第190話 醸し出されるいろいろ

『山小屋と港を行き来するのは時間がもったいないので、こちらにもショウ君の家がありますよ』


 ミオンがコメント欄と会話しつつ、今の状況を説明してくれている。

 崖から坂を下り、目指す目標は元酒場。

 今はもう俺の住居に登録されちゃってて、別荘って感じなのかな?


「あの見えてる3つの建物のうち、一番手前の小さいやつ。もともとは酒場って感じの内装だったけど、バックヤードにロフトがあって、そこに寝泊まりしてる感じ」


【ルネード】「また建てたのかとw」

【セイキ】「酒場? お酒あった?」

【モルト】「年代物のウイスキーとか残ってたりせんかのう……」

【シャズナ】「ショウ君、未成年だからダメでしょ〜」

 etcetc...


「そうそう。グレイプルワインを一口飲んでみたら、めちゃくちゃ酸っぱくて……」


 あれはホント閉口って言葉がぴったりくる感じだった。

 思い出しただけで、口の中がきゅーってなる……


【マッチルー】「残ってたワインがあったの!?」

【オトトン】「未成年が飲むと変な味するってやつやなw」

【シェケナ】「お酒は大人になってからね〜(^◇^;)」

【シュンディ】「ワインも自作?」

 etcetc...


 あ、そうか。普通はグレイプルからワインにするにしても時間かかるよな。

 そのへん、魔導醸造器がいろいろとすっ飛ばしてる? ゲームでの時短もあるからなのかな……


「えっと、あかりがないんで光の精霊だより。あかりを」


 その言葉にペンダントの光の精霊石から小さな光点が浮き上がる。

 玄関扉を大きく開くと、全然整理されてない感じの室内が照らし出された。


「まだちょっと整理整頓できてなくて」


 右手前の石かまどは、まあまあ使うたびにちゃんと綺麗にしてるんだけど、使わない椅子やテーブルを集めた右手奥がカオス。

 釣り竿は仕掛けを準備した状態で置いてあって、その周りには予備の仕掛けが散乱してる。


『まずは奥ですか?』


「うん。このカウンターの裏からバックヤードに繋がってて……」


 カウンターの裏を歩いて、端からバックヤードへと。

 見えるのは寝床にしてるロフトと、その下にある大きな樽。


『ロフトの上がショウ君とルピちゃんのお部屋ですね』


 ミオンがロフトの方を説明してくれるんだけど、下にある樽がもう明らかに違和感。

 視聴者さんたちの話題が一気に樽とワインの話になるんだけど、普通に作る分にはやっぱり1週間はかかるんだ……


「えーっと、ワイン作りに関しては……これ見てもらった方が早いか」


 見せるのは当然、魔導醸造器の鑑定結果。


【ナタイ】「は?」

【ハジキリー】「はあ?」

【ユウセン】「ファ!?」

【ロッサン】「ちょ!w」

 etcetc...


 すごい勢いでコメントが……これは落ち着くまで待った方がいいのかな? いや、もういっそアレを見せるほうがいいか。

 グリシンの実が入った小さい樽を取り出し、その蓋を開けて中身を見せる。


「というわけで、グリシンの実」


【アクモン】「醤油!」

【シェケナ】「醤油くる!?」

【クショー】「マジこれは革命!」

【デイトロン】「<醸造代:5,000円>」

 etcetc...


 大きい樽を退けて、グリシンの実が入った小さい樽を置く。

 魔導醸造器を起動して……


『お醤油作れないんですよね』


「うん。まあ、何が足りないかはわかるんだけどね」


 昨日と同じように『足りません』の部分をタップして表示する。

 問題の『ハクの実』を表示すると、やっぱりみんな米を想像したのか、一気に稲と米の話へと変わっていく。


『やっぱり、お米でしょうか?』


「多分ね。そのために稲を探さないとかなって」


【ヒエン】「米かー……」

【マスターシェフ】「日本のゲームって感じだね」

【ネルソン】「稲も見たことないな。ハクっていうのか」

【マーシー】「小麦がコハクっていうけど、代用は無理かな?」

 etcetc...


 コメント欄であれやこれやと米と稲の話が飛び交ってるけど、やっぱりまだ誰も見つけられてないっぽい。

 ミオンがあれこれコメントと会話してるのを聞きつつバックヤードを後にし、今日の本命の釣りの準備を。


「今日はまったりと釣りの予定なんで、他にも質問とかあったら」


『ですね』


 うまく魚が釣れれば、さくっと料理して飯テロするつもりだし、全くダメそうならグレイディアのローストをライコス(トマト)ソースでの予定。

 釣り竿2本を担いで、堤防の方へゆるゆる進む。


『ショウ君、隣の大きな建物を』


「あ、そうだった。この2つは倉庫っぽいんだけど、中身は何もなくて」


 どうせ何もないしってことで、前に来た時に開けっぱなしにしてある倉庫。

 それぞれを軽く覗いて、やっぱり空っぽなのを映しておく。


「何のためにこんな倉庫があるんだろうな……」


『不思議ですね』


【コージ】「この辺の島の中継地点だった説」

【ポルポール】「ハブ港ってやつじゃない?」

【ケダマン】「この島がHUBだった説」

【フリテー】「積み替えだけしてる港だったんじゃないかな」

 etcetc...


『はぶ?』


 ミオンの問いかけに、コメント欄に一斉に説明が流れていく。

 要するに周りの島で採れたものを、この島に集めて、また送り出してっていうことらしい。


「なるほど。でも、それならもう少し家とかあっても良さそうな気がするんだけど」


【ユノスケ】「意外と隣の島まで近いとか」

【サック】「無人島スタートした時って、周りに他の島なかった?」

【コックリ】「この島選んだ時の話希望!(*゚▽゚*)」

【マイホビー】「ちょっとした船が集まる場所とかだったのかもね」

 etcetc...


 周りに他の島……あったな。

 ただ、同じような考えの人間が近くにいると、出会った時に気まずいかなって思ってて、スタート地点に選択できない島だったはずだけど。


『そういえば、私もショウ君がスタートにこの島を選んだ時のこと、あんまり詳しくは聞いてないです』


「あ、そだっけ? じゃ、釣りしながらそのへん説明するかな」


 話してるうちに堤防の先に着いちゃったので、釣りの準備を始めつつ。


「ワフ……」


「二人とも昼寝してていいよ」


 足元に丸くなったルピが小さくあくびをして目を閉じる。

 スウィーはそんなルピに寄りかかるように大の字に。今日は風も穏やかなので、飛ばされることもないかな。


 餌は結局、昼間とった巻き貝、ルネラシスを茹でて、身をぶつ切りにしたもの。内臓わたは撒き餌ってことで。

 ランジボアの毛を使った鉤素ハリスの強度はまあまあ。30cmぐらいのアジなら多分大丈夫なはず。

 バイコビットの骨から作った針に餌をかけ、そっと海中へと沈める。


「えーっと、まずキャラクリはさくっと終わらせて……」

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