第211話 片栗粉と言えば……

 今日のリアルの夕飯はからあげ。

 といっても、揚げ物を家でやるのは面倒だし、後片付けが大変なので、冷凍食品のやつをレンジで加熱して終わりだけど。


 美姫に軽く昨日のライブの報告をしてお礼を言っておいた。

 アーカイブについてるコメントも好評なものばかりで、のんびりメインを期待されてるようで一安心だったこととか。

 美姫としては「ちょっと考えればわかることであろうに」なんだけど、そのちょっと考えるの深さが違うんだよ。俺とお前とではっていう。


 それはそれとして、からあげ食べて思い出したのが、


「今日は片栗粉を作るよ」


『はい?』


 ミオンがピンと来てないようだけど、いや、普通は来ないか。

 オーダプラ(じゃがいも)からデンプンを取り出して、片栗粉(もどき?)ができるんじゃないかっていうチャレンジ。


『なるほどです。うまくいったら短編にしましょう』


「そうだね。あ、誰かもうやってそうな気がするけど……気にする必要もないか」


『はい!』


 ボウル代わりの器に綺麗な水を張り、その上にザルを準備。

 オーダプラの皮を剥いてから、おろしがねでザルへとすりおろしていく。


『直接混ぜちゃダメなんですか?』


「うん、不純物をざっくり取っておきたいから。あとで濾しても良いのかもだけど」


 ザルにたっぷりすりおろされたオーダプラを手で揉んだりすることしばし。あとは沈殿するまでしばらく待つ。


「〜〜〜?」


 フェアリーたちを連れてきたスウィーがそれを不思議そうに見てるんだけど。


「これ全然甘くないからな?」


『ショウ君は片栗粉でデザートって作れますか?』


「片栗粉でデザートっていうと……わらび餅? きな粉も石臼で作れそうだし。でも、そろそろ真面目に砂糖を調達しないとだな」


 フェアリーの蜜で代用にも限度があるし、フェアリーたちに無理をさせるつもりもないし。


『サトウキビは島にあるでしょうか?』


「サトウキビよりもテンサイを探した方がいいかな。ああ、そうか、フェアリーたちに探すの手伝ってもらおうかな」


『テンサイ?』


 普通は砂糖っていうとサトウキビになるよなーと。

 別名、砂糖大根。その根っこから糖分を抽出したものが『テンサイ糖』とか言われるやつなんだけど。


「大根に似た植物があるんだけど、素材加工すれば砂糖ができるはず? サトウキビと全然変わらない甘さだよ」


「〜〜〜!?」


「ワフ……」


 スウィーが『甘さ』に反応したっぽい? そして、それに呆れるルピ。

 サトウキビなら齧り付けば甘いけど、テンサイは根っこだから食べたことないだろうし、そもそも加工しないと甘くないんだっけ?


『この後、時間があるようなら探してみますか?』


「そうだね。ただ、どれがテンサイなのかって問題が……」


 素直にベル部長に聞くかな? いや、今は向こうもIROやってるし、なんなら魔術士の塔で戦闘中か。

 王国というか大陸の方には砂糖があるはずだし、白銀の館の人たちの誰かは知ってそうなんだよな。

 でも、姿形がわからないと探しようもないか。加工前の状態って売ってるのか? 商業ギルドとかで扱ってたり……いや、待て。


『どうしました?』


「うん。植物図鑑見ればいいじゃんって」


『あ!』


 前に読んだ時は「へー」とか「ほー」とかいうレベルで流し読みしてただけだもんな。

 ちゃんと目的を持って読めば、またレベルも上がるかもしれないし、真面目に解説に目を通してテンサイを探そう。


 山小屋1階のキャビネットから植物図鑑を持ってきて……と、その前に片栗粉を完成させないと。


「その前に。これ、下に白いのが溜まってるでしょ。これが片栗粉のもと」


『そうなんですね』


 で、上の水を捨ててから、もう一度水を足して綺麗にして、待つことしばし。よしよし、いい感じに沈殿してきたな。

 上の水をギリギリまで捨てて、残ったやつに……


「<乾燥>」


 水分が多かったせいか、まあまあMPを持っていかれたけど、無事乾燥完了。


「ほら。さらさらの片栗粉」


『すごいです!』


 これは保存も効くし、たくさん作っておいて損はないかな。


「残りのオーダプラも片栗粉にしつつ、待ち時間に植物図鑑でテンサイっぽいのを探すことにするよ」


『はい』


 一気にたくさん作れば、その分、待ち時間も長くなってちょうどいいかな?


 ………

 ……

 …


「これっぽい?」


『え、それですか?』


【ブルーガリス】

『大陸全般に生息し、楕円の葉と青く丸い根を持つ植物。糖分が豊富な根を目的に栽培されている』


 説明文は間違いなくテンサイ。大陸でもサトウキビじゃなくて、テンサイから砂糖作ってるっぽいな。

 見た目は大根というよりは蕪? リアルのテンサイを見たことがないからなんともだけど、少なくとも根っこが青いことはないと思う。


『なんだか青い砂糖ができそうです……』


「多分、皮だけじゃないかな」


 どっちにしても、砂糖を抽出するには皮を剥いて、細切りか角切りかにして煮出さないとだったはずだし。

 で、フェアリーたちに手伝ってもらうには、スウィーにお願いしないとなんだけど……

 俺が図鑑と睨めっこしてるのに飽きたのか、ルピを枕に寝てるし。

 よだれが垂れてきそうな顔をしてるのは、夢の中で甘い物を食べて「うへへ」っていうアレ?


「スウィー、ちょっといい?」


「〜〜〜?」


 ぐっすりというわけでもなかったのか、ぱちっと目を覚まし……腕でよだれをふく女王。


「この絵の植物があると、甘いものがたくさん作れるんだよ。これからちょっと探しに行こうと思うんだけど、フェアリーみんなにも手伝って欲しくて」


「〜〜〜!」


 ガッテンとばかりに飛んでいくスウィー。

 まずは南西の森からかな? 南東の密林の方も一応ぐるっと回ってくるか。

 ブルーガリス(テンサイ?)以外のものも、何か見つかるかもしれないし。


「今まだ9時過ぎぐらいだよね?」


『はい。9時10分を回ったところですよ』


「さんきゅ。じゃ、南側を散歩がてらぐるっと回って探してみようか」


「ワフ!」


 ルピが散歩に行けるとわかったのか、シャキッと起き上がってじゃれついてくる。可愛い。

 しばらく、ルピと遊んでると、スウィーがフェアリーたちを連れて戻ってきた。


「〜〜〜!」


「はいはい。ほら、服を引っ張らない。行く前にどれを探して欲しいか伝えないとダメだろ?」


 そう答えると『てへぺろ♪』を返すスウィー。

 植物図鑑を開いて、ブルーガリスのページの挿絵を見せると、ふんふん頷いてるフェアリーたちだけど、スウィーだけが「これ甘くなるの〜?」って不審顔。

 まったく……。見つけたら目にもの見せてやるからな……

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