月曜日

第201話 ついポロッと……

「ああ、来たわね」


「あ、すいません」


 ちょっとホームルームが長引いて、部室に来るのがいつもより遅れたら、ベル部長が部室前で待ってたっていう。

 部室を開けて、いつもの席へ。ベル部長はいつも通り、エナドリつき。


『部長、昨日のライブで元素魔法の上限突破をしたって』


「え? マジで?」


 お昼とかに言ってくれれば……って、言われたからどうって話でもないか。今この時間に本人に聞けばいいんだし。

 いや、いいんちょも一緒だったんだよな? ミオンはいいんちょから聞いたんだろうけど、昼に話に出なかったのは……土曜の俺のライブと、新しいワークエPVの話がメインだったな、うん。


「ええ、それもあるし、古代遺跡の塔の11階にも行けたわ」


 るんるん笑顔で昨日のライブのアーカイブを開くベル部長。

 元素魔法の上限突破ってことは、その上位スキルが取れるようになったはず?

 それにゲームドールズやファンの人たちが行き詰まってた11階にどうやってっていうのも気になる。


『上限突破は装備でですか?』


「ええ、これよ」


 部長が動画を早送りし、戦ってる相手は……ゴースト? 古代遺跡の塔ってゴブリンとかオークとかその上位モンスターが主だと思ってたんだけど。


「これってゴーストですよね? なんでここって?」


「ええ、ゴーストウィザードっていう、ゴーストマジシャンの上位種かしらね。

 ポリーさんがマッピングしてくれてたんだけど、それを見たセスちゃんがおかしい点に気づいたのよ」


 少し動画を巻き戻すと、行き止まりになってる通路を訝しんでるセス美姫


『この先に3m四方ほど空間があるのではないか?』


『でも、どうやって確認するの?』


 ポリーいいんちょが描いた地図を、セスが覗き込んであーだこーだ言ってる感じ? ゴルドお姉さまが『私が殴ったら壊れないかしら?』とか。

 結局、ポリーが土の精霊にお願いして、直径30cmほどの穴を開けると、そこから出てきたのが……


「隠し部屋だったんすね」


「ええ、結構狭い空間だったから、かなり気をつけてないと気づかなかったでしょうね」


 戦闘自体は楽勝というか、ゴルドお姉様の神聖魔法の祝福を受けたセスがあっさり退治して終わり。


『セスちゃん強すぎです』


「そのドロップのアミュレットが元素魔法+1だったのよ。あっさり倒しちゃったけど、魔法で先制されてたら危なかったかもしれないわね」


 ドロップする前はこのゴーストが持ってたわけだし、先制されてたらやばかったのか。

 それこそ、ゴルドお姉様がパンチして壊してたら、不意打ちを喰らってた可能性もあったと。


『この小さい部屋にずっと潜んでたんでしょうか?』


「ええ、そのまま亡くなったのかしらね。ひょっとしたら、ワールドクエストの話にあった『厄災の日』の影響を受けたのかもしれないわね」


 動画では戦利品の回収と鑑定、分配を終えたところで、ベル部長がそれを身につけると、


【ワールド初のスキルレベル上限突破(元素魔法):3SPを獲得しました】

【元素魔法の上位スキルが獲得可能になりました】


「おお! すごい!」


『おめでとうございます!』


「ありがとう」


 動画上でもパーティーメンバーや視聴者に祝福されて照れるベル部長。投げ銭もばんばん飛んでるし。

 上位スキルの話が気になるけど、動画の方はその話はいったん保留。

 ライブ中だし、ともかく先に進んでみようということになり、ポリーが休み休み穴を広げていく。


『土の精霊でもショウ君の魔法と同じことができるんですね』


「まあ、ノームが似たようなことやってたしね」


 あれはツルハシに土の精霊が助力してるとかなのかな。


「精霊魔法でもMP消費がかなり厳しいみたいだったわ。ショウ君のマントがとんでもない証拠よね……」


 そういやそうだった。

 MP回復が早いし、ルピのマナエイドもあるしで、MP足りなくて困ることあんまりないんだよな。


『これは部屋だった感じですか?』


「ええ。本当はこの壁を壊して入るんじゃなくて、左側にある部屋のクローゼットの奥が隠し扉だったみたいね」


「それ気づくの難しすぎじゃ……」


「何かしらスキルが必要なんじゃないかって、コメント欄でも流れてたわ」


 ああ、そういうことか。

 発見とか看破とかってスキルあったっけ? 俺が持ってる罠発見とかだとワンチャンあるのかな?


『あ、奥に階段があって上に行けたんですね』


「ええ、結局、転移エレベーターで直接行けるようになったのは、これを上って11階に出てからね」


 撤収に乗った時に、11階も行けるようになってたらしい。そういうところは、すごくゲームっぽいんだよなあ。


 11階に出たベル部長一行。

 出てくるのは前衛にウッドゴーレムやストーンゴーレム、後衛のゴーストやスケルトンは元素魔法を使う感じでなかなか激しい。


「きっついすね……」


「ええ、一気にレベルが上がった感じがしたわ。多分だけど、上位スキルがあること前提ぐらいのバランスじゃないかしら」


『それでもしっかり勝ててるのはすごいです』


 そうなんだよな。ゴルドお姉様の神聖魔法と、ポリーの光の精霊が大活躍って感じだ。

 セスも祝福もらってるおかげもあって安定したタンクっぷりだし。ファン枠で参加してるバッソ持ちの人も、円盾と斧でサブタンクしてるドワーフの人も、立ち回りが上手くて感心する。


「あれ? そういえばレオナ様はいなかったんです?」


「日曜はFFulldiveVirtualVIdleChampionCshipの団体決勝があって、その後に表彰式があるのよ。めんどくさいから欠席しようかなんて言ってたから、ちゃんと出るように言ったわよ」


 と苦笑いのベル部長。

 まあ、じっとしてるの苦手だろうな。そういうところは真白姉と気が合うのもわかる。

 結局、30分ほど11階を探索したところで戻り、例の部屋に下りたところでライブは終了。その後は10階から撤収したそうだ。


「じゃ、上位スキルはまだ取ってない?」


「ええ。どれを取ろうか悩んでて、ちょっと意見が欲しいのよね」


 なるほど、取れるようになる上位スキルがいくつかあるんだ。

 俺が気配遮断スキルで上限突破した時は、隠密スキルだけだったからか……


「これが取れる上位スキルよ」


 ベル部長がライブ後に個人的に録画してあった動画を取り出して見せてくれる。

 えーっと、重力魔法、結界魔法、空間魔法……


「あー! 空間魔法って上位スキルだったんだ!」


 それで、基礎中の基礎の測定しかできなかったんだな!

 じゃ、まずは元素魔法で上限突破しないとか。てか、アージェンタさん、上位スキルの本をいきなり送ってくるとか、一体どういう……


『ショウ君……』


「知ってるのね? 空間魔法がどういうものかを」


「あ、はい。すいません……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る