第202話 餌付けに違いない

 結局、あの後、ベル部長に空間魔法を知った経緯を説明。

 といっても、地図を作るためのメートル原器の魔導具が欲しいって話が、どういうわけか空間魔法の魔導書が来たって話だけど。


 その説明と火曜にアップする動画の確認をしたところで、微妙な時間になったので、部活自体を早めに終わりにすることになった。


「ごちそうさま」


「ワフン」


 いつもより少し早いリアル夕飯だったので、ログインも少し早め。

 放課後にルピに会えなかったので、拗ねてないかなとか思ってたけど、全然そんなことなくて……


『部長はどれを選ぶんでしょうか?』


「まあ、一つだけって話じゃないし、やっぱり魔導書が必要っぽいから、魔導書を見つけたやつを取るんじゃないかな?」


『なるほどです。でも、元素魔法だけ魔導書がないと魔法が増えないのは大変ですね……』


「そうなんだよな。まあ、古代遺跡の塔とか死霊都市とかで見つかれば、それが複製されて出回るようになると思うけど」


 元素魔法は基礎魔法学と応用魔法学の魔導書で呪文が増える感じ。上位の重力魔法、結界魔法、空間魔法はそれぞれの魔導書が必須っぽい。

 俺が持ってる空間魔法の魔導書でも<測定>だけは、元素魔法スキルで使えたし、その辺りは厳密ってわけでもなさそうだけど。


「さて、今日は畑の日だよね。まずはここの家庭菜園からかな」


『はい!』


 ………

 ……

 …


 土間の隣の家庭菜園は15分ほどで終わり。

 今のところはレクソンとルディッシュしか植えてないし、それも教会裏の方に植え替えが終われば花壇にする予定。


 古代遺跡を出て、いつもの参道っぽいところを進むと、教会の尖塔が見えてきて……


「〜〜〜♪」


「「「〜〜〜♪」」」


 スウィーを先頭にフェアリーたちが先行して飛んでいってしまう。

 まあ、グレイプルの実は食べ放題みたいな状態だもんなあ。


「ワフ」


 ルピが「しょうがないなあ」って感じで追いかけようとしたところで、


「「「〜〜〜!」」」


 フェアリーたちの悲鳴? が聞こえてきて、慌てて駆け出すと……


「え?」


 スウィーたちの目線の先にはオーダプラ(じゃがいも)の畑が。いい感じに育ってた葉っぱは、どれもボロボロに食い荒らされてて……


「〜〜〜!」


「ワフッ!」


 スウィーが指差し、ルピが駆けだした先には……ニワトリ!?

 慌てて逃げ出そうとしたそいつの前に一足飛びに回り込むルピ。


「ルピ、待て!」


『ショウ君?』


 ミオンには悪いけど、こうするのが一番早いはず。


「よっと」


 隠密スキルを発動し、一気に近づいてから、両手でグッとそいつを抱え上げる。

 結構でかいニワトリだな。いや、ニワトリじゃないのか?


【隠密スキルのレベルが上がりました!】


 お、ラッキー。

 というか、レベル低いスキルはマメに使ってレベル5にしないとだよな。


『隠密スキルだったんですね』


「うん、ごめんごめん。言う暇が惜しかったから」


 普通に捕まえようとすると、絶対に追いかけっこというか、面倒なことになる気がしたので。隠密スキル、こう言う時にも便利だなあ。

 で、こいつはっと……


【ヤコッコ】

『家禽であるコッコの原種。もしくはコッコが野生化したもの。雄はヤコックと呼ばれる』


『その子はニワトリさんですか?』


「多分そうだと思うんだけど、ちょっと待って」


 えっと、こっちを選べばいいはずで……


【コッコ】

『体長50cmほどの鳥。ヤコッコが家禽化したもの。飛行能力が衰えているため、一般的な家禽として、卵のために飼育されている』


『ついに卵ですね!』


「うん。それは嬉しいんだけど、1羽だけってのもなあ」


 さすがにニワトリを飼ったことは無いんだけど、1羽ってわけにはいかないよな?

 もう1羽、雄鶏もいれば増やせそうな気がしなくもないけど……


『そもそも、どうやってこの裏庭に来たんでしょう? あまり飛べない鳥みたいですし、表の門は閉じたままですよね?』


「あ、そうだった。ちょっと見てこようか」


 ヤコッコを両手で抱えたまま、教会の表側へと来てみたが、門はきっちりと閉まった状態で一安心。


「うん、良かった。けど、こいつどこから来たんだ? いや、そもそも原種だから、結構飛べるのか?」


 思わず手元のヤコッコを覗き込むと……怯えてるのかブルブルと震えててちょっと可哀想になってきた。


「結局、どこから来たんだろ?」


「ワフ」


『ルピちゃん?』


 ルピが何か気付いた? ああ、どっちに逃げようとしたかわかったから?

 スタスタと歩いていく先は、教会の正面から見て右側の狭い方。


「ワフ!」


 見上げた視線の先は10mほどの崖の上。

 少しだけ樹々が開けてて……あそこから降りてきた? 落ちてきた?


『あの場所から来たんですね』


「っぽいね。それはそれとして、あそこからモンスター出てきたりしないかな?」


『あ……』


 まあ、どうしようもないし、あんまり気にしてもしょうがないか。


『どうしますか?』


「なんか可哀想だし、今日のところは逃すかな。畑はなんか対策考えようか」


 木の柵でも作って、細いロープを張り巡らすとかかなあ。

 そんなことを考えながら、ヤコッコをポイッと放り上げたんだけど……


「クケー! ……クケ」


 必死に羽ばたいた後、崖の半分にもたどり着かずに落ちる。


「ええー……」


『帰れないんですね……』


 餌を見つけて飛び降りたは良いけど帰れないってオチか。なら、モンスターも降りてくる可能性は低そう?

 そういや、でかいムカデが鳥を食べてたっぽいけど、こいつらだった可能性が。あの時に残ってた骨を鑑定してれば気づけてたのか……


『ショウ君、調教スキルはダメですか?』


「あー、ダメだと思う。ルピの時みたいに【調教可能】とか出てこないし」


 ある程度は賢くないとダメか? いや、そもそも仲良くなれてないしなあ。

 それか、畜産スキルのための動物って設定されてる方がしっくりくるか。


「やっぱ畜産スキル取ろうかな」


『ショウ君、レベルアップでもらったBP使ってないままですよね?』


「うん。ちょっとタイミング的に悩んでる状態で」


 隠密スキルは先駆者の褒賞を取れたおかげで、結果的には+1だったんだけど、その後で水生生物学とか地図とか取ったからなあ。


「まあ、畜産スキルは取るとして、こいつどうしよ? ほっとくとグリシンとかも食われちゃいそうだし」


『山小屋に連れて帰ります?』


「うーん、泉の近くのグリーンベリーとか摘まれるとなあ……」


 左肩に座ってるスウィーが「うんうん」と頷いてるし、連れてくよりはここに飼う方がいいよな。

 どこか良さそうな場所はとぐるっと教会の周りを……


「あ、ここでいいか」


『馬小屋ですね』


「うん。ここならまあ、そこそこ広いからいいか。ちょっとボロくなってる箇所はあとで修繕しよう。ルピ、ちょっと逃げないよう見張ってて」


「ワフ」


 馬小屋にヤコッコを放すと、ルピがその前にお座りして逃がさない構え。

 今のうちに畜産スキルを取ろう。えーっと、これだな、必要SPは1のコモンスキル。


「よし、これでどうかな?」


【ヤコッコ:恐怖(飼育不可)】


『……怖がられててダメなんでしょうか?』


「かなあ。とりあえず餌あげるか」


 ルピが見ててくれるので、ちょっと畑へ戻り、オーダプラを収穫してから、食い荒らされた葉っぱの方を……リアルのじゃがいもは毒があるらしいけど、食べてたし大丈夫だよな。


「ほら、食べてみて」


 ヤコッコがビクビクしながらも、オーダプラを食べ始める。

 食べ始めたらそっちに夢中なのか、すごい勢いで食べ始めて……だいぶ落ち着いてくれたかな?


【餌付けに成功し、飼育対象となりました】


「お? なんか上手くいったっぽい」


『ショウ君、さすがです!』


「いや、餌あげただけだから……」


 そういえばと左肩に座ってるスウィーを見たら、


「〜〜〜!!」


 一緒にすんなって感じで平手打ちされました……

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