第191話 海の幸での飯テロ

『5時間も探してたんですか!?』


「うん。何箇所かスタートできる場所見つけたんだけど、どこが一番いいか悩んだりしたし」


【ゴッソル】「5時間!?」

【マルサン】「すげえ。よく根気続くわ!」

【サック】「この島を選んだ決め手は?」

【ケダマン】「他のスタート地点も気になる……」

 etcetc...


「始めて1時間ぐらいで最初の一つを見つけたから、もう後に引けない感じ?

 そこからはちょくちょく見つけて、ここは寒いかなとか暑いかなとか……この島を選んだのは気候的に一番良さそうだったからすね」


 緯度的には王国の王都とほぼ同じぐらい。

 で、そうそう、周りにいくつか島があるから、海流もそんなに激しくならないはず? とか思ったんだよな。

 穏やかでのんびりゆったりできる可能性が高く、それでいて、できるだけ大陸から遠い場所……っていうのは話さなくていいか。


「なんで、どれくらいの距離かはわからないけど、周りに他の島はあったよ」


『そうなんですね』


 この港を一望できる崖の上からは……見えなかったよな。

 地平線までは5kmだっけ? 高さがあればもっと見えるはずだから、20km以上は先になるのかな。


【シャルラン】「他の島も気になるね」

【ヨソロー】「船作ろう、船!」

【ルファ〜】「造船スキルってあったっけ?」

【ココナッツン】「そっちにプレイヤーいたりしない?」

 etcetc...


「あ、その周りの島からスタートできないのは確認してるんで」


『さすがです、ショウ君!』


 いや、なんか、それはちょっと恥ずかしいんだけど。

 コメント欄、めっちゃウケてるし……


「俺がどうにかして他の島に行った時に、他のプレイヤーと出会ったら、お互いめちゃくちゃ気まずいと思ったし……」


【ルネード】「わかるw」

【ヤアー】「お互い、ソロ志望だもんねえ」

【ジョント】「目と目が合う〜♪」

【トラト】「見なかったことにして帰るな……( ゚д゚)」

 etcetc...


 だよなあ。


「おっ?」


 コンコンという振動が手に伝わるが我慢。

 そして、ぐっと一気に引き込まれたところで、


「来た!」


 リアルの釣りと同じように合わせてから、糸も針も大丈夫かちょっと心配になったけど、どうやら問題なさそう。


【釣りスキルのレベルが上がりました!】


『おめでとうございます』


「あ、うん。まあ、1が2になっただけなんで……」


【イザヨイ】「おめ!」

【シェケナ】「スキル取ったばっかりでしたか(^-^)」

【シゲルサン】「アジ?」

【タイコスキー】「いい型のオランジャックだね〜」

 etcetc...


 これは間違いなくアジ、オランジャックってやつだけど25cm近い。

 この大きさなら刺身で食べられるよなってことで、さっそく。


『え? すぐに食べるんですか?』


「うん。物は試し? ってか、お刺身で食べて大丈夫……ですよね?」


 コメント欄の釣りプレイヤーから大丈夫って返事が来て一安心。


『お醤油あれば良かったんですけどね』


「それはしょうがないよ。それに、醤油じゃなくても美味しい食べ方あるし」


【ブルーシャ】「そのままでも美味しいですよー^_^」

【アクモン】「醤油以外?」

【ヒラリ】「ワインビネガーでマリネ?」

【リーパ】「マリネとカルパッチョって何が違うん?」

 etcetc...


 ワインビネガーでって予想が多い。最初はそのつもりだったけど、ちょっと思い出したことがあって。

 さくっと3枚におろし、そぎ切りして皿に盛る。インベから取り出した小皿にペリルセンス(ごま)油を満たし、塩を少々。


『え?』


【ネズ〜】「ごま油と…塩…だと……」

【ノンノンノ】「その手があったか!」

【マルサン】「うわー、美味そうー!!」

【デイトロン】「<アジのお刺身代:5,000円>」

 etcetc


「さて、どうかな?」


 お箸で一切れ、たっぷりとごま油に潜らせてからパクッと……


「う……」


『う?』


「美味い!」


 あ、コメント欄が悶絶してる……


「ワフ!」


「お、ルピも食べるか。あーんして」


 あーんと開いた口に、お刺身を入れてあげる。

 お腹のところで寝てるスウィーを起こさないように、頭だけ器用に動かすルピは優しいなあ。


『ううう、ずるいです……』


 飯テロの一番の被害者はミオンだろうけど、まあ、その分は日曜に埋め合わせしよう。


「そうそう、あとこれもあったんだ」


 クレフォール(わさび)を取り出して、すりおろす。

 ルディッシュ(大根)用のおろしがね作っておいて良かった。


【ドライチサン】「わさび!」

【ドンデン】「え? わさびあったの!?」

【マットル】「水源地まで行ったんだし、クレフォールは見つけてるかー」

【モルト】「わさびソース作れるぞい」

 etcetc...


 クレフォール(わさび)を知ってるプレイヤーは結構多いみたいで、いろいろとわさびの有効利用を教えてくれるのがありがたい。わさびソース、作ってみたいな……


「ワフ」


「あ、ルピは苦手だった。ごめんごめん」


 プイッと横を向いてしまったルピに謝りつつも、おろしたクレフォールをちょんと刺身に乗せ、ごま油を少しだけつけてぱくっと……


「っ!!」


【クランド】「リアルのわさびより数倍辛いよって言おうとしたら……」

【ロガッポ】「そうそうそれそれ。それが欲しかった!o(≧▽≦)o」

【ブルーシャ】「マナが濃い場所の方が辛いなんて話がありますよ(^◇^;)」

【ガフガフ】「味覚耐性スキル持ってると上がるよw」

 etcetc...


『ショウ君、大丈夫ですか!?』


「うえっ……っほ……。だい、じょう……ぇほ……」


 マジきっつ! こんな辛いと思わなかった……


「ワフン……」


 ルピの目が『ほら。変なもの食べるから』みたいな感じで辛い。

 いやいや、量さえちゃんとわかれば美味しいはずだから!


「はー、辛かった。涙が……これ痛覚設定意味ないのか?」


『ショウ君、やめた方が良くないですか?』


「大丈夫大丈夫。ちょっとで十分なのはわかったから。これくらいで……よしよし美味い!」


【ロガッポ】「そうそうそれくらいですね♪(*'▽'*)」

【マスターシェフ】「わさびソース作るときは熱するから辛みは飛ぶよ〜」

【フリテー】「量少なくて済むのはいいんだけど、加減が難しいのよな……」

 etcetc...


 ほんの少しつけるだけで、十分、わさびの辛さと風味が鼻へと抜けていく。

 わさびソースを作るときは熱するから多めでも大丈夫なのか。

 いろんな情報をくれるコメントにお礼を言いつつ、ルピと二人でお刺身を平らげる。当然、ルピはさび抜きだけど。


「んじゃ、あとは干物用に釣るかな」


『アジの干物を作るんですね』


「うん。いつか醤油ができた時のためにもね」


 ミオンとコメント欄と会話しつつ、釣りを再開。

 特にこれが釣りたいってわけでもないけど、2匹目もオランジャック(アジ)だったのでよしとする。

 アジの干物、乾燥の魔法が優秀なので一瞬で出来るよなって思ってたんだけど、コメント欄の料理プレイヤーの話だと、一度表面を乾燥させて、そのあとは天日干しの方が美味しいんだとか。


「なるほど。皆さん、詳しいっすね……」


【タイコスキー】「釣り好きは自分で料理するからね〜^_^」

【ロッサン】「ショウ君に言われてもなw」

【フェル】「刺身にごま油と塩を知ってる高校生ほどではないw」

 etcetc...


「ごま油で食べるのはじいちゃんに教わったからで、おっと!」


【釣りスキルのレベルが上がりました!】


 4匹目のオランジャック(アジ)を釣り上げ、生け簀がわりの甕へと放り込む。

 割と入れ食いなのは、やっぱり無人島だったからかなあとか思ってたら……


「ん? これは小さいかな」


『手応えでわかるんです?』


「うん。まあ、前よりも……っておおおっ!!」


 一気に竿が持っていかれそうになって、慌てて両手で持ち直す。

 これは大物の予感!

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