第193話 1%の男

『延長分は質問の時間にして良いですか?』


「おっけ。釣りの続きはまた今度で」


 さっきの仕掛けも無事っぽいし、予備の竿もあるけど、釣れるってわかったから今で無くてもって感じ。

 コメント欄をすごい勢いで流れていく質問なんだけど、多いのは……


『掘削の魔法についてでしょうか?』


「かな。あれって前の動画が初めてだっけ」


【ライジング】「あれはマジすごい!」

【ケーゼロワン】「ミオンちゃん、ベルたそに教えてあげてw」

【ナイトニ】「どういう魔法なのか教えて〜(^人^)」

 etcetc...


 ベル部長、石壁キャラがすっかり定着してる。

 それはまあ良いとして、どういう経緯で習得したかは……アバウトに話そう。


「簡単に言うと、山小屋の1階にあった本に応用魔法学<地>の魔導書があって、それを読んで、応用魔法学<地>のスキルを取ったんだけど、そのレベルを上げてたら、今度は土木スキルが取れるようなって」


【ムシンコ】「土木スキル!?」

【モルト】「幻の土木スキルは魔法の系統だったんか!」

【マンボー】「応用魔法学!」

【カルセルン】「他に土木魔法って何あるの?」

 etcetc...


 さらに突っ込んだ質問がすごい勢いで流れていくんだけど……なんとなく読めるようになってきたな。


「土木関連の魔法は<掘削>と<転圧>かな。まだ他にもあるのかもだけど、応用魔法学<地>で使えるのは、今のところその二つだけ」


 セス美姫に話した<落石>は普通の元素魔法のカテゴリーらしい。

 厳密にどっちのカテゴリーってわけでもないけど、土木のために作られた魔法なので、そっちにカテゴライズされてる感じ?


『掘削の魔法、畑作りにも役立ってますよね』


「そうそう。畑耕すの楽なんだよね」


『水曜は畑の紹介にしますか?』


「かな? まあ、次はのんびりライブにしたいよ……」


【カルローネ】「のんびり?」

【ケネス】「今日ものんびり釣りだったはずなのにね〜」

【ブルーシャ】「畑づくりも楽しみ〜♪(*≧∀≦*)」

【カティン】「またなんかやらかしてる気がするで……」

 etcetc...


 畑は普通のものしか育ててないはずだよな?

 あの教会はちょっと謎のままだけど、別にやらかし要素があるわけでもないし。


『次の質問は「ワールドクエストについてどう思いますか?」はどうでしょう』


「うーん……なんか大変そう?」


【ヨンロー】「めっちゃ他人事w」

【シェケナ】「運営にほぼ名指しで不参加扱いって言われてましたね(^_^;」

【サクレ】「実際、どうしようもないもんねえ」

【エムデイク】「竜族と交渉する方法、何か思いつく?」

【グリッドサン】「今のワークエのアドバイス欲しいw」

 etcetc...


「アドバイスって言われても……」


 もう知り合いだから、今さら交渉する方法とか言われてもなんだよな。

 出会いさえできれば、とろとろ干しパプを袖の下として送るとか? あとは……


「その死霊都市がどういう場所なのか調べるとか? なんか罠とかありそうだし……」


 その過程で、例の古代魔導施設の暴走の話とかに気づいてくれれば。とりあえず、それは知っておいてから、次の章に進んで欲しい気がする……


「キュ〜!」


「ワフ!」


「うん、お粗末さまでした」


 綺麗にラティオのカルパッチョを平らげて満足そうなセルキー。

 コメント欄も質問モードから、なごみモードになったし、そろそろ最後の質問にしてもいいような気が……


「ん?」


 急に自分たちの周りだけ暗く、いや、日差しが遮られて影が落ちてるだけか。

 また、急に雨でも降ってくるのかと見上げると……


「え? マジ……」


【ドライチサン】「は? ドラゴン!?」

【シューメイ】「ドラゴン来た!」

【ウッピー】「シルバードラゴン!?」

【ラムライダ】「は!?」

【デイトロン】「<流石にキャパオーバー(゜o゜;:10,000円>」

 etcetc...


 あー、アージェンタさんだよな。わざわざ何しにきたの? ってか、このタイミングでって……


<かなり予想外っぽいですがー、ライブは続けますかー? 時間はまだ15分ぐらいありますよー>


 ヤタ先生、冷静だな……


『ショウ君、ライブは』


「あ、うん。続けるけど時間で切れちゃったらごめん」


 その言葉にコメント欄が沸き上がる。

 今ここでライブ強制終了したら、ミオンが何言われるかわかったもんじゃないし……


「ショウ様!」


 上空からアージェンタさんの声が響く。

 ルピとスウィーは平気そうだけど、セルキーは怖いのか俺の後ろに隠れて、コートをぎゅっと掴んでるし。


「大丈夫だよ」


 着ぐるみのアザラシのフード(?)を撫でてると、堤防の根元にアージェンタさんが降りてきて……人の姿に変身できたんだ。

 銀髪で背の高い……イケメン執事? 年は真白姉と同じぐらいに見えるけど、本当の年齢はもっとずっと上だよな。

 そのままこっちに駆けてくるんだけど、執事スタイルならもう少しこう優雅に歩いた方がいいんじゃないかとか。


「突然お邪魔してすいません」


「いえ。えっと、何かありました?」


「私が別件対応で目を離している間に、お姫様ひいさまが甘味をですね……」


 そこまで言って目を逸らすアージェンタさん。ああ、全部食べちゃったと……

 で、追加でもらってこいってパシりに出された的な? まあ、空間魔法の本ももらったし、ちょうどいいからあれを渡しておくか。


「まとまった量は後日送るんで、とりあえず今日はこれ持って帰ってください」


 インベから取り出したのは、カムラスのコンポートが入った小さな瓶。サロンリザードの革で作った蓋を取って中身を見せる。


「これはまた……」


「〜〜〜!!」


 スウィーが「それはやめて〜!!」ってフードから手を伸ばし、俺の耳たぶを引っ張る。


「いでででっ! スウィーにはまた作ってあげるから!」


「スウィー様、申し訳ありません……」


 スウィーに深々と頭を下げるアージェンタさん。

 ほっぺたをぷくーっと膨らませ、腕組みしたままぷいっとそっぽを向いてるけど、まあまあ許してくれたってことで良いだろう。

 なんかコメント欄がすごいことになってるのが見えて……まあそうだよな。


「別件ってアンデッドがいっぱいいる都市の件ですか?」


「すでに聞き及んでおられましたか。確かにそちらも手一杯でして……」


「人の力を借りるというのは?」


「彼の地で起きたことを知らぬ者は立ち入らせぬようにとお姫様ひいさまが。内部調査もあまり進んでいませんので、我々としても信用に値せぬ者を入れるのは反対です」


「ああ、確かに……」


 そりゃそうだよな。

 なんかまたとんでもないものがあって、それを知らずに起動されたりしたらって考えると……


「でも、竜族に信用されるって大変じゃないです?」


「いえいえ、ショウ様ならお任せできますよ。ルピ様やスウィー様、またセルキーにも好かれているようですしね」


 とニッコリされるんだけど、残念ながら俺はそのつもりは全くないので……


『ショウ君、そろそろ時間が』


 あ、やべ。話し込んでるとあっという間だ。


「っとすいません。早く帰らないと待ってるんですよね?」


「そうでした! それでは失礼いたします。お礼はいずれ必ず!」


 コンポートの瓶を抱えたアージェンタさんが高く飛び上がると銀色の竜の姿へと戻る。

 そして、すごいスピードで東の方へと飛び去っていった……


『皆さん、ごめんなさい。そろそろタイムリミットなので、今日はここまでです!』


「ごめん!」


『それではまた〜』


「また〜」


「ワフ〜」


「キュ〜」

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