第194話 投げ銭怖い

<はいー、ライブ終わりましたよー>


『ショウ君、お疲れ様です』


「うん。ミオンもお疲れ」


 コメント欄がまだ流れてて、しかもそのほとんどが投げ銭コメントって怖いんだけど。あ、そうだ!


「アーカイブのアージェンタさん出てる場所って残ってる?」


『あ! 確認しますね!』


 前に古代遺跡の地下で出会った時は、会話した部分がすっぱり消えてたけど、今回はどうなんだろ。

 運営も俺たちがライブやってるのは把握してただろうし、あそこまでオープンにして今さらライブオンリープロテクトも無いと思うんだけど……


<どういうことでしょー?>


「あー、前にドラゴンと出会って会話した時の映像が全く保存されてなくて。多分、ライブオンリーのプロテクトが掛かってたんじゃないかと」


<なるほどー。今回もそうかもということですねー>


 とりあえず、それを確認してから公開かな? もし消えてるようなら、注意書きというかお知らせ出さないとだろうし。


『大丈夫でした。今日のライブは全てちゃんと残ってます』


「ありがと。じゃ、そのまま公開にしようか」


『はい』


 そっちは任せて、俺は片付けかな……


「キュ?」


「あ、今日はありがとな」


 見上げるセルキーの頭を撫でると、すごく嬉しそうな顔をしてくれる。


「ワフ」


「ルピももちろんな」


 しっかりたっぷりと撫でてあげる。ルピが一番。

 それにしても、このセルキーは島に住んでる? だとすると、無人島とは言わない気がしなくもない。いや、妖精っぽいからノーカン? うーん……


【セルキー(王子):友好】

『妖精セルキーの王子。

 王となるための試練を受けるには、まだまだ幼い』


 ……

 ルピ、狼の王。スウィー、フェアリーの女王。この子はセルキーの王子。

 ミオン、社長令嬢。俺、ただの一般人……


「〜〜〜!」


「いででっ! ごめんごめん。でも、ああでもしないとアージェンタさんも大変なんだろうし。はい、これ」


 インベから小さな器を取り出してスウィーに見せる。

 渡したカムラスのコンポート、あれが全部ってわけじゃない。

 何かの時のため、具体的には毒持ちの相手が出て来た時用に取っておいた分。俺、ルピ、スウィー分の3個だけだけど。


「〜〜〜♪」


 スウィーが「な〜んだ、持ってんじゃん〜♪」ってにやけ顔でぱくっとかぶりつく。

 それをじーっと見つめるルピとセルキーにも分けてあげるあたりは、ちゃんと女王してるんだよな。


「キュ〜♪」


「ワフ〜」


 俺の分が無くなっちゃったけど、まあいいか。

 とりあえず、今日は早めにログアウトして、さっきのゴタゴタの時のコメント欄がどうなってたか確認しないとなんだけど……


「えーっと、君ってどこから来たの?」


「〜〜〜?」


「キュ? キュ〜」


 俺の言葉をスウィーが通訳して、セルキーに伝えてくれたのか、振り向いて入り江の南側の端を指差す。いや、指じゃなくてヒレか。どっちでも良いけど。

 岩棚が続く南側は、高い崖がそびえたって終わってるけど、その向こうに住んでる場所があるのか。ってことは、他にもセルキーがいる?


「まあ、いいや。今日はもう家に帰るし、この港にくるのは週一とかだって伝えてくれる?」


 コンポートを食べてご満悦なスウィーに伝えてもらうと、セルキーはふんふんと頷いて、懐から指先サイズの綺麗な緑色の宝石を渡してくれる。


「ん? これって……」


 なんだろうって鑑定すりゃいいんだ。えっと……


【セルキーの呼び子】

『セルキーを呼ぶことのできる笛。翡翠製。

 この笛で呼び出したセルキーには仕事と報酬を与える必要がある。

 水泳+1、潜水+1』


 ……なんかスキル補正ついてるけど、まあ、うん。

 どっちかというと『仕事と報酬を与える必要がある』の方が気になる。


「じゃ、今度来た時にまた呼ぶから」


「キュ〜♪」


 スウィーを介さなくても伝わったのか、セルキーがニッコリ笑ってから、くるっと振り向いて海へと飛び込む。いきなり飛び込まれるとびっくりするな……


「ワフ?」


「じゃ、片付けして帰ろうか」


 ログアウトしたら、ベル部長とセスに報告しとかないとだよな。

 明日はミオンの家に行ったり買い物したりだし、早めに解放してくれるといいんだけど……


***


「ただいま」


『おかえりなさい。お疲れ様でした』


「うん。ミオンもお疲れ。先生もありがとうございます」


「いえいえー、なんだか大変そうですがー、この間から秘密にしてたのはー、このドラゴンと出会ってた件ですかー?」


「はい。まあ、秘密にって言われてたんで」


 厳密には『古代魔導施設の暴走とそれによる惨劇』について秘密にって言われただけなので、出会ってたこと自体は話しても良いのかも。いやもう隠す必要ないか。

 ただ、ヤタ先生もそれ以上は聞いてこないし、それなら話す必要もないだろうし、それよりも……


「アージェンタさんが出たあたりからコメント全然見れてないんだけど……大丈夫だった?」


『はい! 皆さん、最初は驚いてましたけど、ショウ君がワールドクエストのヒントを探ろうとしてくれてるってわかったみたいで』


「察しのいい人たちで良かった。あのまま世間話するのもどうかと思ったし……」


 どうやって知り合ったのかとか、気になることは山ほどあるんだろうけど、とりあえずそれは水曜のライブまでに答えを考えとけばいいか。

 アージェンタさんと出会ったあたりの動画が消えてる件については、正直に話すしかないよな。


「お二人とも冷静で良かったですよー。それに投げ銭の合計額がいつもの3倍ぐらいになりましたー」


「ヤタ先生……。あんまり多くても問題があるんじゃなかったでしたっけ?」


「それはそうなんですけどねー。ミオンさんのお母さんからー、手抜きはさせないで欲しいとも言われてますしー」


 えー、マジかよとミオンを見ると、


『母は芸能活動には妥協を許さない人なので……』


「そりゃそうか」


 芸能事務所の社長さんだもんなあ。この間もギリギリまで仕事してたし。

 まあ、不真面目にやることでもないとは思うけど……


『ショウ君、辛くないですか?』


「ああ、大丈夫大丈夫。それより明日は遅刻したくないし、そっちの方が気になってるかな」


『はい!』


 てか、ベル部長とセス、早く来ないかな。

 11時になって来なかったら、先に上がるか……


『それで、ショウ君。一つだけ気になることが……』


「え? なんか変なコメント来てた?」


『これです』


 ミオンがそう言って見せてくれたコメントは確かに変なコメントだった。


【氷姫アンシア】「<情報提供料:30,000円>」

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