火曜日

第203話 中身がなければ続かない

「はー、なんか気にしすぎだったかな?」


『そうかもですね。でも、やっぱり皆さん、ルピちゃんを心配してくれてます』


 放課後。ルピのお母さんが白骨化して見つかったあたりを動画でアップし、コメントが気になって見てたんだけど、ほとんどみんなルピを心配してくれてる感じ。

 ただ、ライブよりずっと前のこと、ちゃんとお墓を作ったこと(例のPVの場所)なんかも説明してあったからか、過激な反応はゼロ。


「気にしすぎとは思わないわよ。動画にしてもライブにしても、ちょっとしたことで炎上しちゃうもの」


 とベル部長からのお言葉。

 ベル部長自身は炎上騒ぎになったことはないけど、レオナ様やアンシア姫は結構炎上してるからなあ。

 方向性は違うけど、相手が誰だろうが容赦なく叩き潰す二人だし……


「りょっす……」


『気をつけます』


「二人はそんなことしないと信じてるけど、わざと炎上することで注目を集める人もいるのよ」


 ゲーム中の過激な発言やチート、グリッチ利用での炎上で注目を集めて、チャンネル登録者や再生回数を稼ぐバーチャルアイドルもいるらしい。

 結局、炎上した瞬間しか増えないので、続かずにあっさり消えるか、どんどんと過激になって……BANされるかの二択。

 普通に考えれば分かりそうなものだけどな……


「少し違うかもしれないけど、無人島スタートを煽った今川さあやさん、今はそれなりのチャンネル登録者数になってるそうよ?」


『え?』


「あー、まあ、彼女はある意味被害者だったみたいですし」


 俺がライブ見てた時も、ゲームドールズの会社の方針で無人島スタートやらされてた感じあったもんな。


「ええ、そうね。だから、会社が悪かったということにすれば彼女に同情が集まるわ」


「そんな世知辛い話、聞きたくないんですけど……」


 隣でミオンもこくこく頷いてるし。

 本当に最初からそのつもりだったんなら……、はあんまり考えたくないな。


「ごめんなさいね。でも、二人のチャンネルは正直うまく行き過ぎてるから、それを食い物にしようなんて人が近づいてきたりするかもしれないのよ。

 実際、私もバーチャルアイドル事務所のいくつかから誘われたりしたわ。その中にはゲームドールズもあったわよ」


「うわ、マジすか……」


「二人の場合、怪しい誘いが来る前に収益化できちゃったから、余計なお世話かもしれないわね。

 それでも引き抜きというか、大手に入らないかみたいなのは来るかもしれないし、気をつけてね? 困ったらすぐにヤタ先生に相談すること」


「りょっす」


『わかりました』


 俺はともかく、ミオンにはスカウトが来そうな気がするんだよな。

 うちのスタイルをまねた、実況付きのゲーム配信も流行り始めてるらしいし……


***


「ミオンのところには、ベル部長が話してた変な勧誘みたいなのって来てない?」


『今のところは来てないですよ。もし来ても、先生に見せますし、先生が困るようなら母が対応しますよ』


「あー、そりゃそうか」


 うん、安心だな。


『ショウ君以外の誰かを実況することはありませんから』


「はい。……ベル部長も?」


『部長はご自身でなんでもこなすのが持ち味ですし、私が実況しても聞き役になってしまって、面白さが減っちゃうんじゃないでしょうか?』


 なるほど、確かに……


「〜〜〜?」


「おっと、ごめんごめん。行っていいよ」


 今日は火曜ということで、島の南側をぐるっとの日。

 なんだけど、動画コメントのチェックに時間をつかっちゃったので、昨日のニワトリ、ヤコッコの様子だけ見ようと教会裏へと。

 スウィーとフェアリーたちは、グレイプルを食べたり、花の蜜を吸いに行ったり、まあ自由行動ってことで。


「さて、ヤコッコは……は?」


『増えてますね』


 昨日は1羽だったヤコッコが2羽に増えてるんだけど、どういうこと?

 まさか分裂したわけじゃないだろうし、やっぱりあの崖の上から降りてきて、仲間を見つけて合流した?


「えーっと……」


【ヤコック】

『家禽であるコッコの原種。もしくはコッコが野生化したもの。雌はヤコッコと呼ばれる』


 説明からしてこっちが雄らしい。

 コッコは雄雌関係なく『コッコ』なのに、野生化すると名前別なんだ……


「クケークケー!」


「あ、餌が足り無くなってるのか。そりゃそうだよな」


 まあ、オーダプラはもういくらでも収穫できるし、葉っぱならいくらでもある。

 一応、ルピにまた見ておくようにお願いして、いくつか収穫してこよう。


『ショウ君、このまま放っておくと、どんどん増えていく気がするんですけど』


「うん、俺もそんな気はしてるんだけど……。10羽未満ぐらいで抑えられないかな?」


 ヤコッコから卵は欲しいし、そのために増えて欲しいのもあるけど、数が増えすぎると面倒を見る手間ばっかり増えちゃうし。

 大陸で畜産してるプレイヤーとかどうしてるんだろう……ってNPC雇うんだよな。

 しかし、この島にはNPCがいるはずもないので、手伝ってくれそうなのはフェアリーたち……は無理だろうしなあ。


『畜産スキルで数を抑えられたりしないんでしょうか?』


「なるほど……」


 あとはまあ……増えすぎた分は食肉になんだろうけど、ミオン的にオーケーなのかどうかかな。

 いや、フォレビットとかグレディアとか仕留めて解体してるし、今さらって気がする。


「クケー!!」


 おお、こっちが新入りか? なんか威勢がいいけど……


「バウッ!」


「クケ……」


 ルピに吠えられて「いや、なんでもないっす……」みたいにきょどり始める新入り。

 まあ、腹が減ってるんだろうし、そんな怒ってやるなとルピを撫でる。


「これで足りるか?」


「「クケ〜」」


【餌付けに成功し、飼育対象となりました】


 飼い葉桶にオーダプラの葉っぱをどっさりと入れると、器用にその縁に乗って食べ始める2羽。まあ、しばらくは様子見だけど、これで増えたりするのかな?


『ショウ君、部屋の右隅に』


「え? あっ、卵!」


 小屋の右隅、土が盛り上がって少し高くなってるところに、真っ白な卵が1個。

 取っていいのか悩むところだけど……鑑定すれば何かわかるかな?


【ヤコッコの卵:無精卵】

『ヤコッコが産んだ卵。食用で栄養価が高い』


「ああ、なるほど。畜産スキルでわかるんだ」


『ニワトリの卵より大きい気がします』


「うん、LLサイズかな」


 無精卵なら取ってもいいか。

 ニワトリと同じだったら、黄身の大きさはあんまり変わらなくて、卵白が多いパターンなんだろうけど。


『ショウ君は、卵を使ったお料理とかお菓子も作れるんです?』


「簡単なのだとプリンとか? でも、牛乳がないとね」


 さすがに崖から牛が降りてきたりは……しないよな。

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