木曜日

第210話 環境アセスメント

『そんな物まで作ろうってプレイヤー、他にいないと思うわよ?』


『ショウ君はなんでも自分で作れちゃいますよね』


「いや、だってないと困るし……」


 今日の部活は珍しく、ベル部長もミオンのスタジオに。

 俺が料理道具をあれこれ作りつつ、最近あったことの情報共有をすることになった。


【細工スキルのレベルが上がりました!】

【木工スキルのレベルが上がりました!】


 よし、すり鉢完成!

 木を彫って作った器に彫刻刀で溝をつけただけだけど、自分が使える物になってれば問題なし。ダメなところが見つかったら改良していこう。


『おめでとうございます』


「さんきゅ。なんか久しぶりだ」


 これで細工スキルが7、木工スキルはレベル9か。あと1で10……


「師匠ってもう陶工のスキルレベル最大だったりしません?」


『ジンベエさん? 前にお聞きした時は確か9だったから、ひょっとしたらもう10になってるかもしれないわね』


『生産系スキルの上限突破ってあるんでしょうか?』


 そういえばそうだ。

 最大レベルになるのはいいんだけど、上限突破ってできるのかな?

 何かしら、木工スキルにプラスしてくれる装備とかあるといいんだろうけど……


『あるでしょうね。戦闘系スキルだけ上限突破できるのも不自然だもの』


「そういう装備あるんすかね?」


『どうかしら? 一応、白銀の館のメンバーにも聞いてみるわね』


 ジンベエ師匠とかディマリアさんとか、生産トップ組ならあれこれ工夫してるだろうし、何かしら知ってるといいんだけどな。


『部長は今日のライブはどこでですか?』


『今日のライブは魔術士の塔の予定よ。ドワーフのダンジョンは第4階層まで行けたんだけど、最後にまた扉があったのよね……』


 王国の南東、公国の西にあたる、古代遺跡の塔は『魔術士の塔』と呼ばれるようになった。ベル部長たちが発見した11階への隠し部屋にいた魔術士のゴーストに因んでらしい。

 そして、アミエラ領の北西、採掘ポイントがある古代遺跡は『ドワーフのダンジョン』と呼ばれるように。これはまあ、有翼人との揉め事を解決してくれたNPCドワーフさんたちを讃えてかな。


「開かない奴です?」


『ええ。「権限が足りません」ですって』


 なんだそれ……

 何かしらイベントが終わらないとってパターン?


『ドワーフさんのダンジョンで掘れた鉱石って、結局どうなるんでしょう?』


「あ、それ、俺も気になってた」


『竜族、アージェンタさんの代理ということでグラドさんから話があった通りね。人間の国、要するに王国で管理することになったわ。

 ただ、今はそれに充てる人員が足りてないし、開拓を受け持ってる白銀の館でやってくれって』


「すげえ……」


『すごいです……』


 子爵様、太っ腹というかセスのこと信用しすぎじゃないか? まあ、そこで変なことしない妹だからいいけどさ。


『ただ、白銀の館だけだと回らないから、実質はグラドさんたちと、雷帝の座のダッズさんに任せる形ね』


 放棄した場所をグラドさんたちや『雷帝の座』のメンバーで管理するとのこと。

 掘った分は基本自由に持ち帰ってもらっていいんだけど、そこにある施設を使う際に利用料を払ってねってことになったらしい。

 戦闘メインにダンジョンに潜る人たちも、採掘ポイントを見つけたらついでに掘ることで収入アップ。

 生産メインの人たちはその鉱石を買って、加工してスキル上げしつつ稼げるしで、いい感じに回ってると。


 アージェンタさんのおかげで一気に解決した感じだよな。

 次に手紙送るときにお礼を書いとかないとかな。いや、それよりもアージェンタさんが好きそうな食べ物を贈る方が良いかな?


『作り過ぎて余ったりしないんですか?』


『今は南側の開拓にも需要があるし、帝国と公国がきな臭いのもあって、武具関連は国が積極的に買ってくれてるわね』


「へえ……」


『ただ、それもどこかで頭打ちになるだろうし、今のうちに次を考えておかないとってユキさんが』


 ナットたちがいるラシャード領の開拓は、アミエラ領の開拓地に比べると、まだまだって感じはあるけど、人が増えれば一気に追いつくだろうしなあ。


「そうなったら、古い建物の建て直しとかですかね?」


『建て直し?』


「いや、単純に鉄筋入れた基礎とか、鉄骨通した石レンガとか使い所は結構あるんじゃないかなと」


 あと、俺が使える掘削の魔法対策に、鉄筋入りの石壁とかに置き換えた方が良い気がする。


『部長?』


 それを聞いてなんだか考え込んでるっぽい?


『ユキさんに、いえ、生産組全員に相談してみるわ。ただ、ショウ君が思う使い所って具体的にはどういう所かしら?』


「とりあえず街壁とかは鉄筋入りとかにした方が強度も上がるし、掘削の魔法対策にもなるしって感じですかね?

 あと、クリーネでしたっけ、漁村の。洪水が起きやすくて、高潮もあって大変らしいですけど、鉄筋基礎の堤防とか作れればマシになるかなと」


 うちの島の港の堤防も、あれがあるおかげで入り江の内側は穏やかなのかなって気がするし。堤防は大変って話なら消波ブロックを並べるとかでも?


『さすがです!』


「いや、島の港の堤防を思い出しただけだから。あと、やりすぎると綺麗な景色がって話もあるんで」


 個人的には海辺の堤防とか消波ブロックの列は好きだけど、やりすぎちゃうと……まあ、うん。


『了解よ。その辺りも伝えておくわ』


「ちなみになんですけど、生産組の人たちって土木スキルに興味あったりしません?」


『土木スキルにも興味はあるみたいだけど、その前提の応用魔法学<地>の方を取りたがってたわね』


 大工スキル持ちのバッカスさんや、鍛治スキル持ちのゼルドさん、ジンベエ師匠も元素魔法と基礎魔法学は取得してるそうだ。

 バッカスさんは応用魔法学<地>を取れたら、速攻で土木スキルを覚えるつもりらしい。


『生産のためですか?』


『鍛治スキル、陶工スキル、どちらも地属性が絡んでくるスキルでしょ? 大工スキルも土木と合わせて建築スキルなんて話もありそうよね』


「ああ、確かに……。生産系の上位スキルがあるってなると、大工から建築は順当な上位スキルって感じすね」


 鍛治とか陶工の上位スキルってなんだろうな。

 パッと思いつかないけど、鍛治ならそれこそスキル補正ある武具が作れたり?


『早く応用魔法学の魔導書を見つけたいですね』


『そうなのよ……』


 ベル部長がため息とともにそうこぼす。

 これ、俺が手に入れちゃったのって、島が本土とやりとりできない前提だとしても、かなり先行しちゃってるのか?

 と、なると……


「やっぱり死霊都市ですかね?」


『ええ、それもあるけど、私は魔術士の塔にもあるんじゃないかと思ってるわ』


 11階からの敵の強さや、魔法を使ってくる相手がいることを考えると、その手の魔導書がドロップしてもおかしくないと。

 実際、元素魔法+1のアミュレットが手に入ったもんな。


『なるほどです』


「手に入ったら、ギルドのメンバーで回覧する感じなんです?」


『まずはそのつもりだけど、早めに書き写して広く出回らせたいわね』


 太っ腹だなと思ったけど、ライブで手に入れたりした後に出し渋るのは印象も良くないし、死霊都市のワールドクエストのことを考えると……って話らしい。

 俺も空間魔法の魔導書、なんとかベル部長に渡せたりすると良いんだけどなあ……

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