第198話 最新ワールドクエストPV
『では、出発します』
今日のメイン、ミオンのために釣り服を、いや、釣りっていうかアウトドア系の服だよな。
ともかく、そっち系の服を買うなら典型的なデパートよりも、アウトドアブランドを扱う大型店の方がいい。
釣り具の量販店でもいいんだけど、あんまりしょぼいものを着せるとそれはそれでって気がするんだよな。お嬢様だし。
「いつも服って雫さんが選んでるの?」
「うん」
「なるほど……」
ミオンの私服はほとんどがワンピースっていう、うんまあ、似合うけどな感じ。
さすがに白ワンピにストローハットでアウトドアのお店はどうかと思ったので、数少ない白シャツに紺のロンスカっていう地味な感じに着替えてもらった。
デパ地下でも浮いてたし……
「ちょっと思ったんだけど、スタイリスト? そういう人が会社にいたりしないの?」
その問いにミオンがふるふると首を横に。
芸能事務所なんだし、そういう人も雇ってたりしそうなんだけど……
『スタイリストにはスタイリストの事務所があります。一部、個人契約している方もいますがタレントさん専属になりますね』
スピーカー越しに椿さんが答えてくれた。
そういうものなんだ。
『それに関係者のほとんどがお嬢様のことを知りません』
「え、そうなんだ」
こくこくと頷くミオン。
まあ、俺も母さんの職場の人とか全然知らないし、そういうものか。
家と職場が同じなんだから、なんとなく顔を合わせそうな気がしたけど、そもそもあの階まで行かない感じなんだろうな。
『ところで、今日買う服は一着だけでしょうか?』
「え、まあ、そのつもりですけど」
『今後のことも考えて、二、三着買っていただいた方がと思いまして』
「はあ、いいんですけど、この支払いって必要経費の方ですよね?」
『はい。すでに熊野先生より、5月末の支払額がどれくらいになるかは伺っております。早めに税金対策をした方が良いかと……』
そういや、最初のライブで30万以上は稼いだんだっけ。
ベル部長の話だと、投げ銭だけじゃなくて、動画の再生回数に応じた広告表示分がプラスされるとか言ってたし……金銭感覚がおかしくなってヤバい気がする。
いや、ミオンのチャンネルだから、ミオンのために使うのは別にいいのか。ミオンのための経費なんだもんな。
「じゃ、気にいるの探そうか」
「ん」
ま、困ったら色違いを選べばいいか。
定番のピンクとホワイトでも可愛いよな。
***
「ふう」
あれやこれやと選んでは試着してを繰り返してるうちに2時間。
結局、一揃い三着分買って帰宅。帰宅って言っても、ミオンの家だけど。
「お疲れ様でした。お茶を淹れてきましょう」
「ん」
ミオンに引っ張られ、リビングのソファーへと腰を下ろす。
疲れたってほどでもないけど、休日にリアルで歩き回ったのって久々な気がする。
フルダイブは運動した気になるだけだから、注意しないとだよな……
「どうぞ」
「あ、すいません」
運ばれてきた程よい熱さのお茶を一口飲んでホッと一息。
ミオンがちょいちょいと……タブレットを見せてくれるんだけど、
「ベル部長からメッセ?」
「うん」
ミオン宛てのメッセを俺が見ていいのかなって気がしたんだけど、ミオンは構わず開封してしまって……
「IROの新作PV? ああ、ワールドクエスト新しいの始まったから……」
待て。前回のPVは俺とルピが戯れてるところをバッチリ撮られてたよな? 今回もまた映ってる可能性?
ミオンがエアディスプレイを起動して、公式ページを開いてくれるんだけど、どーんと真ん中に『最新ワールドクエストPV』。
いや、今回は俺映ってないよな。ワールドクエストPVって書いてあるし……
「?」
「あ、うん。見ようか」
再生が始まって、エアディスプレイ全体に広がる動画。
そして……なんか上空からの映像がどんどんとズームして、映し出されたのはゴブリンやオーク、その上位種の集団。これは前のワールドクエストのラスト?
『撃て!』
「おお、ナットじゃん!」
仮の街壁の上から矢の雨が降り注ぎ、次に現れるのはベル部長。
火球が飛んでいって爆発したところで画面が切り替わり、今度はレオナ様か。
双剣を使ってまるで演舞のようにゴブリンたちを切り刻んでいく。
「すごすぎ……」
ついでとばかりにオークリーダーに苦戦してる有翼人を助け、一瞥もくれずに次の敵へと。
フィニッシュって感じの両手攻撃と共に画面が切り替わる。
今度はどこだ? うわ、あの3mぐらいあるのって巨人かな……ってことは帝国の北側だっけ。
なんか強そうな人が『ヒャッハー』してて、ここは楽勝だったのか。巨人たちも持ち前のパワーで圧倒してるし。
続いては公国かな? ここは結構大変そう。純粋に戦力が足りてなかった感じなのかな。
それでもエルフの人たちが活躍してるな。これってNPCなんだっけ?
画面がまた切り替わって、最後ってことは例の聖国だよなあ。
かなりモンスター側が押してるっぽい。ってか、これもう持たないのでは?
『ここは任せて先に行け!』
ウルクだっけ? ボスモンスターの棍棒の一撃を大盾で受け止めたタンクが叫ぶ。
なんかベタなセリフだけど、状況がそれっぽい感じでなかなか。
いや、もう逃げる場所なくない? とか思ってると、カメラが切り替わって丘の上からそれを眺めてるのは……氷姫アンシア。
さっと右手を振り下ろすと、大勢の兵士がなだれ込んでいく……
「うわぁ……」
画面が暗転し、テロップが表示される。
【帝国の動乱は
やがて聞こえてくるのは足音? そして、
『みんなまだ行けるか?』
『ああ、大丈夫だ』
『せっかくここまで来たんだ。行けるとこまで行こうぜ』
声とともに、徐々に映し出されるのは鬱蒼とした森の中。これは結構深いところまで来てるのか。
現れるスケルトンやゾンビ、ゴーストを蹴散らしながら進軍していくと……
『おいおい、マジかよ……』
森が開け、その先に見えるのは大量のアンデッド、そして、その向こうにそびえ立つ街壁、どす黒い霧に覆われた都市。
「なるほど。これが死霊都市か……」
カメラがパーティー視点から少しずつ離れ、だんだんと俯瞰視点になっていく。
ちょっと引くぐらいアンデッドがいて、これは確かに許可がないとって感じ。
ミオンに腕をぎゅっと掴まれてちょっと驚いたけど、そういや最初にアンデッドと戦った時も驚いてたし、まあ普通は苦手だよな。
「うわ、アージェンタさんだ……」
鳥瞰視点まで来たなと思ったら、その視点はアージェンタさんでしたって感じに。
そのまま、山脈の方へと飛び去ったところで、
【Iris Revolution Online】
とタイトルが表示される。
よし! 俺の出番はなかった!
「ぁ……」
「え?」
画面が暗転して終わったはずが、一転して島の展望台。
眼下に広がる島の南側を眺める俺、ルピ、スウィー。
『じゃ、行こうか』
『ワフ!』
『〜〜〜♪』
俺たちが水源地の方へと去っていく後ろ姿を写しつつ、画面がフェードアウトし、
【無人島スタート再開! 詳細は公式ページにて】
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