第185話 何か問題が?

「そうそう、日曜にまたミオンちに行って、その後、服買いに行くんだけど」


「ほう! 頑張るのだぞ!」


「え?」


 夕食を終え、デザートにと冷蔵庫から取り出した焼きプリンをテーブルに置くと、待ってましたとばかりにそれに手をつける美姫……


「我は奈緒なおの家庭教師を頼まれておるのでな」


「え? マジで?」


 奈緒っていうのは、ナットの妹の奈緒ちゃんで美姫とは同級生で幼馴染で保護者のような存在。普通に気の利く女の子で、平日は朝迎えに来てくれたりと……


「昼は柏原家でお呼ばれになるので心配はいらぬぞ」


「え? じゃ、俺、一人?」


「頑張るのだぞ!」


 マジか……


***


「なんで、俺一人なんだけど、いい?」


『はい。セスちゃんに会えないのは残念ですが、何か問題が?』


「いや、別に……」


 まあ、うん、いいんだよな。

 なんかこう……、俺一人で行くと、あのお金持ちな感じに気後れするだけって話で……


「ワフ!」


「ごめんごめん。じゃ、出発しようか」


「〜〜〜♪」


 スウィーがフェアリーたちに何やら説明してたっぽいのは、また二、三日帰らないよってあたりかな?

 今から向こうへ行って、魔導醸造器をあれこれ試して終わりそう。

 土曜の昼にはライブの準備に忙しいだろうし、夜はライブでもっと忙しくなるはず。

 日曜はリアルが忙しい。ミオンちでご飯作って、食べて、その後に買い物? ログインできるのは夜になるはず。

 まあ、日曜の夜はゆっくり撤収して、のんびりすることにしよう……


 ………

 ……

 …


「いつもありがとうな」


「ワフ〜」


「〜〜〜♪」


 スウィーが供えてくれたのは小さい黄色い花。

 ルピのお母さんのお墓にお祈りして、展望台を後にする。


「そういえば、ドラブウルフたちはまだ紹介できてないんだよな」


『はい。明日のライブで紹介します?』


「うん。ライブの開始、この展望台からだとちょっと遠いかな?」


『そうですね。港が見える崖のところからはどうでしょう?』


「ああ、いいね。あっちから港の方の景色も良かったし」


 テリトリー的に北東側の家族しか紹介できないけど、南側の家族は次の水曜にでも紹介することにしよう。

 展望台を水源地の方へと進むと、いつの間にかドラブウルフたちが前後左右、少し離れた場所から護衛してくれている気配。


「ルピ」


「ワオ〜ン!」


 その声にすぐに集まってくるドラブウルフたち。

 お座りするルピの前に並んで伏せる姿もかわいい。


「ありがとな。今日はちょっと急いでて、通り過ぎるだけだから」


「バウ」


 父親ドラブウルフが「了解です」みたいな返事をしてくれるのが律儀でかわいい。

 明日の昼の準備が早めに終わったら、植物採集のついでに狩りにこよう。


『この子たちは、テリトリーを移ったりしないんでしょうか?』


「あー、どうなんだろ。子供二人はそのうち旅立ちそうな気もするけど」


『教会の外に行くときに、ついてきてくれるといいなって』


 なるほど……

 でも、あの先は別エリアでモンスターも強そうな気がするしなあ。


「まあ、もうちょっと先かな? 灯台の裏もあるし、今のワールドクエストの間はのんびりしたい気もするし」


『あ、そうですね』


「ワフン」


 ルピもまだまだ強くなると思うんだけど、その前にいなくなった父親に会わせてあげたいんだよな……


 ………

 ……

 …


「ふう。結構、重かった」


『お疲れ様です』


 手には釣り竿。

 インベにいっぱいのグレイプルの実。

 バックパックには部活の時に作った小さい樽にグリシンを詰めた物や、細々とした釣り道具を入れてきた。


「釣り道具はとりあえず、テーブルの上に積んでおくか……」


 元々は酒場だったであろう、この石造りの建物には、丸テーブルやら椅子やらが残っている。

 そのまま使うにはちょっと心配な感じだけど、ちょっとした荷物を乗せるくらいなら大丈夫なはず。


「〜〜〜?」


「ん? 散歩? いいけど、風に飛ばされないように気をつけてな」


「ワフン」


 ルピがついてくなら安心かな。

 俺はこれから魔導醸造器と格闘するし、退屈するよりはいいかな。


『ルピちゃん、スウィーちゃん気をつけて』


「ワフ〜」


「〜〜〜♪」


 開けっぱなしの玄関から、元気よく飛び出していく二人。

 じゃ、俺はさっそく、醸造の方を試してみるか。


『最初はワインですか?』


「うん。まあ、失敗する確率が一番低そうだから」


 張り紙というか書き置きの言葉からして、酒類を作るのに失敗することはないと思う。

 グレイプルの実の鑑定結果でも、酒と酢の原料って説明があったから大丈夫なはず。

 そう言えば、じゃがいもからアクアビット? とかいうお酒ができるんだとか。そのうち、オーダプラでも試してみないとかな?


「さて、まずはこの樽を洗うよ」


『はい』


 もともと魔導醸造器に乗せられてた大きな樽。

 蓋されてたし、中も綺麗だったけど、気分的な問題ってことで、外に出して再確認。


「綺麗な水をお願い」


 水の精霊に頼んで、あの水源地に湧いていた澄んだ水で満たしてもらう。

 このサイズの樽で水漏れしないのって、ホントすごいなと。部活のときに作ってみた小さい樽ですら、かなり苦労したんだけど……とか思いつつ、あっという間に満水に。

 少しずつ横に傾けて、ざばーっと水を出した後は、乾燥の魔法でさくっと乾かす。便利すぎるな。


「乾燥の魔法、洗濯物干すのに使いたい……」


『ショウ君、洗濯もしてるんですよね?』


「うん」


『その……セスちゃんの分もですか?』


「あー、うん……」


『……』


 沈黙が辛い。

 まあ、ドン引きされてもしょうがないんだけど、美姫も真白姉も自分でやんないし……

 しっかりと乾いた樽を抱えて、魔導醸造器の上にセット。グレイプルの実を入れてから運ぶと重いし。


「やっぱり潰して入れないとかな?」


『足で踏んでって聞いたことがありますけど』


「さすがにそれはね」


 自分が使うからって言っても、自分の素足で踏んだ奴はどうかなと。

 パプの実の果汁を集めた時と同じ要領で、木皿で挟んで潰して詰めていく。

 果皮を取る手間がめんどくさいから、そのまま入れて赤ワインでいいだろう。


「よし。これであとは……こういうのはとりあえずタッチするとかな?」


『どうなるんでしょう?』


 魔導炉も転送箱も特にUIが出たりはしなかったけど……


【魔導醸造器:動作中】

『原材料を確認中です……』


「お、すごい。専用のUIあるんだ」


 目の前に現れたウィンドウ。

 どうやら上に乗ってる樽の中身を確認中っぽい。

 一応、キャンセルもできるみたいだけど、じっと待つことしばし……


【魔導醸造器:動作中】

『原材料

 ・グレイプル

 醸造メニュー

 ・グレイプルワイン……所要時間:1時間

 ・グレイプルビネガー……所要時間:1時間30分』


「一気にワインビネガーまで作れる!」


『すごいですね!』


 えーっと、このどちらかを選択してから、醸造開始ボタンを押せばオッケーか。

 じゃ、さっそくワインビネガー……いやいや、ここはまずワインを作って、その一部をワインビネガーにした方がいいんじゃないか?

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