第200話 女神と竜と人と

「じゃ、帰ろうか」


「ワフ!」


『忘れ物はないですか?』


「うん、大丈夫。だと思う」


 持ってきた釣り竿と仕掛けは置きっぱに。

 グレイプルはワインとワインビネガーになって量が減ったし、グリシンは小さい樽ごと置いていくつもり。持って帰るもの、案外少ないよな。


「〜〜〜!」


「はいはい。カムラスの実ね」


 アージェンタさんにコンポートにして渡した分、ちゃんと採集して帰れと女王様。

 まあ、バックパックに空きがある分はたっぷり採集して帰ろう。


「今日のグレープフルーツのコンポートどうだった? 後から気がついたんだけど、デパ地下だったらはちみつも売ってた気がしてさ」


『すごく美味しかったです! 今度ははちみつで作ってくださいね』


「うん」


 雑談しながら採集してると、あっという間にバックパックいっぱいに。それを眺めて「うへへ」とよだれを垂らしてだらしない顔のスウィー……


『ショウ君、ワールドクエストの画面、見せてもらっていいですか?』


「あ、うん。昨日のアレが何かしらヒントになって進んでくれてるといいけど」


 昨日の大騒ぎになったライブ、アーカイブも再生回数がとんでもないことになってるし、アージェンタさんが出たあたりは切り抜きされまくってるらしい。

 大半はちゃんとうち『ミオンの二人のんびりショウタイム』を引用元として明示してて、そっちでの再生もうちの再生にカウントされるんだとか。


「お、20%超えてる。めちゃくちゃ上がってるじゃん」


『ショウ君のおかげですね!』


「いやいや、なんかちゃんと調べた人がいるみたいだよ」


 夕飯の時に美姫から聞いた話だと、古いギルド日誌に例の暴走事故が起きた時の話が載ってたんだとか。

 暴走した施設は、アージェンタさんの話で聞いてた通り、周囲から魔素を集めて結晶化し、巨大魔晶石を作る施設だったらしい。

 それを書いたのがアミエラ子爵のご先祖様で、そのまま今のウォルースト王国の建国に携わったと。


『すごいですね。セスちゃんはそれを子爵様に聴きに行くんですか?』


「うん、明日ね。今日は今ごろ古代遺跡の塔のはずだし」


 俺としても、そろそろベル部長に元素魔法で上限突破してもらって、上位スキルを教えて欲しいなあと。


『そうですね。あと他の応用魔法学とかも』


「だよな。空間魔法、今はたいしたことできないんだけど話しづらいし……」


 今度のワールドクエストの死霊都市って、かつては古代魔導都市だったわけだし、魔導書とか魔導具とかいろいろ見つかってくれるといいんだけど。


「バウ!」


「ワフ!」


 山道に入ったところで、ドラブウルフの家族たちがお出迎えしてくれる。

 いつものように、お座りするルピの前に伏せなんだけど。尻尾を左右にふりふりしてて嬉しそう。


「ってか、ミオンは今日はベル部長の方は見てないの?」


『はい。今日はショウ君だけ見ていたいので』


「あ、うん……」


 膝枕されて頭を撫でられたことを思い出して、めちゃくちゃ恥ずかしくなる。

 やっぱり……我が親友にちょっと相談するか……


「ワフ?」


「ごめんごめん、行こう」


 ルピが「どうしたの?」みたいな顔で覗き込んできたので、気を取り直して移動再開。


『あとは竜貨でしょうか?』


「あー、それなんだけど、女神が砕いた巨大魔晶石のかけらのことなんじゃないかって」


『女神様が?』


 その施設の暴走は竜族がマナを目一杯注いで、瞬間的な負荷を上げることで止めたらしい。で、残った巨大な魔晶石は女神様が砕いて、世界中にばら撒いたんだとか。


「竜のマナが混じってるわけだし、その暴走を止めた功績を讃えて『竜貨』って呼ばれてるんじゃないかって」


『メダルみたいなものですね』


「そうそう。んで、子爵様は竜貨を持ってるだろうから、見せてもらうつもりだって言ってたよ」


『なるほどです』


 その話が本当なら、王国の成り立ちからして竜族の命令で建国してるようなものだし、王族や貴族なら持ってそうだよなと。


「ん?」


 先頭を行くドラブウルフが立ち止まり、ルピもぐっと四肢を踏ん張る。

 気配感知に引っかかるのは……ランジボアか。


「ルピ、俺が受け止めるから、あとは任せるよ」


「ワフ!」


 今日はちゃんと円盾で受け止めないとな、うん。


 ………

 ……

 …


「今日もありがとうな」


 ドラブウルフの子供たち2匹の頭を撫でてあげると、すごく嬉しそうに尻尾を振ってくれる。

 ランジボアはきっちり円盾で受け止めたら、あとはルピとドラブウルフたちが……みたいな感じで楽勝っていう。短剣のスキルレベル上げる機会がない感じ。


「ワフ」


「バウ!」


「またな〜」


 ドラブウルフたちを見送って展望台まで戻ってきた。

 スウィーが律儀に花を摘んできて、ルピのお母さんのお墓に供えてくれる。


「いつもありがと」


「ワフ〜」


「〜〜〜♪」


 こういうところは女王っぽいんだけどなあ。

 甘味が絡むとなぜあんなにダメになってしまうのか……


『ショウ君、戻ってからはどうしますか?』


「うーん、9時半過ぎぐらいになると思うし、まずは留守番してくれてたフェアリーたちにコンポート作ってあげようかなって」


「〜〜〜!」


 スウィーが「ナイス!」みたいにサムズアップ。

 留守番してくれた分のお土産にはちょうどいいと思うし、一人一個ぐらいの量なら蜜も足りるはず。多分。

 抜け穴をくぐって古代遺跡の中へ。右手に見える崩落は不安な状態で安定してる感じ。


「ここも何か考えないとな」


『土木魔法でなんとかでしょうか?』


「掘るとなるとね。ただ、灯台の裏側からこの向こうまでこれないかなって」


『あ!』


 繋がってるといいなーっていう願望だけど、危険そうな場所にわざわざ手をつける必要がないなら、それに越したことはないし。

 転移エレベーターを降りて十字路に。教会の裏手に寄ってもいいんだけど、カムラスの実でインベもバックパックもいっぱいだしな。


「あとは、教会の表の門の向こうか」


『新しいエリアですよね』


「多分ね。とりあえず廃屋があるあたりまでは確認したいな。何か残されてるかもだし」


 港の酒場のところに魔導醸造器が残されてたみたいに、あの廃屋にも何かしらの魔導具が残ってるといいなあ、とか。


『次の水曜のライブは教会裏でいいですか?』


「おっけ。スウィー以外のフェアリーたちも紹介したいし、あとは畑とか教会の中も見せようか」


 平日水曜のライブはのんびりまったり行きたい。

 畑は普通に畑だし、教会も中身は普通で女神像がないぐらいでおかしなところはないはず。

 フェアリーの蜜については……コンポート見せちゃってるから隠す意味はないか。スウィーの特別なやつはアレだけど、普通のなら大丈夫、多分。

 ただ、前回のライブでアージェンタさんが来ちゃったから、そっち関係で荒れないかが心配なんだよな……


『女神像のことも聞いてみますか?』


「ああ、それいいかも。女神像って自作しても大丈夫なのかとか」


『ショウ君、女神像を自作した人は多分いないと思います……』


 あ、うん、はい……

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