第209話 宣言

『えっと、次はコンポートについてですね』


「あ、これ、前回の最後に出そうと思ってたんだよな……」


 それどころじゃなかったし、スウィーはぷんすこ怒るし。

 ふと見ると、スウィーたちに用意したとろとろ干しパプは綺麗に消えているので、おかわりに追加……の前に鑑定。


【カムラスのコンポート】

『カムラスの実をフェアリーの蜜で煮たコンポート。抗毒Ⅱ(6時間)』


 鑑定結果に一気に沸き立つコメント欄。

 あれ? クリーネで採れたカムラスとノームのキノコで……って聞いたの昨日だから、まだ全然広まって無いのか!

 ……まあいいか。情報は好きにオープンにして良いって話だったし。


【マスターシェフ】「ランクⅡのバフ料理!?」

【ミンセル】「え? フェアリーの蜜って何!?」

【クショー】「6時間抗毒いいなあ」

【デイトロン】「<コンポート代:5,000円>」

【クサコロ】「実にワークエ向けな料理バフ……」

 etcetc...


 空っぽになった皿に移すと、またフェアリーたちが群がる。

 ホント、あの小さな体のどこにそんなにって思うんだけど、ゲームだったなと。


『バフがついてるのはスウィーちゃんやフェアリーさんたちのおかげですね』


「うん。砂糖の代わりを探してて、そういえばハチミツって思ったんだけど、スウィーに聞いたら、フェアリーたちが花の蜜を集めてくれるって」


 スウィー自身が採集した蜜はエリクサーになりそうな代物だったけど、あれ以来、自分がそれをすることは全くない。

 ま、俺としてもアレをもらってもなあって感じだから、気が向いたらでいいかな。

 ここ最近は釣りとか農耕、畜産がメインで、戦闘も肉の確保にしてる程度で、調薬はほぼ放置だし……


『あ、そろそろ時間ですね。最後の質問にしましょうか』


「おっけー」


『えーっと「氷姫アンシアさんとコラボしたりするんですか?」ですけど……』


 あー、やっぱり来たかー。コメント欄に結構並んでるし、あの前の投げ銭の話も出てるな……


「いや、俺はそんなつもり全然ないけど?」


『はい。私も特にそんなつもりはないですよ?』


【ブルーシャ】「ショウ君とミオンちゃんの間に入ろうなんてねえ(´∀`*)」

【シデンカイ】「ベルたそとのコラボ再びは?」

【ツバイ】「ショウ君以外の実況とかしないの?」

【シェケナ】「そうそう、二人だけでいいよ〜(*'▽'*)」

 etcetc...


『私が実況するのはなので。ですよね?』


「はい」


【ユウセン】「イイゾ〜!」

【ミッサマ】「今、殺気が飛んだぞw」

【ヒエン】「ショウ君、頑張れ……」

【リーパ】「ヒェッ!w」

【ブルーシャ】「どんどん敷いてこ!d(^_^d)」

 etcetc...


 顔が見えなくても、どんな感じでニッコリしてるのかわかるよ……

 でもまあ、実際、ミオン以外とはちょっと無理かなと思うんだよな。可能性があるとしたらセスかナットぐらいか? いや、その時は俺が実況側だよな。


『では、そろそろ時間ですね。あ、土曜はどうしますか?』


「未定だけど、また港の方かな? ちょっとセルキーに会いに行かないとって思ってるし」


 あの子を呼んで、仕事と報酬についてちゃんと把握しときたい。

 ナットが言ってた話でいいなら、海の幸をたくさん採って、来れない日の分も作ってあげたいところ。


【ベアメン】「セルキーくん!(*^^*)」

【ジョント】「海の飯テロ!」

【モルト】「魔導醸造器で他のも試して欲しいのう」

【ナタイ】「灯台行ってみよう、灯台!」

 etcetc...


 そういや、トマトからお酢が作れるらしいので、ライコスビネガーとかできるのか試してみないとだよな。


『はい。では、また土曜の夜、お会いしましょう。

 みなさん、ご視聴ありがとうございました!』


「また〜」


「ワフ〜」


「「「〜〜〜♪」」」


【ネルソン】「<みんなおつかれ〜!:1,000円>」

【ベアメン】「<今日も楽しかった!:500円>」

【デイトロン】「<二人のんびり代:10,000円>」

【メデロィ】「<おつおつ〜ノシ:500円>」

 etcetc...


 ………

 ……

 …


<はいー、ライブ終わりましたよー>


 ヤタ先生の声が聞こえてきて「あ、ちゃんと見ててくれたんだ」と。

 今日のライブは基本二人で乗り切るようにって言われてたんで、ちょっとプレッシャーっていうか、何も今回でなくてもって気がしてたんだけど。


『ショウ君、お疲れ様でした』


「うん、ミオンもお疲れ」


<ライブの構成も質問のチョイスも良かったですよー。作戦を練ってたんですかー?>


『はい。セスちゃんと相談して決めました』


 今回のライブ。最初の30分はいつも通りの島ライブをして、後半に質問コーナー、主に前回いろいろあったことの説明と決めていた。

 俺はまあ二人が相談してるのに任せてた感じ。ミオンのチャンネルだし、こういうことに関してはセスの頭の良さを信用してる。

 とはいえ、セスの案は至極単純。

 真面目にライブの冒頭から前回のことを説明し始めると、それだけでライブが終わって意味がないので、いつも通りを30分やってから質問コーナーを設ければいいって話。

 うちのライブを見に来る人は俺たちのゲームプレイを見に来てるんだし、それはちゃんとやらないとって感じかな。


<なるほどー。さすがですねー>


 それともう一つ、


「アンシア姫がらみの質問、ホントかなと思ったけど、セスの言う通りだったなあ」


『質問してたのはアンシアさんのファンでしょうか?』


「どうだろ。前回の投げ銭はインパクトあったし、気になってるユーザーがいるはずってセスも言ってたしね」


『ちゃんとショウ君だけって宣言できたので良かったです!』


「はい」


 俺としてはめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!

 はあ、早くナットに相談しないと……


<それでは私はこの辺でー。明日は遅刻しないようにー>


 ヤタ先生がそう言い残してログアウトした模様。

 今日は平日だし、さくっと後片付けして山小屋に帰るかな。


「今って10時前ぐらい?」


『はい。まだ45分ぐらいですよ』


 よしよし、山小屋に帰ってアージェンタさんに手紙書く時間は十分あるな。

 ちょうど良いというか、欲しい物が思いついた。


「ライブで女神様の話があったけど、アージェンタさんに女神像をもらえないかなって」


『あ、いいですね! でも、どの女神様って指定はできるんでしょうか?』


「うーん、それはアージェンタさんに任せるかな。まあ、縁があったってことでいいんじゃない?」


『そうですね』


 翡翠の女神様が島にあってそうだけど、教会のあの場所にぴったりな大きさの女神像があるかも微妙だし。


「じゃ、帰ろ……ああ、そうだ!」


 ライブでもう一つ思いついたことがあったんだった。

 畑の一角、グリシンを植えた場所に……あったあった。


『グリシン? あ、枝豆ですか?』


「そうそう。すぐ育っちゃうから気づいてなかった」


 茹でて、シンプルに塩をぱらっと振って食べるのでもいいし、潰してずんだにすれば、丸めて団子にしても美味しいだろうし、他の料理にもペーストとして使えるはず。

 あ、すり鉢も作らないとだ。この際、思いつく料理道具は全部作るか……


「それで、明日は料理道具を増やそうと思うから、ちょっとメモしてくれる?」


『はい!』


「えっと、まずはすり鉢にすりこぎかな。ざる、せいろ、しゃもじ、めん棒、あたりは木工と細工で作れるはず。あとはピーラーとかスライサーも欲しいし……、あ、石臼!」


 大豆を粉にすればきな粉になるし、そのうち、小麦粉、米粉、蕎麦粉とかも。

 オーダプラ(じゃがいも)から片栗粉行けるか? 要はでんぷんだよな?


『あの、石臼って料理道具なんですか?』


「……俺にとっては?」


『なるほどです!』


 ギャグのつもりだったから、納得されても……

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