第218話 ニフォニーのブイヤベース

 残りのオランジャック(アジ)も南蛮漬けにして、出来上がりはすでにテーブルへと運ばれている。

 そっちは料理し終えたし、あとは1m以上あるニフォニー(サワラ)かな。

 預かってる貝類は、南側の砂浜で採れたクロムナリア(アサリ?)よりも二回りほど大きくて、


【ヘリオナリア】

『穏やかな近海に生息する二枚貝。食用可。

 料理:焼くと濃厚な味が染み出す。素材加工:殻は装飾品に使用されることがある。畜産:殻はコッコの餌として重宝される』


 ムール貝? なんか、いろいろ混じってる気がしなくもないけど、美味しい気がする。

 貝殻をニワトリ、コッコの餌にするのって、こっちでもあるんだなあ。

 もう一つは


【レッドマース】

『近海の砂泥に生息するエビ。食用可。

 料理:焼いて食べるのが一般的で甘みがあって美味』


 クルマエビそっくりというか、模様が赤いだけ。

 これはもう間違いなく美味しいやつ……


「じゃ、メインディッシュに取り掛かるよ」


『はい!』


 ニフォニー、改めて見るとでかいよな……


【ラカン】「でけえ!」

【ピューレ】「ビールおかわり取ってくる!」

【サントウヘイ】「何が始まるんです?w」

【カナカン】「レパートリー多すぎい!」

 etcetc...


 じゃ、さっそくおろそうかと思ったんだけど、


「あの、釣った魚ってスキルで解体するとどうなるんです?」


【マスターシェフ】「解体スキルのレベルによるね」

【クロード】「え、知らなかったの!?」

【ニクス】「骨と身だけ残るかな」

【メイケ】「リアルでできることは、そのままやっちゃうよね」

 etcetc...


『そうなんですね』


「知らなかったっす……」


 レベルによるけど、骨と身は残るんだったら、今回は解体スキルの方が早そうだし、使わせてもらおう。


【解体スキルのレベルが上がりました!】


「あ……」


【サーデスト】「草。いくつになったの?」

【コックリ】「おめ〜∩^ω^∩」

【ムチョル】「スキル使ったタイミングでしか上がらないから?」

【ネルソン】「マニュアル解体してた分の経験値とかありそう」

 etcetc...


 いろんなもの解体した方がいいわけだし、魚を解体するのは初めてだったからってのもあるのか。

 ともかく、ちゃんと切り身を確保できたのでよし。時短にもなるし、今後は解体スキル使っていこう。


「えっと、解体スキルはこれで8っすね」


 で、切り身はちょっと厚切りに。塩コショウしたのち、また片栗粉つけてじゅわっと。

 なんか8なのに驚いてる人が結構いるけど、クローズドベータ組とかなら、もう10でもおかしくない気がする。


『その魚も南蛮漬けにするんですか?』


「いや、ちょっと別の料理。まあ、見てて」


 いったん取り出して、代わりにヘリオナリアとレッドマースをドバッと投入。グレイプルワインを掛け、蓋をして蒸し焼きに。

 殻が開くまで少しあるので、その間に先に用意してあったトマトスープを取ってくる。


「殻が開いたところで、さっきソテーしたやつを戻して、このトマトスープを掛けて、軽く一煮立ち……」


【マルタイ】「簡単ブイヤベース!」

【ノンノンノ】「めっちゃ美味そう……」

【マスターシェフ】「煮崩れ防止にソテーしたんだね」

【カティン】「あかん(あかん)」

【デイトロン】「<ブイヤベース代:5,000円>」

 etcetc...


 貝は煮過ぎると固くなるし、いい感じのところで大皿に。

 一応、味見をして……


『すごく美味しそうです……』


「うん、美味しくできた」


 魚介のうま味とトマトの優しい味がいい感じにマッチしてる。

 あと数皿分はあるし、どんどん作っちゃおう。

 

「キュ〜♪」


「はい。持っていて食べていいよ」


『次の質問いいですか?』


「あ、うん、どうぞ」


 一度作ってしまうと、料理スキルのおかげか2回目以降がすごく楽にできる。

 手が勝手に動くとまでは言わないけど、適当にやっててもミスはしない感じ?


『教会の女神像はどうするか決めましたか? です』


「あー! それで思い出した。アージェンタさんから、小さな女神像と彩神教典って本をもらったんだよ」


 時間あったら読もうと思って忘れてた。

 あののっぺりした女神像も視聴者さんに見てもらった方がいい気がするし。


【ジャズゥ】「またやばい物の予感……」

【サクレ】「見たい!」

【マリオネラ】「甘味を送れば魔導具もらえる?」

【シェケナ】「ミオンちゃん飾ろうよ〜♪(*'▽'*)」

 etcetc...


「料理終わったら見せるんで、ちょっと待ってもらえます?」


『はい』


 というか、味見してたら本格的にお腹空いてきた。俺も早く食べたい……


「よし、こんなもんかな」


 最後の一品を仕上げて皿に盛る。

 トマトスープはまだ少し残ってるけど、これはおかわり用でいいか。


「ワフ」


「うわ、ルピも我慢してくれてたの? ごめん!」


 自分のランチプレートを前にお座りしてるルピ。そこにたっぷりとブイヤベースをよそってあげる。

 俺もと思ったけど、そういや小皿とか用意してなくってどうしようかと思ったら、


「キュ〜♪」


「あ、ありがと。なるほど」


 セルキーの一人から大きな貝殻を受け取る。

 この貝殻ってホタテ? ということはホタテも採れるの? いや、それは後でいいや。


「じゃ、いただきます!」


「ワフ!」


 切り身を一口がぶっと……


「うまい……」


「ワフ〜」


【シェケナ】「ぐぎぎぎぎ……o(`ω´ )o」

【イザヨイ】「お取り寄せできませんかね?(涙)」

【バイタミン】「明日の夜はブイヤベース!」

【ニクス】「さっそく明日作ろ♪」

 etcetc...


 ざっと見渡しても、セルキーたちはどれも美味しそうに食べてくれてるっぽいし、これで報酬としては十分なのかな?


『今回は卵は使わなかったんですね』


「うん。ちょっと思いつかなくて。何かいいレシピとかあります?」


【ラクカジ】「小麦粉あれば天ぷらなんだけどなあ」

【サブロック】「う巻き! は無理か……」

【スギコー】「卵だけだと難しいねえ」

【マスターシェフ】「すり身に卵と片栗粉でつみれ焼きとかだね」

 etcetc...


「ああ、つみれ!」


 切り身のイメージでしか考えてなかったなあ。なめろうとかも作れるのか……


『お砂糖も手に入るようになりましたし、あとは牛乳ですか?』


「かな? とりあえずプリンは作れるようになるし」


 コメント欄からも、牛乳があればバター、チーズ、ヨーグルトと話題が広がって、豆乳っていう話が! グリシンあるんだから豆乳作れるじゃん……

 あと、ヤコッコが降りてきた崖の上を見に行った方がいいんじゃないかっていう意見も。山羊がいるかも? とか。


「確かにあの上、ちゃんと見とかないとまずいか……」


『どうやって上りますか?』


「はしご作るのが一番かなあ」


 石壁で階段を作れなくもないかと思ったけど、行き来できる道を作っちゃうのはどうなんだろうっていう。でも、はしごだと、ルピがついてこれるかっていう問題が。


『ショウ君、そろそろ女神像と本の話をいいですか?』


「あ、おけ。ちょっと待ってね。えっと……ありがとう」


 空になった貝皿に気がついたのか、セルキーの子がそれを下げてくれた。

 で、ちょうど王子くんがこっちに来たので、カムラスのコンポート、今回は砂糖を使った普通のやつを渡しておく。


「みんなで食べて。スウィーやフェアリーたちも」


「キュ〜♪」


「〜〜〜♪」


 それを見送ってから、改めて腰を下ろし、あぐらをかいた足の中に収まったルピを撫でつつ……


「まずはこれっすね。もらった女神像なんだけど、ちょっとぼんやりした感じで……」


【名も無き女神像】

『古代魔導文明の時代に各家庭に置かれていた女神像。どの女神の像かは不明』


 鑑定結果を見せたんだけど、コメント欄も困惑というか、そんなの見たことないという話がずらずらと流れていく。

 やっぱり、この女神像はなんか違う感じなのかな……

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