土曜日
第188話 狼の赤い桃
「ワフ〜」
「ん、おはよ」
土曜日のお昼。ミオンは習い事でいないので、完全ソロの日。
ログインして目を覚ますと、ルピがさっそくじゃれついてくる。
「ご飯にして、ちょっと散歩しようか」
「ワフン」
スウィーは……爆睡してるし放置でいいか。
カムラスのコンポートの匂いがすれば、起きてくるだろうし。
かまどに火を入れて、作るのはシンプルにフォレビットのソテー。
軽く塩を振って、レクソンと一緒にペリルセンス(ごま)油で軽く焼く。
最後に赤ワインを少々……
「はい。火傷するなよ」
ルピはレアぐらいの方が好みっぽいので先に。しっかり焼いたのは自分用。
「よし、いただきます」
「ワフ」
あー、いい……
赤ワインが肉汁と合わさって、味に深みが出た気がする。
二人ともすっかり平らげたところで、インベから昨日作ったコンポートを取り出す。
「〜〜〜!」
「はいはい。おはよう」
皆で一つずつ食べて、ごちそうさま。
ルピが抗毒効果で淡く光ったりするけど、まあまあ気にしない方向で。
スウィーが光らないのは、もともと耐性があるから? いや、パーティーメンバーってわけじゃないからかな。
昨日の夜に大問題と言われてしまったカムラスのコンポート。
ベル部長や
今のところ、本土でのバフ料理(一時的なステータスアップetc)の効果はⅠで、時間は長くても30分。戦闘2〜3回ぐらいしか効果がもたないとのこと。
素材の良さや料理スキルの高さで、その効果時間が延びるのは検証で判明してるけど、俺の作ったコンポートの6時間は明らかにおかしいわけで。
おそらく『フェアリーの蜜』のおかげだろうってことで意見は一致。となると、妖精が作った物に効果があるかもしれないということで、ノームが作ったキノコにも何かあるんじゃないかという話に。
あそこに常駐してる二つのギルドに話をしてみるということで落ち着いた。
「散歩行こうか」
「ワフン!」
「〜〜〜♪」
スウィーがバックパック持ってけってのは、カムラスの実をできるだけたくさん採ってこいってことだろうな。
まあ、お留守番してるフェアリーたちにも振る舞わないとだし、のんびり散歩ついでに採集しよう。
………
……
…
【採集スキルのレベルが上がりました!】
お、ラッキー。これで8だっけ。
しばらく上がってなかったけど、ここのとこ新しいものを採集してるからなのかな。
しかし、このカムラスの樹があるあたり、ちゃんと草むしりした方がいい気がするな。
今から掘削の魔法でちょちょいっとできないこともないけど……
「まあ、今日はいいか。行くぞ〜」
「ワフ〜」
次は入り江の南側へ。
ずっと建物がある北側ばっかり調べてて、あんまり見てなかったんだよな。
「スウィー、飛ばされないようにな」
「〜〜〜♪」
その言葉にフードへと隠れるスウィー。
すっかり自分の居場所みたいになっちゃってるな。
後方確認してくれてるから、それはそれでありがたいんだけど。
南の海岸沿いは、ごろごろとした岩場。
そんなに険しい感じでもないけど、滑るのだけは気をつけないと。
「ワフ」
「お、なんか巻き貝だけど……」
【ルネラシス】
『穏やかな海岸に生息する貝。
料理:火を通すことで食用可』
サザエ……にしては小さいな。
まあ、釣りの餌にちょうどいいかな? たくさん採って、茹でたものをぶつ切りにして使うか。撒き餌にもなりそうだし。
その他、ティアルプ(昆布)やビリジール(岩海苔)も確保できたし、海の幸はかなり豊富な感じ。
砂浜がないから、クロムナリア(あさり?)が採れないぐらいか……
「じゃ、いったん戻って、山に行こうか」
「ワフ!」
「〜〜〜♪」
………
……
…
「ワフ!」
「「バウ!」」
「うん、ありがとな」
今日もきっちりと挨拶に、そして、護衛に来てくれたドラブウルフたち。
尻尾ふりふりしてるし、やっぱりルピが来てくれると嬉しいっぽい。
「今日はちょっと道を外れた場所探しに行くからよろしくな」
「「バウ!」」
展望台から水源地まで、そこから東側と南側、どっちも山道があって、そこを行き来したけど、脇道にそれたのはルピの昔のねぐらだけ。
地理的に考えると、ここから北側か北西の山頂方面に行ける気がするんだよな。
で、ルピのお父さんはきっとそっちへと行ったんじゃないかと……
まあ、今日のところはライブもあるので軽く見てくる程度。
ちょっと奥の方に入れば、また別の食材が手に入らないかなってぐらい。
「スウィー、何か果物見つけたら教えてくれる?」
「〜〜〜♪」
本当は野菜が欲しいところだけど、スウィーは甘味特化だしなあ。
やっぱり、そのうち他のフェアリーたちも連れてくるべきか。
まずはルピの昔のねぐらに到着。そこから北東方面に山肌を辿っていく感じで進む。
途中で数匹のクリムゾンエイプに遭遇するも、ドラブウルフたちの活躍もあって楽勝。
あいつら、まだいたのかって感じだけど、モンスターならどこかでポップしてるよな……
「バウ」
「ん?」
ドラブウルフの父親、いや、母親かな? 何かあるっぽい?
「ワフン」
「うん、行こうか」
そのあとをついて行くと……
「おお? これってトマト!?」
【ライコス】
『高原に生える多年草植物。ライコスの赤い実は狼の桃とも呼ばれる』
え? 狼の桃? ってことは、ルピもドラブウルフも食べるんだよな。
よく熟してそうな赤い実を1つもいでから、もう一度鑑定。
【ライコスの実】
『ライコスの果実。甘味と酸味にあふれそのままでも美味。
料理:さまざまな料理に使われる。素材加工:調味料の原材料』
うん、トマト。
そして、ルピとドラブウルフたちが目をキラキラさせてるので……
「ちょうどいいし、休憩にしようか」
「ワフ!」
その言葉にルピもドラブウルフもトマト、ライコスの実を採って美味しそうに食べ始める……俺も食べてみるか。
「うわ、思ったより甘い……」
小さく一口かじっただけで、完熟トマトの甘みがじんわりと口に広がる。
これでピューレ、あとケチャップとか作ったらめちゃくちゃ美味い気がする。
「〜〜〜!」
「いででっ! 髪引っ張らなくてもわかるって!」
よこせと主張してくるスウィーに、ナイフでカットした一欠片を渡すと、大口を空けてかぶりつく。
トマト特有のぶよぶよした部分、苦手かと思ったけど、そうでもないんだな……
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