだけど、また採りに行けばいいので出してしまおう。

 俺とルピはオランジャックの干物を焼いて食べよう。


「ワフ」


「あ、うん。開けようか」


 火を使うなら、表の扉も開放しておこう。

 ガバッと開けると……なんか微妙な空模様。


「なんか、すぐにじゃないだろうけど、雨降って来そうな気がする……」


『今日は山小屋へ戻る予定ですか?』


「うーん、どうしようかな。月曜の放課後に戻るって手もあるんだよな」


 月曜は農作業の日だけど、水曜のライブの前後でも少し手入れはしたし、絶対に戻らないとってほどでもないし……


『あの灯台裏の洞窟に行ってみますか?』


「あー、それかな。雨降ってきても、あの中なら関係ないし、なんならうまいこと山小屋まで戻る道があるかも?」


 今の時間は午後8時を回ったところ。

 8時半ぐらいから2時間ぐらい探索して、山小屋の方へ戻れればベストだけど、何も無くてもスッキリはさせときたい。

 ただ……


「スウィーはともかく、フェアリーたちは大丈夫かな?」


『あ!』


 あんまり危険な場所に連れて行くのはどうかなって気がするんだよな。

 いい感じに焼けてきた干物を裏返しつつ、考えることしばし。


「まあ、本人たちに聞くのが一番か」


『そうですね』


 ついて来るなら来るで、できるだけ無茶しない感じで行こう。


「スウィー、ちょっと相談なんだけど」


「〜〜〜?」


 俺とルピが灯台裏にある大きな通路の奥、これまた大きな扉を開けて調べに行くことを伝え、スウィーやフェアリーたちはどうするかを尋ねる。

 うーんという感じで腕組みしつつ、フェアリーたちの元へと戻ったスウィーが、皆に意見を聞いている風……


「〜〜〜!」


 くるっとこっちを向いてサムズアップするスウィー、そして、後ろのフェアリーたちも。どうやらついてくるつもりらしい。

 なんか、大人しかったフェアリーたちが、スウィーのノリに染まってきてる気がするんだけど、大丈夫なのかな……


「よし。じゃ、腹ごしらえしたら行こうか」


「ワフ!」


『あまり危ない真似はしないでくださいね?』


「うん」


 最悪、やばい状況になったら、ルピとスウィーにフェアリーたちを任せて、先に逃げてもらおう。

 あの先が制御室に繋がってるとしたら、アンデッドが出てくる可能性もあるんだよな。

 そういや、ワールドクエストはどれくらいまで進んだんだろ……

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