第217話 オランジャックのエスカベッシュ

『みなさん、ミオンの二人のんびりショウタイムへようこそ!

 実況のミオンです。よろしくお願いします!』


【コクド】「はじまた!」

【ベアメン】「<ショウタイムの始まり〜ヽ(´▽`)/:1,000円>」

【キャリコ】「今日はどこから〜?」

【モルト】「<飯テロ希望!:1,000円>」

 etcetc...


『いつもありがとうございます。今日、ショウ君はまた港の方に来ています。あ、ショウ君のお料理もありますよ』


 その言葉にセルキーの王子くん、そして飯テロへの期待コメントがすごい勢いで流れていく。

 あれ? 王子ってわかったのって、ライブの後だっけ。まあ、うん、流れで話すことがあったらでいいか。


『では、さっそく島に繋ぎますね。ショウ君、ルピちゃん、スウィーちゃん』


「ようこそ、ミオン」


「ワフン」


「〜〜〜♪」


 ルピやスウィーへの声援が落ち着くのを少し待ってから、予定通りのセリフで今日のライブの説明を促される。


『今日のライブは何を?』


「えっと、昼のうちにセルキーと魚を採ったりしたから、それをごちそうするだけのライブかな?」


 さっそく人気者っぽい感じのセルキーなんだけど、あの子一人じゃないんだよな。

 あの30人近くが来たら、どういう反応になるんだろ……


『はい。では、さっそく呼んでもらえますか?』


「りょ。えっと、この呼び子をもらったんだけど、これを吹けば来てくれるんで」


 前と同じように軽く吹くだけで、澄んだいい音が湾内に響き渡る。

 そして現れるセルキー……たち。


【ゴッソル】「おおー!」

【ナタイ】「は?」

【ロッサン】「ちょw 増えてるww」

【ナシゴレン】「ショウ君、すでに王なのでは?」

【ラッカサン】「別ゲーだこれ!」

 etcetc...


「「「キュ〜♪」」」


 セルキーのみんなが陸に上がって来てくれたのはいいんだけど、皆それぞれ魚を抱えてるし、さっそく料理に取り掛かろう。


「えっと、持ってきた魚は、いったんここへお願い」


 石壁で作った洗い場みたいなところに、魚を預からせてもらう。

 まずは、オランジャック(アジ)のカルパッチョを前菜として用意しよう。


「じゃ、料理してる間は質問タイムを、できればゆっくりで」


『はい!』


 流れ始める質問を横目に、カルパッチョは前も作ったやつなのでサクッと。

 オランジャックをおろして薄切りにし、塩を振っておく。

 ライコス(トマト)、レクソン(クレソン)、塩茹でした青いグリシン(枝豆)を加えて彩り豊かに。

 ちょっと青臭いかもなので、グリーンベリーをぎゅっと絞り、レッペリンから作った黒コショウをぱらっと。


【ナンツウ】「コショウ!」

【マスターシェフ】「島にコショウあるのかい!?」

【リンレイ】「え? コショウ、マジ?」

【イマニティ】「うわ〜! 輸出してくれ〜!」

 etcetc...


 ん? コショウってそんなレアな食材、調味料なのか? 量が少ないとか品質がいまいちとかそういう?


「っと。出来上がった分からテーブルへ持って行って食べていいよ」


「「「キュ〜♪」」」


 年長なセルキーが配膳を手伝ってくれるっぽくて助かる。

 小さい子たちが美味しそうに、野菜もしっかり食べてくれて一安心なんだけど、大人(?)数人が俺の料理の様子に興味津々。

 そういや、普段はどういう食事してるんだろ? やっぱり生魚をお刺身で食べてるとかそういう感じ? 包丁使ったことあるんだろうか……


『ショウ君、最初の質問です。セルキーの皆さんとショウ君の関係について教えてください』


「あー、関係かー。えっと、まず、彼らを呼んでお仕事をお願いしたら、その分の報酬を払わないといけなくて。

 今、ご馳走してるのは、昼に魚介類を採るのを手伝ってもらった報酬になるのかな」


【マルサン】「雇用関係!」

【メルソウ】「なんかきっちりしてるね」

【マットル】「それってシステム的な制約なの?」

【ドライチサン】「言葉は通じてる?」

 etcetc...


 ああ、そうか。前提のアレを見せてないからか。

 どうせだし、精霊魔法+1の件もバラしちゃおう。


「えっと、最初に会ったセルキーにこれをもらって」


 ちょっと手を休めて、首に掛けてあるセルキーの呼び子のペンダントを。

 鑑定結果を見てもらうのが一番早いはず。


【ビジョナー】「ちょ! またとんでもないブツが!w」

【ミイ】「精霊魔法+1!?」

【ルファン】「水泳、潜水も地味に良い!」

【セイキ】「その隣に見えるの何?」

【ディアッシュ】「え、それってミスリルじゃね?」

 etcetc...


『あ、精霊魔法+1はショウ君がペンダントにしたらついたんですよね』


「うん。あと、このホルダーは魔銀ミスリルっすね」


 このペンダント周り、もう全部バラしても大丈夫だよな。

 いや、ルピのお母さんの牙のペンダントの件は一応伏せて、ミオンから話が来た時に話そう。


「キュ?」


「ああ、ごめんごめん」


 セルキーの女の子二人が俺の手が止まってるのに不思議そうな顔。

 ミオンからの声が聞こえてるのって、ルピもそうだし、スウィーも? セルキーの王子くんはどっちだろう……


「キュキュ〜♪」


「へ? あ、えっと、包丁使える?」


「キュ!」


 なんか、任せてって感じの返事だったので、インベントリから予備の包丁を一本取り出して預けてみることに。

 ちゃんと扱えるのかなとかなり心配だったんだけど、器用に包丁を扱ってて、綺麗な三枚おろしにしてくれる。


【マスターシェフ】「お見事!」

【サック】「どうやって包丁握ってるんだ?」

【イナカヤマ】「料理スキル高そう!」

【フェル】「謎すぎて笑うw」

 etcetc...


「え? えっと、次はこう薄切りに……」


「キュ〜♪」


 やって見せると、あっさり同じことをやってくれる。

 で、もう一人の方が、


「キュキュ?」


「え、ああ、この後はこうやって……」


 塩茹でしてたグリシンは中身の豆を、レクソンは手でちぎって入れる。

 調味料の作り方、最後のグリーンベリーと黒コショウの仕上げを見せると、あっさりとマスターしてくれた。


『すごいです!』


「これ、俺が作らないと報酬にならない気がするんだけど、いいのかな?」


【シェケナ】「魚以外の材料出してるからOK(*'▽'*)」

【マスターシェフ】「教えるのも報酬のうちだよ」

【デイトロン】「<授業料:5,000円>」

【メッセレン】「ミオンちゃんもショウ君に料理習お?」

 etcetc...


 ああ、魚以外は確かにこっちから出してるからいいのか。

 教えるって程のことでもないと思うけど、やりたがってるから大丈夫?


「じゃ、これは任せて揚げ物作るかな」


『はい。あと、ペンダントの話が途中で』


「ああ、ごめん! 魔銀ミスリルは遺跡の採掘ポイントから掘れたんだけど、それが手の届かない位置にある場所でさ」


 残りのオランジャックをおろし、塩と白コショウを振りつつ話の続きを。ぼちぼち、フライパンあっためておかないと。

 手の届かない場所は以前説明したっけ? そのうち梯子でも作ってとか思ってたけど、土木魔法の掘削が使えるんじゃって試してみたら上手くいっちゃってっていう。


【シデンカイ】「掘削の魔法で掘れるのか」

【アクモン】「ソテー? ムニエル?」

【ミンセル】「今の白コショウなんじゃ……」

【ドンデン】「話も料理も気になって頭入らん!w」

 etcetc...


魔銀ミスリルはあの後、全然掘れなくなりましたね』


「そうなんだよな。まあ、アクセサリにちまちま使ってる感じなんで……っと、そろそろいいかな」


 オーダプラから作った片栗粉を木皿に出して、切り身にパタパタやってから、ごま油を敷いたフライパンに投入。

 じゅわっといい音がして、ちりちりと油が弾けて香ばしい匂いが……


『この前、うちで作ってくれた二色揚げとは違う感じですか?』


「あ、うん、あれとは違うよ」


 え、それ言うのって思ったんだけど、時すでに遅し……

 コメント欄は俺が爆発しないといけない感じになってるけどスルーしよう。

 しっかり焼けるまでに、水に晒したルディッシュ(大根)、水煮した仙人筍を細切りに。


「で、グレイプルビネガーに砂糖を溶いて、焼き上がったのと野菜を一緒に投入すれば完成かな。しばらく待った方が美味しいけど……。うん、美味い」


 程よく冷めたオランジャックに、甘酸っぱいグレイプルビネガーとシャキシャキ野菜がとても合う。


【リンレイ】「南蛮漬け!」

【ガフガフ】「うわー、南蛮漬けじゃん。絶対美味いやつ……」

【メシスキー】「白ごはん欲しい〜」

【デイトロン】「<南蛮漬け代:5,000円>」

 etcetc...


『南蛮漬けっていうんですか?』


「うん。俺も名前の由来は知らないけどね」


 やっぱり江戸時代とかに伝来してきたのかな?

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