第184話 まずは基本の測定から

『ショウ君、部室への配信はしてないので』


「あ、さんきゅ」


 ヤタ先生はワールドクエストの方が気になるそうで、ベル部長に限定配信してもらって、そっちを見るとのこと。


『ショウ君、内緒にしたままにするんですよね?』


「うん。約束したしね」


 アージェンタさんとの会話は動画が残ってないけど、ベル部長もヤタ先生も話せば信じてくれるだろうとは思う。

 さっきの話で『竜の都』って話も出てたし、実際、空間魔法の本はあるわけだし。

 その上で、聞かなかったことにしてくれるとは思うけど、やっぱり本当は知らないで進むワールドクエストだと思うんだよな……


『空間魔法の本についてはどうしますか?』


「それなんだけど、キャビネットにあって意味不明だったのが読めるようになったってあたりで誤魔化せないかな?」


『なるほどです』


 できれば嘘はつきたくないんだけど、こればっかりは突拍子もなさすぎて困る。

 今のワールドクエストが進行すれば、いずれ本土の魔術士プレイヤーなら誰でも取れるようになるんだろうし。


「よくあるポータル移動とかって、IROだとどうなんだろ」


『街と街をワープで移動したりですよね。国同士の争いがありますし、誰もが使えちゃうと問題が……』


「うーん、街の外に出るとかならありかも?」


『郊外にある空港みたいな感じですか?』


「そうそう」


 ポータル施設ができるとして、そういう場所に固定されてるなら、いきなり街中に敵国軍が攻め入るとかも無いと思う。

 あと、転移魔法陣のサイズ次第? 1階にある1m四方のやつなら、一度に来れるのは一人だし。


「ワフ!」


「おっと、ごめん。もうちょっと待ってくれ」


 今日のご飯はフォレビットのローストにグレイビーソースを試してみる。

 ローストで出た肉汁にグレイプルの果汁を混ぜ、塩とフェアリーの蜜を少々入れて、味を整える……


「よし!」


 皿にロースト肉とを盛って、グレイビーソースを掛ける。

 付け合わせは、オーダプラ(じゃがいも)をスライスして焼いたもの。

 ルピのランチプレートにも、それぞれたっぷりとよそって、


「いただきます」


「ワフン」


 ソースをたっぷりつけて一口……


「ああ、美味い……」


『ううう……』


 ミオンには悪いけど、IROの楽しみの一つだからなあ。日曜のご飯で勘弁してもらおう。

 ルピもあっという間に平らげたので、さっさと片して、部活のうちにやれることをやっとこう。


『樽を作る予定でしたけど、先に空間魔法の本を読みますか?』


「うん。ちゃんと読めるのかって確認はしないとね」


『そうですね』


 渡されたはいいけど、さっぱり読めないってオチなら、それはそれで報告しとかないと。


「〜〜〜♪」


「お、南西の森に行くの?」


 フェアリーたちを引き連れたスウィーがやってきて、ルピの背中へとまたがる。

 俺は本読みと手紙の返事があるし、ちょうど良かったかな。


「ルピ、スウィーたちをよろしく」


「ワフ!」


 頼もしい返事が返ってきたので、あとはお任せでいいかな。

 蜜集めもしてくれるのか、フェアリーたちが薬瓶とポーチもセットしてくれてるし……報酬のとろとろ干しパプ目当てかな?


「〜〜〜¥」


「はいはい、ちゃんと用意しとくから、いってらっしゃい」


「ワフ〜」


 ………

 ……

 …


「読めるけど、今使えるのは<測定>だけかな……」


 MPをほんの少しだけ使って物質の長さ・重さを知ることができる魔法。空間魔法の基本中の基本かな。


『何か足りませんか?』


「基礎魔法学か元素魔法か……」


 今、基礎魔法学はLv5、元素魔法がLv8なんだけど、それでも扱えない魔法がある。扱えない魔法がそもそも意味不明でもやもやするんだよな。

 これってひょっとして、どっちかを上限突破したら出てくる上位スキル的な扱いなのかな?


『ドラゴンさんの言っていた個体番号はわかりそうですか?』


「あ、それが重要なんだった。ちょっと下へ降りるよ」


『はい』


 光の精霊にあかりを頼んで1階へ。

 まずは障害物に積んであるものをどけないとだな。どけるっていうか、インベントリに収納すればいいのか。

 転送箱を収納して、ミニチェストは無理なので横へ。最後の石壁はぎりぎり入るか。


「よし。鑑定」


【転移魔法陣】

『MPを注ぐことで乗っている人や物を、対となる転移魔法陣へと転移させる。

 ただし、魔法陣の上に障害物などがあるときは、安全の問題があるため発動しない。

 個体番号:7EB0B692-93C6-4FAE-BCD0-F9632DA646B9』


「なんか、すごい長い番号なんだけど……」


『見ながらじゃないと、手紙に書けないですね……』


「とりあえずメモるよ」


 横に退けたミニチェストから紙を。インベから魔導刻印筆を出してメモメモ。

 書き終えてから何度か確認を……


『はい。あってます』


「さんきゅ」


 本のお礼は書くとして、他に報告することって……あ!


「山脈を越えようとしてるプレイヤーがいるって話、伝えたほうがいいと思うんだけど、ミオンはどう思う?」


『伝えた方が良いんじゃないでしょうか。やりすぎないようにお願いした方が』


「ああ、そっちか。ミオン、優しいね」


『え……』


 俺はどっちかっていうと、不届きものがいるからやっちゃってくださいって感じだったんだけど。

 まあ、追い返しちゃってくださいぐらいでいいか。


「こんな感じでいいかな?」


『は、はい! 良いと思います!』


「さて、じゃ、樽作りを……」


『ショウ君、地図スキルは取れませんか?』


「あ、そっちがメインだった」


 長さの単位が把握できたから、地図スキルはきっと取れるはず……

 スキル一覧から『地図』で検索して……あった!


「取れる! アンコモンでSP4だけど、これは取るよな」


『はい!』


 ポチッと取得して、さっそくざっくりとした地図をと思ったんだけど……もらった紙に書くの、なんかもったいない気がする。


「自前で紙も作ろうかな……」


『ショウ君、少しぐらい無駄遣いしても、ドラゴンさん怒ったりしないと思いますよ?』


 う、でも、スキルレベル低いうちはなあ。


『あと、しばらく家を空けて港に行くことを伝えておいた方がいいと思います』


「あ、そうだった。じゃあ、まあ地図描いて送っとくか」


 とりあえず、わかる範囲で。

 灯台がどの辺にあるのかとかも、描いておかないとな……


***


「ただいま」


『おかえりなさい』


 あの後、無事、小さい樽を作ることができたところで、ルピやスウィーたちも帰宅。

 ちょうど良い時間なのでログアウトしてきた。


「ベルさんー、そろそろ時間ですよー。先に戻りますのでー、早めに上がりましょうねー」


 ベル部長の限定ライブを見てたヤタ先生から終了のお知らせが。

 戦闘中とかに言われたら、確実に焦るよな、これ……


「ところでー、部室に配信してなかったのはー、何かあるんですかー?」


「あー、ネタバレ回避的な?」


「へー、なるほどー」


 ミオンがうんうんと頷いてくれてるおかげか、ヤタ先生もそれ以上は追求せず。

 何かニヤニヤしてるけど気にしない……


「ふう、戻りました」


「1分オーバーですがー、まあいいでしょー」


「ヤタ先生が街中で、あれこれ見たいって言うからです! 真っ直ぐホームに帰らせてください……」


 ひでえ……

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