第192話 ある意味、大物

「これはでかいっ!」


【チャリンボウ】「大物ってなんだ!?」

【タイコスキー】「釣ったアジをイナダが食ったか?」

【ハリスン】「てか、切れるぞ!?」

 etcetc...


 やばいやばいやばい! 糸切れる!!


「えっ? あっ!」


 ふっと手応えが軽くなり、糸が切れたのかと思ったら、水面をジャンプして……


「あー、やられた……」


『え? 何があったんですか?』


【スイベル】「エラ洗い」

【メタルジーグ】「おいおい、エラ洗いまでしてくるのか、このゲームw」

【ヒッパー】「多分、シーバスだろうね」

【ボウズナシ】「貴重なシーンをありがとう!」

 etcetc...


 ミオンには何が起きたのかさっぱりなんだろうけど、コメント欄の優しい釣り人の皆さんが丁寧に説明してくれてる。

 魚が口を開けて水面をジャンプする奴だけど、釣り糸を切るためじゃなくて、針を吐き出そうとしてるらしい。

 俺自身、話に聞いたことがあるだけで、実際にやられたのは初めてかな。フルダイブ内を実際っていうのかどうかは微妙だけど。

 釣りスキルのレベル上がれば、対処できるのか? 思い出してみると、一瞬、スキルアシストさんが出てた気がしなくもない。


「まあ、しょうがないか」


 釣り逃した魚は大きいって言うけど、あれは50cmは超えてた気がする。

 逃した海面をぼーっと……ん?


【カンカンポ】「なんかいる?」

【ガーレソ】「え、何あれ?」

【ナーパーム】「はい? アザラシ?」

【シューメイ】「怪獣、もとい、海獣だ!」

 etcetc...


「え? なんか、めっちゃ見られてるんだけど、ひょっとしてモンスター?」


『ショウ君、戦う準備を!』


「いや、なんか敵意はない感じがするし、本当にただのアザラシなんじゃないかな」


 やばいって時はルピが真っ先に反応するんだけど、その素振りは全くない。

 なんで、ネームプレートが見えるぐらいに近づいてくれるといいんだけど……あ、近づいて来た。えーっと……【セルキー】って何?


【ムチョムル】「人魚?」

【ディアッシュ】「ジュゴンってこと?」

【ベアメン】「もきゅもきゅ〜(〃ω〃)」

【レジェリー】「セルキーと来たか!」

 etcetc...


 そのアザラシ、じゃない、セルキーがゆるゆると俺がいる堤防のすぐ下まで近づいてきて、水面に50cmほどの大きな魚を浮かばせる。


「キュ?」


「え? その魚って俺が釣り上げ損ねた奴?」


「キュ〜♪」


 伝わってるような伝わってないような……っていうか、この島、言葉が通じるNPCが出てこないんだけど? 妖精語とか精霊語とか、そういうスキル取らないとダメ?


『ルピちゃん。スウィーちゃんを起こしてくれますか?』


「ワフン」


 ミオンの言葉にぶるっと体を震わせてスウィーを叩き起こしてくれる。

 確かにスウィーなら話が通じる可能性が高そう……


「〜〜〜!?」


「スウィー、ごめん。ちょっと助けて」


 寝ぼけまなこでキョロキョロしたのち、セルキーに目が止まり、なんか納得したのかふわーっと飛んでいって……会話してるのか?


「〜〜〜♪」


 戻ってきたスウィーが、セルキーが取ってきた魚を指差し、置きっぱの調理道具を指差して、


『あのお魚でお料理でしょうか?』


「ああ、何か作ってってことか」


「〜〜〜♪」


「キュ〜♪」


【タラアミ】「通じてるw」

【シャズン】「スウィー超優秀」

【コージ】「さすが女王!」

【デイトロン】「<翻訳代:5,000円>」

 etcetc...


 作るのはいいんだけど、アザラシって生魚食べるくらいだよな?

 いやいや、それ言い出したらルピだっていろいろと食べてるし、そもそもゲームだから気にしすぎかな。

 まあ、マリネとかカルパッチョがいい気はする。


「んじゃ、料理するから、その魚を……場所変えないと上がってこれないよな」


「キュ〜!」


「えっ、ちょっ!」


 ぽいっとその魚を放り投げて寄越すセルキーなんだけど、さらに自分もどうやってかジャンプして……


【ワサンコ】「ふわあああああっ!?」

【レジェリー】「セルキーはアザラシの皮を被ってるだけだからね〜」

【ブルーシャ】「きゃわわわわ〜(((o(*゚▽゚*)o)))」

【ウッディ】「これはノームと人気二分しそう……」

 etcetc...


 ふわっと堤防に着地して現れたのは、アザラシの着ぐるみを被った少年。動物の着ぐるみパジャマってこんな感じだっけ?

 年は小学一年生とかそれぐらいで、人懐っこい笑顔は昔のナットに似てる気がしなくもない。いや、あいつはもっと悪ガキっぽかったか。


「キュ〜♪」


「〜〜〜♪」


「ワフ〜」


『あっという間に仲良しですね!』


【アマツノユ】「なごむわ〜( ´ ▽ ` )」

【フェル】「この島は天国か?w」

【ブルーシャ】「もふもふアイランド!(((o(*゚▽゚*)o)))」

 etcetc...


 仲良くなるのはいいけど、あんまり素直だと悪い人に騙されないか心配だよ……

 ともかく、あんまり凝った料理をしてる時間もなさそうだし、さっと作れて美味しいものってなると……。あ、先に魚鑑定しとかないと。


【ラティオ】

『海岸近くに生息する大型の肉食魚。出世魚で、ラティ、ラティオ、ラティオラと名前が変化する。

 料理:焼く、煮るといった調理が一般的』


 真ん中ってことは、これからまだ大きくなるんだ……

 コメント欄で、セイゴだとかフッコだとか言われてるのは、スズキも出世魚だからなんじゃないかとか。


『どういった料理にします?』


「さくっと作れるカルパッチョかな」


 3枚におろしてから薄切りに。水の精霊に冷水を出してもらって洗いっぽく。

 調味料は、グレイプルビネガー、ペリルセンスのごま油、グリーンベリーの果汁、塩を少々。ああ、ライコス(トマト)の角切りも入れよう。

 コメント欄が盛り上がってるけど、それよりもセルキーのキラキラした目がプレッシャー。口に合えば良いんだけどと思いつつ味見……


「ん、俺的には大丈夫かな。これを……いきなりたくさん掛けるとあれか。そのままでも美味しいだろうし、まずは軽く掛けてで完成かな」


「キュー!」


「あ、箸は難しいだろうから、これフォークな」


 パプの間伐材で作ったフォークを渡すと、アザラシの着ぐるみなのに、器用にそれを使って一口……


「キュ〜♪」


「良かった。味覚が違ったらどうしようかと……」


 にっこり笑顔の後、ガツガツと食べ始めたのにホッとする。


【リーパ】「そら美味いやろなあ(血涙)」

【アモクン】「マジで腹減ってきた……orz」

【レモンミルク】「ショウ君、また餌付けしてるw」

 etcetc...


 自分も一口ぱくっと……うん、美味い。

 ルピにもあげつつ、スウィーは肉や魚は食べないっぽいので、とろとろ干しパプを進呈。


『ショウ君、そろそろ時間です』


「あー、もうかー……」


 釣りを始めた時点で残り30分切ってたはずだし、1時間なんてあっという間だよな。

 セルキーが来てドタバタしちゃったし、もうちょっと……


<久しぶりのライブですしー、延長して良いですよー。もちろん10時になったら終わりですけどー>


 と神の声が聞こえてきた。


『少しだけ延長します?』


「うん、そだね。この子が食べ終わって帰るくらいまでかな?」


【デイトロン】「<ライブ延長料金:5,000円>」

【ネルソン】「<延長ありがとう!:500円>」

【ブルーシャ】「<セルキーちゃんかわわ:1,000円>」

【ベアメン】「<ルピちゃんもかわわ:1,000円>」

 etcetc...


『あ、ありがとうございます!』


 うえー、すごい投げ銭が流れてくんだけど、これもヤタ先生の狙いだったりするの?

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