第187話 種と仕掛けがある話

 グレイプルビネガーも無事完成。

 これでお酢ができたので、次はいよいよだけど……


「あと1時間ぐらいあるよね?」


『はい。10時前ですよ』


「おっけ。じゃ、グリシンを試そうか」


 グリシンから醤油とか味噌ができる可能性は……半々かなあ。

 ルピにスウィーを見張ってもらってるので、バックヤードの魔導醸造器のところに戻る。

 グリシンを半分ほど詰めた小さい樽を魔導醸造器にセット。

 さて、どうかな?


【魔導醸造器:動作中】

『原材料

 ・グリシンの実

 醸造メニュー

 ・グリシーナ、グリシンソース……材料が不足しています』


「うーん、この『グリシーナ』が味噌で、『グリシンソース』ってのが醤油っぽいけど……ダメかー」


『ショウ君、グリシンソースの説明を見れませんか?』


「ああ、それか」


 このメニューからでも見れるのかな? ポチッと……


【グリシンソース】

『グリシンの実を発酵させることでできるソース。独特の風味がある。

 料理:調味料として利用可能』


 間違いなく醤油っぽいんだけど、足りない材料がわからないんだよな。

 待て。こっちをポチッと……


【必要な原材料】

『グリシンの実、ハクの実、塩、水』


「ハクの実?」


『なんでしょう?』


「ちょっと待ってね。これも説明が見れるはず。ハクの実の説明を……」


【ハクの実】

『ハクの小さく白い種子。食用で栄養が豊富なため「月白げっぱくの実」とも言われる』


 小さくて白い種子……米? となると、ハクって稲のこと?

 あー、山小屋に戻ったら、植物図鑑をもう一回見直さないとだな。


『心当たりがある感じですか?』


「あー、うん。なんとなくだけど、ハクっていうのが稲のことで、ハクの実って米のことじゃないかなって」


『醤油にお米が必要なんですか?』


「米っていうか麹が必要だからってことだと思う。多分だけど……」


 この魔導具、米、いや、ハクから麹を作ってくれるとか?

 うーん、麹ってなんかいろいろ種類があったような気がするけど、まとめてハクの実で大丈夫って感じなのかな。


『えっと……』


 ミオンが全然ピンと来てないので、簡単な説明を。

 とはいえ、俺もなんとなくでしか知らないんだよな。今どき種麹なんて、パックで売ってるものだし。


「まあ、そういう菌のことを麹って言うんだけど、それが必要だからだと思う」


『お米から作るんですね』


「ばあちゃんから聞いた話だけど、麹って神様にお供えしたご飯に生えたカビらしいよ」


 正確にはご飯に生えたそれをお酒にしたんだっけ?


『さっきの説明も女神様が関わってましたね』


「え?」


月白げっぱくというのは、IROの女神様で一番偉い人だそうですよ』


「へー」


 そういうところ、微妙に日本製って感じがするよなIRO。

 まあ、ゲームとしてわかりやすく「その女神様の実を入れれば、発酵してくれるので、日本酒も醤油も味噌もできますよ」って感じなのかな。


「あ、そういえば、白銀の館のディ…マリアさんって味噌とか醤油作れたのかな?」


『いえ、多分まだだと思います』


「適当なこと言っちゃったからなあ。この魔導醸造器の説明だと、ハクの実がないと上手くいかないっぽいし」


 例の神聖魔法でどうかって話をした後、ベル部長やセスから「成功した!」って話は聞いてないし……


『終わった後、部長に話しますか?』


「うん、向こうが忙しくなさそうなら。連絡しといてくれる?」


『はい!』


 そもそも、ハク、つまり稲が見つかってるかどうかも気になる。

 米が手に入れば、白ご飯はもちろん、リゾットやらピラフやらも作れそうだし……


「〜〜〜!」


「あー、そろそろいいか」


 あれこれやってるうちに、カムラスのコンポートも冷めたはず。ちょっと味見してみよう。

 バックヤードからカウンターに戻ってくると、ルピがスウィーを咥えて拘束中。ジタバタもがいてるフェアリーの女王。


「〜〜〜!!」


「はいはい、もうちょっとだけ待って」


 そのまま手を突っ込まれるのもアレなので、竹串を取り出して1個プスっと。

 スウィーのサイズからすると、それでもスイカ丸1個ぐらいになるんだけどな。


「中がまだ熱いかもだから気をつけて」


「〜〜〜♪」


 その注意を聞いてないのか、大口を開けてがぶりとかぶりつくスウィー。

 とりあえず火傷するような温度ではなくなってるっぽくて何より。


『大丈夫みたいですね』


「うん。せっかくだし、俺も一個……」


 金柑の大きさだから一口で食べられてちょうどいい。

 ぎゅっと噛むと、滲み出る甘味と酸味。絶妙な調和具合が堪らなく美味しい……


「これはちょっと……実物でもあり得ない美味さかも」


『ずるいです……』


 リアルで再現できるならしてあげたいところだけど、これはちょっと無理なんじゃないかな。


「ワフ」


「ん、はい」


 パクッと一口で食べて、美味しさに目を細めるルピ。

 それはいいんだけど、なんかこう……ルピが一瞬淡く光ってたような?


『ショウ君』


「うん」


【マナガルム:ルピ:親愛:自由行動:抗毒Ⅱ(6時間)】


 抗毒ってやっぱりカムラスのコンポート食べたからだよな? っていうか、


「俺もひょっとして光ってた?」


『いえ、私からは普通に見えてました。ステータスを開いてもらえますか?』


「うん」


 ステータスを開くと【抗毒Ⅱ(6時間)】の表示が追加されてるので、俺にもバフが掛かってるってことか。

 ミオンは俺の主観をライブしてるから、俺自身は別にわからないだけかな。視界に入ると鬱陶しいだろうし。


『すごいですね。カムラスの実のおかげでしょうか?』


「多分ね。でも、フェアリーの蜜のおかげもありそうだし、これもベル部長に報告かな?」


『そうですね。カムラスの実は本土にもありそうな気がしますし』


 海沿いの斜面に生ってる感じだし、例の釣りプレイヤーが集まってる村から、沿岸沿いに探して行けばよさそうな気がする。


『あ、部長たち、部室に来ましたよ』


「りょ。片付けして上がるよ」


『はい』


 あとの準備は明日の昼にまったりやろう。


***


「どもっす」


『おかえりなさい』


「兄上、おかえり!」


「お疲れさま。何か新しい発見が?」


 さっそく、ベル部長の催促が来たんだけど、ミオンがさっきのアーカイブをサクッと再生してくれる。

 説明するのは『ハク』という稲、そして、『ハクの実』が米じゃないかという話。あとはカムラスの実とその効果を見せる。


「ハクって稲のことだと思うんですけど、王国とかで見つかってます?」


「いえ、見つかってないと思うわ。ただ、IROは小麦、コハクって呼ばれてるけど、そっちが主食だから気づいてないだけかもしれないわね」


「うむ。米があれば麹が作れるというのは理にかなっておるし、さっそく探さねばの!」


 とのこと。小麦がコハクだと、大麦はオオハク?

 島にもあるといいんだけど、やっぱりあの教会の向こう側を探さないとかなあ。


「あ、あと、ディマリアさんになんか適当なこと言っちゃったので、謝っといてください」


「良い良い。それよりもだ!」


「ええ、このコンポートの方が大問題ね」


 え? マジで?

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