第186話 お酒は20歳になってから
「オッケー。じゃ、1時間待ちかな」
『待ってる間は何をしますか?』
「こっちで料理できるように、簡単なかまどを作ろうかなって」
ライブで使うかどうかは微妙だけど、こっちでも料理できた方がいいよな。
あ、明日のライブで雨降ってたら、やっぱり必要か……
『裏手に作ります?』
「いや、中に作るよ。玄関入った右側あたりかな」
『え? でも、煙が……』
「ああ、上の木窓を開けとけば問題ないかなって」
『なるほどです』
というか、この建物って照明は何か別の魔導具とかでだよなあ。壁の上の方にある木窓は、ほとんど風通しのためだけって感じだし。
今は光の精霊にお願いしてるから、あかりで困ることはないけど、やっぱり昔は魔導具のランプとか使ってたのかな?
………
……
…
『ショウ君、そろそろ1時間です』
「お、んじゃ、見てみるか」
『はい!』
石窯造りはもう慣れたので、あっという間に……という訳にも行かず。
石壁レンガはサクッと用意できるんだけど、粘土が必要なのをすっかり忘れてて、探す羽目に。山の方へ戻る道の途中で見つかったんで良かったけど。
「さて、どうかな……」
【魔導醸造器:動作中】
『原材料
・グレイプルワイン
醸造メニュー
・グレイプルビネガー……所要時間:30分』
『できてますね!』
「よしよし!」
醸造が終わったワインはそのままビネガーにできるっぽい。
でも、一気に大量に作る必要もないので……
「とりあえず、半分はグレイプルビネガーにしようかな」
『ワインは……飲むんですか?』
「いや、料理酒扱いかな。グレイディアかフォレビットの肉でワイン煮込みとか美味しいんじゃないかな?」
ちょっとレシピとか調べてからでないとだけど、日曜にでも作ってみよう。いや、その前に……
「IROって、俺たちもお酒飲めるのかな?」
『はい。それが気になって……』
「とりあえず鑑定してみるか」
樽をいったん魔導醸造器からおろし、蓋を開けて鑑定を発動。
【グレイプルワイン】
『グレイプルの実から作られたお酒。酸味と甘味のバランスが良く、苦味が少ないため飲みやすい。
料理:調味料として利用可能』
「美味しいのかな?」
『わからないです』
親父にビールを飲まされたことはあるけど、別に美味いとも思わなかったんだよな。苦くて甘い炭酸飲料って感じだったし。
ちょっと飲んでみるか……
「んっ!? なんだこれ! すっぱっ! 全然、書いてることと違うんだけど!?」
『ちょっと公式ページ見てきていいですか? 多分ですけど、私たち未成年だからじゃないかと……』
「あ! ああー、そりゃそうか。ごめん、ちょっとお願い。その間にグレイプルビネガーを仕込んどくよ……」
『はい!』
持ってきてあった甕に中身の半分を移しながら考える。
ミオンの言う通り、未成年の飲酒がダメだからって理由でそうしてあるんだろうけど、それだとアルコール分のあるお菓子とかどうなるんだろうっていう。マロングラッセとか……
「ワフ」
「〜〜〜♪」
「あ、おかえり。何か面白いものとかあった?」
帰ってきたルピとスウィーになんとなく聞いてみたら、スウィーがちょいちょいとルピのポーチを……何か拾ってきたっぽい?
「なんだろ。海辺で育つものってあんまりイメージが……え?」
ポーチを開けると、小さな黄色い果実……これって蜜柑、いや、サイズ的には金柑かな。
【カムラスの実】
『カムラスになる実。熟したものは甘味が強く美味。
料理:そのまま、もしくは煮て食される。調薬:抗毒薬の原料として使われる』
「おお! すごいじゃん!」
「〜〜〜!」
「ワフン!」
とドヤ顔の二人。
ルピはしっかりと撫でてあげて、スウィーにはドライグレイプルかな?
『ただいまです。ってそれは小さい蜜柑ですか?』
「いや、金柑かな。砂糖と煮ると甘くて美味しいよ。あ、ごめん! どうだった?」
『はい。やっぱり未成年プレイヤーにはお酒は変な味になるそうです。ただ、はっきりとお酒な状態でなければ大丈夫だそうで、お酒の風味があるぐらいなら大丈夫だそうですよ』
「あ、そうなんだ。良かった……」
ワイン煮込み作ったはいいけど、全然味が変になるとかだと悲しすぎる。
「〜〜〜?」
「これ? ワインだけど……。スウィーなら美味しいとか思うのかな?」
フェアリーの女王ってことは成人したAIだと思うんだけど。っていうか、AIなら成人しててもしてなくても別にいいのか……
『少し飲んだだけで、酔い潰れちゃいそうな気がします』
「あー、そんな気がしてきた。これはダメだけど、カムラスの実がある場所を教えてくれる? 採ってきてコンポート……甘い物作ってあげるから」
「〜〜〜!」
採りに行く前に、さっさとグレイプルビネガーを仕込んでおこう。魔導醸造器をぽちぽちやって、残りの半分の醸造開始。
『コンポートってお砂糖で煮た物ですよね?』
「うん。今回はほら、フェアリーたちが集めてくれた蜜があるから」
『なるほどです!』
ちょっと多めに作っておいて、明日のライブのデザートにしようかな。
魚料理の後にコンポートって、ちょっとなんかズレてる気がしなくもない。甘露煮とかなら良かったのかな?
………
……
…
灯台とは反対側。少し山に分け入ったところに、カムラスの樹が何本か生えてて、ああなるほどと。
それにしても、カムラスの樹、荒れてはいたけど段々に植えられてて、昔はちゃんと栽培されてた感じがあったんだよな。
「そろそろかな?」
カムラスの実は竹串でプスッと小さな穴を開け、これを水、フェアリーの蜜、グリーンベリーの果汁を少し加えたもので煮るだけ。
最後に出来立てのグレイプルワインを少し加えて一煮立ち。
「よし、できてる」
『ツヤツヤですごく美味しそうです……』
カムラスの実、かなりいい香りするなあ。
いや、これってフェアリーの蜜のおかげ?
「スウィー、もうちょっと待って。せめて粗熱が取れるまで。あと、よだれ拭いて」
「ワフ……」
目キラキラ、よだれダラダラのスウィーに、さすがのルピも呆れ顔。
本当は冷蔵庫で冷やすほうが美味しいんだろうけど、ここじゃ冷たくはできないんだよな。
「ルピ。スウィーがつまみ食いしないか見張ってて」
「ワフ」
カウンターに鍋を退けて、そろそろグレイプルビネガーができるはず。明日のライブはカルパッチョでも作ろうかな。
ちゃんと魚釣れれば、だけど……
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