金曜日
第212話 色いろいろ
「おは」
「おっす!」
「元気だな……」
陸上部もガッツリやって、IROもガッツリやってるはずなのに、無駄に元気な我が親友。
こういう時はだいたい良いことがあったパターン。そして、俺に何か助言を求めるムーブまでセット。
「なんかあったか?」
「おう。……竜貨見つけたぞ」
「マジか……」
途端に声を落として話し始める俺たち。きっといいんちょが複雑そうな顔をして睨んでるんだろうけど、それは昼にでも弁解しよう。
「例の『古奥のダンジョン』か?」
「いや、その近くに以前のノームの里があるだろ? そこを探したら出てきた」
「ああ、なるほど……」
ノームたちも新しい環境に落ち着いたところで、前の里に何か大事なものが残されてないか、ノームのリーダー他数人を連れて確認に行ったらしい。
その前の里、要するに洞窟なんだけど、あちこち調べ回って、以前使ってたツルハシやらなんやらと一緒に竜貨を見つけたと。
「で、俺はどうすりゃいいんだ?」
「
「なるほど……」
見つかった竜貨は10枚以上あって、ちゃんとノームに返したと。なんだけど、そっくり全部くれたらしい……
「そんなたくさんあってもって伝えたつもりなんだがな」
「向こうとしては、新しい里を作ってもらったわけだし、お前もお前のフレもアージェンタさんの言ってた『妖精に好かれてる』って条件は満たしてるだろ」
「まあ、全員【ノームの守護者】持ちだな。ただ、俺らで独占するのはまずいだろってなって、同じ守護者の『昼下がりの華』と『月夜の宴』のギルマスにも渡しといた」
どっちのギルドもラシャード領の開拓に初期から関わってるし、ノームをちゃんと見てくれてるし、お礼の意味も含めてだったらしい。けど……
「……お前、適当に渡そうとして、向こうのギルマスに怒られただろ?」
「うっ、なんでバレんだよ……」
「向こうが良い大人で助かったな。下手にばら撒いてたら、お前にクレクレ連中が沸くところだったぞ? それで白銀の館に相談しろって言われたな?」
「……お前は俺の嫁か?」
「やめろ」
いろんな意味で寒気がするからやめてくれ。
まあ、この手のことは初めてでもないし、ナットの人柄のおかげか変なやつに絡まれたことはない。とはいえ、MMOだからなあ。
「帰ったら
「頼む!」
「で、だ……。お前、日曜はさすがに部活無いよな?」
「ああ、大会でもない限りはな。久しぶりにどっか遊びに行くか?」
まあ、それも良いんだけど、ミオンのことをナットに相談したい。
相談っていうか、とにかく話を聞いてもらって、客観的な意見が欲しい。
ミオンには当然話せないし、そもそも女性に相談することじゃないし……
***
『昔からなんですか?』
「うん、まあそう」
昼はまあ、うん。
ナットがいいんちょに怒られたってわけでもないけど、呆れられてたっていういつものパターン。
今日のゲーム内でのセスの予定がどうかはわからないけど、
『不思議です』
「んー、まあ、ナットといいんちょのいつもの奴だから」
そろそろお互いどうにかしろよって気がしなくもないけど、なんかブーメランになりそうなので黙っとこう……
「お待たせ」
「どもっす」
『こんにちは』
ちょうど部長が現れたので、ナットから相談された件を話しておく。
正直、これに関しては称号の存在が必要だったのかどうかも微妙なんだよな。
「了解よ。他でも見つかるってわかってホッとしたわ。それで、竜貨の色ってどうだったの?」
「え、色? ああ、そういうことか! すいません、聞き忘れてました……」
そうだよ。アージェンタさんから貰ったやつは銀竜貨って話だし、他にも色があるなら、その色の竜がいるって話になるよな。
「そんなに気にしなくて良いわよ? 今日の夜にはわかるもの」
『そうですよ』
「いや、どっちかっていうと気づけなかったことが間抜けだなって。銀以外の色の竜貨が見つかったら、それはそれで騒ぎになりそうすね」
確か緋色の竜がいるんだっけ? だとすると、緋竜貨っていうのかな。
それ以外の青とか緑とか……白竜姫様の白竜貨が一番価値が高そうな気がするな。
「ええ、私たちは銀竜アージェンタさんの銀竜貨をもらったわけだけど、国や地域によって竜貨の色が変わるとかありそうだと思わない?」
『緋色のドラゴンさんは帝国でしょうか?』
「おそらくね。セスちゃんに相談してからになるけど、まずは帝国に情報を流して、巨人族と接触してる人たちが竜貨をもらえるといいかしら」
「なるほど。そこから自然と公国、共和国へとって感じか……」
公国はNPCエルフを助けたし、意外とすんなりと竜貨に辿り着きそうな気がする。となると、問題は共和国だけど……
スウィーに連れて行かれたあの状況でフェアリーを放置する選択はあり得ないし、まあ……しょうがないよな。
***
ベル部長がさっそくと報告に行ったので、俺たちもIROへと。
「結局、昨日はテンサイ、ブルーガリス見つからなかったのがなあ……」
『他の場所を探しますか?』
「うん、夜にでも展望台から南側を探してみようかなって。あっち側のドラブウルフにも会いたいし」
『いいですね』
料理のさしすせそって言われるやつのうち、醤油と味噌はハク(米)が必要だとわかってて、いったん保留中。
あとは砂糖ってことで、ブルーガリスをなんとか確保したいんだけど、南西の森や南東の密林では見つからなかった。
ただ、
「まあ、これが見つかったのはラッキーだったかな?」
【レッペリンの実】
『レッペリンの果実。熟す前、後によって加工方法が異なるが、いずれも辛みを持つ調味料となる。
素材加工:香辛料の原材料となる』
そうそう、コショウって蔓草だったよなって感じ。
たまたま赤い実を見つけて鑑定したら当たりだったんだけど、以前は気づかなかったのは、やっぱり植物学スキルあたりと関係あるのかな。
『これがコショウになるなんて信じられないです』
「だよなあ」
昨日、時間ギリギリのタイミングで見つけたので、試しにって分しか採れてない。
それに『加工方法が異なるが』の部分がわからなくて、結局、ログアウト後にリアルで調べてしまった……
「とりあえず、すぐ作れるのは黒コショウかな」
これは簡単だし知ってた。
青い果実だけを選んで、それを、
「<乾燥>」
で、見たことのある黒い粒々に。
『コショウです!』
「だよな。人間ってすごいもの発見してるよ、ホント」
これを砕いて黒コショウの完成なんだけど、せっかくなのでご飯に使おう。
今日のゲーム内ご飯はパーピジョンのからあげ。
ワインを少し足して揉み込み、塩と黒コショウをかる〜く振ってから片栗粉をまぶす。
あとはペリルセンスのごま油でじゅわっと。
「ルピ、グリーンベリーかけていい?」
「ワフン」
からあげにレモンを勝手にかけるのは戦争になるらしいので、ちゃんと聞いてから。
ぎゅっと絞ると、これがまた堪らなく食欲を刺激する香りに……
「いただきます」
「ワフ」
もも肉は俺が、むね肉、そして手羽先――骨は危ないのではずした――はルピに。
リアルのからあげに比べると若干硬い? でも、歯ごたえと共に旨味がじゅわっと滲み出てくるこの感じがたまらない。
『美味しそうです……』
「うん、すごく美味しい」
「ワフ!」
『ううう……』
いかんいかん、あんまりやると怒られそう。
『残った赤く熟した実はどうするんですか?』
「あー、こっちは水につけて、果肉を腐らせて取り除くんだって」
『え?』
そう。俺も調べて「え?」ってなったよ。
その腐らせる過程で匂いが付いたりするから、白胡椒は当たり外れもあるそうで。
素材加工スキルのレベルでなんとか乗り切れるといいんだけど……
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