第213話 誰でもという訳もなく
部活でのIROはコショウの採集と加工で終わり。
実が熟して赤くなったものは、水の精霊にお願いした流水に浸けてしばらく待つことで、うまく果皮が外せたので、問題なく白コショウになった。
日持ちする分、たくさん作ってあって問題ないし、これで土曜にセルキーにアジのムニエルとかごちそうしてあげられそうかな。
ムニエル? ソテー? まあ、焼き魚でいいか……
「よし、行こうか」
「ワフ!」
「〜〜〜♪」
「「「〜〜〜♪」」」
いつもの3人に今日はフェアリーたちもついてくる。
展望台から南側にブルーガリス(テンサイ)がないか探しにいく予定。
『忘れ物はないですか?』
「うん。アージェンタさんからも特に手紙とか来てなかったし、必要な物は持ったよ」
ルピを従え、スウィーはいつも通り左肩。けど、今日は後ろ向きに座ってて、ついてくるフェアリーたちとおしゃべりしてる感じ。
何を話してるかはわからないけど、声がみんな綺麗なせいか、ちょっとした歌っぽくてファンタジー感。
「そういえば、セスに聞いたんだけど、他にも無人島スタートした人が配信してるらしいよ」
『あ、私も椿さんから聞きました』
「え? 椿さんも配信見てるの?」
『はい。もちろんですよ』
そりゃそうか。普段からミオンを見守ってて、うちの配信は見てないのも変だよな。いや、うちだけじゃなくて?
「他のプレイヤーの配信も?」
『はい。将来的にスカウトすべき人材がいるかもしれないと。部長もそうですね』
「あー……」
ベル部長は自分で全部やってるみたいだけど、面倒だったら誘っちゃえばいいのか。
でも、それだとお財布が一緒になったりしちゃうのもなあ……
『他の無人島スタートした人は、かなり苦労してるって聞きました』
「そうなんだ。苦労……なんだろ? 地べたに寝ないといけないこととか?」
『あの、そういう話じゃないです……』
ミオンの話だと、まずソロプレイでチュートリアルもなく、何をしていいかわからないところで大変らしい。
「いや、それって公式ページに書かれてたじゃん」
『読んでない人が多いんじゃないでしょうか』
俺も読まない側の人間だから反論できない。
そういう人たちが苦労するのは、しょうがないというか……
「いや、でもなあ。元素魔法で水が出せて、火がおこせるんだし、ナイフもあってバイコビット狩れば肉も手に入るし」
さすがに運営もガチサバイバルさせるつもりはないだろうし、チュートリアル無くてもなんとかなると思うんだけど。
『椿さんが言ってましたけど、大丈夫だと思って始めてみても、ずっとソロプレイしてるのが大変だって』
「ソロプレイってわかってて始めてるんじゃないのか……」
『無人島スタートでライブ配信すれば、誰かが見に来てくれると思ってた人が多いみたいですね。
あと、視聴者さんにいろいろ言われて喧嘩になっちゃったりとかも……』
「うわあ……」
俺だって、あーしろこーしろ言われたら……黙って配信から蹴り出すだろうなあ。
「そう考えると、俺がミオンに見つかったのってラッキーだったんだな」
『運命ですね』
「はい」
まあ、運命的な出会いだったことは確かだよな。
その後にいろいろあったことも含めて……
「ワフ!」
「もちろん、ルピとの出会いもだよ」
僕もとちゃんと主張してくるルピが可愛い。
十字路を右に、階段を上って転送エレベーターを抜けると、いつもの崩落通行止めのところに到着。
「〜〜〜♪」
「お、さんきゅ」
スウィーがいつもの抜け穴に先行し、偵察へと出てくれる。
ルピが続くんだけど、そろそろ大きくしてあげないとって感じになってきたな。
俺が通った後をフェアリーたちがついてきて、ここでいったん休憩タイム。
「うわ、ありがと」
「「「〜〜〜♪」」」
「ワフ〜」
スウィーだけでなく、フェアリーたちがそれぞれ花を摘んできて、ルピのお母さんのお墓へと。
しっかりとルピの成長を見守ってくれるようお祈りして、展望台を後にする。
『今日こそ見つかるといいですね』
「だね。でも、洋食にはあんまり砂糖使わないんだよな。デザートは別として」
砂糖を使うってなると、やっぱり醤油とか味醂とって話になって、ほぼほぼ和食? 中華だと……じゃがいもの砂糖がけとかあったな。
オーダプラがあるし、スウィーとかフェアリーたちが好きそうだから、見つけたら作ってみるか……
「お、来たかな。呼んであげて」
「ワフ!」
ルピが軽く吠えると、現れたのは南側に住むドラブウルフの家族。
嬉しそうに駆け寄ってきて、お座りするルピの前に伏せる。
「ありがとな。今日はブルーガリスってのを探しに来たんだけど、手伝ってくれるフェアリーたちの護衛を頼むよ」
「ワフ」
「バウ!」
父親ウルフが「了解!」って感じに答えてくれて頼もしい。
それぞれ2、3人のフェアリーを護衛してもらう形で、南側の山道の右側を重点的に探索しつつ進む。
「〜〜〜♪」
「スウィー、もうちょい緊張感持ってくれよ……」
定位置の左肩に座るスウィーから鼻歌が聞こえてくる。
ルピやドラブウルフたちを信頼してるので大丈夫! って感じのサムズアップで返してくるスウィー。まあ、俺も信頼してるけどさ。
『前に魔法を撃ってきたモンスターがいましたよね』
「うん。それが心配で」
あのルーパグマってのは、姑息な感じのモンスターだったし、弱いフェアリーから狙ってくるだろう。
咄嗟に庇えるようにスタンバっておかないと……ん?
「バウッ!」
母親ウルフが吠え、フェアリーたちを守りながら全員が俺の方へと戻ってくる。
気配感知に引っかかったのはやっぱりルーパグマっぽい。が、当然さっきの
「ルピ、スウィー、フェアリーたちを頼む! ミオン、隠密使うから気をつけて」
「ワフ!」
『はい!』
フェアリーたちが退避したのを確認し、ドラブウルフの子供たちが俺の行動のサポートに動く。具体的には両サイドから回り込んで退路を断つ動き。すごく助かる。
よし、やるか……
気配遮断と隠密スキルを発動し、樹々の陰を伝うように近づいていく。
逃げようとしている方向をドラブウルフに回り込まれ、右往左往しているルーパグマに一気に近づいて……バックスタブで一閃!
「ギャッ!!」
【隠密スキルのレベルが上がりました!】
【短剣スキルのレベルが上がりました!】
ふう、うまくいって良かった。
スキルを解除し、気配感知で他に敵は……いなさそうかな?
残してきたルピたちも合流し、ドラブウルフたちが全周警戒を始めてくれる。
「さんきゅ、助かるよ」
『やっぱり、隠密スキルを使ったところで配信カメラが固定されちゃって、終わった後に急に変わりました』
「うーん、なんでそんな仕様になってるんだろ。姿は映らなくてもカメラだけ追従とかで良いと思うんだけど……ってか、これバグかも?」
『運営さんにお問い合わせしてみますか? 前に海の中を映してくれなかったことがありましたし……』
確かにそれがいいか。
仕様なら『仕様です』って返ってくるはずだし。
「じゃ、今日終わったら問い合わせることにして、続きにしようか」
『はい!』
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