第214話 一歩前進

「これだ! ありがとう!!」


「「「〜〜〜♪」」」


 展望台の南側、滝の上から下へと降りる斜面脇で、フェアリーたちが目的のブルーガリス(テンサイ)を発見してくれた。


【ブルーガリス】

『楕円の葉と青く丸い根を持つ植物。根は加工されて砂糖となる。

 素材加工:砂糖の原材料となる。畜産:葉や加工で残った根は飼料となる』


「あ、畜産の解説が増えてる。ヤコッコの餌にもなるのか」


『無駄が無くていいですね』


「だね。よしよし、これでいろいろ作れるもの増えるぞ」


 まずは、1本からどれくらいの砂糖が作れるか確認しないとだよな。

 ただまあ、砂糖にしちゃえば長持ちするし、ある程度の量が確保できれば、あとはたまに採りに来るぐらいで大丈夫かな。


「〜〜〜¥」


「スウィー、それ台無しだから……」


 目の前で甘味の無心をしてくる女王様。

 見つけたのは部下であって貴方ではないのですが?


『ショウ君、ご褒美をあげてくださいね?』


「あ、うん、もちろん。収穫したら、河原まで行って休憩にしようか」


 結構な数が生えてて、インベントリいっぱいに採っても問題なさそう。

 あとで河原で1本加工してテンサイ糖、もとい、ブルーガリス糖にしてみよう。


 ………

 ……

 …


 収穫後は何事もなく滝下の河原に到着。

 ルピやドラブウルフたちにルーパグマの肉を配り、スウィーたちにはドライグレイプルのご褒美を。

 それぞれ美味しそうに食べてる間、石かまどを作ってブルーガリス糖作り開始。

 大きな根を川の水で洗って皮を剥き、サイコロ状に刻む。

 これの煮汁に糖分が滲み出ているはずなんだけど……


「なんかすごい臭いがする……」


 甘いと思わせておいて……なんとも言えない臭い。ルピやドラブウルフたち、スウィーやフェアリーたちも風上へと逃げてしまった。

 臭いの元、糖分を絞り出したカスは川へと流し、煮汁をさらに煮詰めて出来上がり……のはずなんだけど。


「うーん……」


 微妙にうっすらと青みがかった塊になってて、なんか思ってたのと違う。


『ショウ君、鑑定を』


「うん」


空砂糖そらざとう

『ブルーガリスから作られた粗い状態の砂糖』


「ああ、そういう」


『え?』


 そりゃそうだよな。これ粗糖そとうって言われる状態か。

 ここからなんか精製したら、真っ白なのができるんだっけ?


「えーっと、要するに真っ白になる前の状態って感じかな。不純物が混じってたりするけど、一応、砂糖のはず」


 最後の仕上げ、魔法ですっかり乾かすと、ごろごろした空砂糖の塊に。その欠片のうち、爪の先ほどの一つを……


「うん、ちゃんと甘い」


 ちょっと甘みにクセがあるような気がするけど、コクって言えばコクかなあ。


「「「………」」」


 甘いとこぼしたせいか、スウィーとフェアリーたちの視線が……

 まるまる育った1本からコップ2杯分近く取れたのは嬉しいんだけど、これ全部食べたら体に良くない気がする。


「スウィー、食べ過ぎると毒だから、これだけな?」


 俺が試しに食べたのと同じ、爪の先ほどのをフェアリーたちに配ると、それぞれがパクッと……


「あれ?」


『美味しくないんでしょうか?』


 スウィーもフェアリーたちも「うんうん、甘いね〜」ぐらいの表情。

 これはやっぱり何か果物と合わせないとっていう……ごく普通の味覚だよな。


「ちょっと待って。ルピ、ライコス1個もらうよ」


「ワフン」


 ルピのおやつ用にインベに入れてあるライコス(トマト)を1つ取り出し、スウィーたちが食べやすい欠片サイズに乱切り。

 あとはこの空砂糖を細かく砕いてざっくりと混ぜる……


「はい。食べてみて」


「〜〜〜!!」


「「「〜〜〜!!」」」


 あーあーあー、我先にって感じで取り合うのはフェアリーらしくないぞ?


『トマトにお砂糖、美味しいですよね』


「サラダっていうよりデザートっぽいよね。うちは普段は塩かドレッシングかマヨネーズなんだけど、これは、昔、美姫がトマト食べやすいようにって親父がやってたやつ」


 もう1つライコスを出して八等分のくし切りに。

 ぱらぱらっと空砂糖をまぶしてから、ルピとドラブウルフたちに。


「ワフ〜」


「「バウ〜」」


 うんうん、美味しそうに食べてくれてるみたいで良かった。


『部長やセスちゃんもこの少し青い砂糖を食べてるんでしょうか?』


「多分ね。このぐらいなら卵とか牛乳と混ざればわからない気がするし。ああ、二人に聞くよりは、ライブで聞いた方がいいかも。なんかプロっぽい人いたし」


 アーカイブを見直してると、リアル料理人だよなーってコメントが入ってたりしてびっくりするんだけど。


『いいですね!』


「こう言っちゃなんだけど、プロっぽい人が俺のライブの飯テロ見にくるのってなんか違う気がしない?」


『そうですか?』


 むしろこっちが教えて欲しいぐらいなんだけどなあ……


 ………

 ……

 …


「ふう、ただいまっと」


 山小屋に戻ってきたのは11時前。


【ワールドクエストが更新されました!】


「お!」


『次へ進んだみたいですね!』


 さて、どうなったかな?

 クエスト情報はっと……


【ワールドクエスト:死霊都市:第一部「交渉」】

『漆黒の森の奥に見つかった廃墟。アンデッドに占拠されたその都市は古代魔導文明が引き起こした厄災の中心地であった。

 竜族の監視下にある死霊都市の調査には、彼らからの信頼の証である「竜貨」を得て、死霊都市への経路を確立する必要があるだろう。

 目的:竜貨の入手。死霊都市への経路確立。達成率67%』


「第一部なのはそのままなんだ」


『3分の2を超えたのは、プレイヤーの皆さんが昔起きた暴走事故のことを知ったからでしょうか?』


「あー、そういうことか。じゃ、死霊都市までの道のりができたら、次の第二章かな?」


『そんな気がします』


 部長やセス、ナットももう竜貨は手にしてるし、次の章で内部調査開始なんだろうな。

 なんかPVを見る感じだと、かなりでかい都市まるまるがワールドクエスト専用ステージって感じで、ちょっとうらやましい気もする。


『ショウ君、明日のお昼には港に行くんですよね?』


「うん。そのつもり」


『はい。向こうでは何をする予定ですか?』


「えーっと、まずはこの『セルキーの呼び子』を試して、仕事と報酬の話の確認かな」


 スウィーがいれば話は通じるっぽいし、昼のうちに呼び子のお礼はしておきたいところ。


『なるほどです。また釣りをします?』


「セルキー次第だけど、一緒に海に潜ってみようかなって」


『なるほどです!』


 カメラはもう直ってるし、潜ってエビとか採れるといいんだけど。

 多分、エビは片栗粉まぶして素揚げするだけで十分美味しい気がするし。


『でも、ショウ君。その間、ルピちゃんやスウィーちゃんはどうするんです?』


「先にカムラスの樹があるあたりを綺麗にしておくから、そこでのんびりして貰えばいいかなって。今回はフェアリーたちも連れて行くつもりだし……どう?」


「ワフン」


「〜〜〜♪」


 ルピもスウィーもいいよって返事。

 入り江の内側は安全っぽいし、あのあたりはきっちり下草やら邪魔な枝を払って日当たり良くしたい。

 というか、あのあたりって段々畑だったみたいだし、他にも何かあればなってところだけど……

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