金曜日
第183話 交渉は筋を通してから
「おはよ」
「ぉはょぅ」
駅前。いつもの時間、いつもの場所でミオンと合流。
チラッと視界の端に椿さんがいた気がする。ちゃんとミオンを見守ってるんだろうなあ。
ま、気にしてもしょうがないのでスルー。
改札を抜けてホームへ。すぐに来た電車へと乗り込む。
昨日はあの後『空間魔法』について調べる時間が取れず、モヤモヤした状態でログアウト。
早く部活の時間になって欲しいところなんだけど、それより先に聞いておかないといけないことが……
「日曜に服買いに行くのって、椿さんに伝えた?」
「ん」
嬉しそうに頷くミオン。
じゃ、時間と店を決めて伝えておかないとかな。
「お昼過ぎに駅で待ち合わせでいい?」
「……お昼ご飯」
「あ、また作る?」
また嬉しそうに頷くミオン。
約束してたし全然いいんだけど、魚料理が良いんだっけ?
できれば新鮮な魚で作りたいし、椿さんに適当に買ってこられる前に、ちゃんと相談した方がいいか……
***
授業が終わって部活の時間。
いつも通り、ヤタ先生から鍵を受け取って部室へ。
「はー、今日一日、ずっと気になってしょうがなかった……」
『空間魔法の件です?』
「それもだけど、日曜のお昼って魚料理がいいんだよね」
『はい。ダメですか?』
「あ、全然良いんだけど、魚介類は適当に用意されてもちょっと……」
何を作るか決めてから、それに合う魚があって欲しいというか、前みたいに山ほど用意されても困る。というかもったいない。
『なるほどです。椿さんに伝えておきますね』
「それなんだけど、椿さんって料理しない人だから、ちゃんと買えるのか不安でさ」
『そうですね……』
ミオンの反応がかなり渋いところを見るに、椿さんって相当……なんだろうなあ。
なんでまあ、ミオンの家に行く前に俺が買った方が安全安心。
どうしても食べたい魚があって、スーパーで手に入るか微妙なものとかは要相談ってことにしよう。
「こんにちは」
「どもっす」
『こんにちは』
冷蔵庫からエナドリを取り出しつつ、ゲーミングチェアへと腰掛けるベル部長。
そういえば、昨日のライブは王国の南西の古代遺跡だったっけ?
「昨日の古代遺跡はどうでした?」
「ちょっと面倒な感じだったわ。氷系の魔法って、ショウ君も知らないわよね?」
「知らないっすね……」
応用魔法学だと<水>なのかな?
温度を扱うんだとすると<火>って可能性もあるかもだけど。
『氷の魔法が必要なんですか?』
「スライムが相手なのよ。凍らせて砕くのが早そうなのよね」
「あー……」
ベル部長の話だと、スライムはぽよぽよしてる方じゃなく、どろどろしてる方らしい。
溶解液を吐いて攻撃してくるそうで、それはまあ魔法障壁とかで防げるので脅威じゃないんだけど、倒す方が手間なんだとか。
『やっぱり古代遺跡の塔へ行くんですか?』
「ええ、日曜に行く予定よ。それまではアミエラ領でちょっとね」
「例のNPCドワーフってどうしてるんです?」
「今のところは、放棄した場所を整備し直してるみたいね。それが終わったら、古代遺跡に潜るって言ってるらしいわ」
『本当に有翼人さんたちを気にしてないんですね』
完全に無視っていうか、何か言ってきても対処できる自信があるっぽいなあ。
やっぱりこれって、銀竜のアージェンタさんと繋がってるのか?
どういう展開になるか気になるけど、俺としては見てるしかないし……
『レオナさんのファンの皆さんもドワーフでしたよね? 一緒に行動してらっしゃるんでしょうか?』
「ええ。採掘に潜りはしないけど、彼らの手伝いをしてスキルレベルを上げるつもりらしいわ」
なるほど。加工と鍛治ができればいいんだし、手伝いして仲良くなっとけば、何かしら恩恵もあるかもか。
「ワールドクエストってどうです?」
「進捗は良くない方じゃないかしら。今はみんな竜族との交渉方法を探ってるところね」
そう言いつつ、公式のワールドクエストのページを開く。
あ、こっちでも達成率見れるようになったんだ。……2%だから、ほとんど進んでないっぽいな。
「あとは死霊都市の歴史を調べてる人たちと、そこまでの道を整備しようとしてる人たちかしら」
「え?」
確かに道を作った方が行き来の時短ができるからいいんだろうけど、帝国領と繋ぐ道を勝手に作っちゃっていいのかな?
「先にモンスターが入ってこないような防壁を作るそうよ」
「それって結構大変なんじゃ……」
「そうは言っても、今のプレイヤーが大挙すればね」
森の入口から1時間ほどの場所に、狭くなってる部分があるので、そこに石壁でゲートを作るらしい。
帝国としても、今まで手付かずだった土地を確保できることになるので、反対はしなかったと。
ただ、竜族との諍いに巻き込まれるようなことは避けたいので「そこから先は預かり知らないこと」という話だそうで。
『どの国も竜族と揉めるのは避けたいんですね』
「ええ、そのあたりも気になるところね。もう少し情報が集まったら、セスちゃんから子爵様に聞いてもらおうかと思ってるわ」
「なるほど……」
アージェンタさんの話だと、古代遺跡は竜族が管理してるって話だし、国が持ってる古代遺跡も竜族から許可を得てるとかそういう感じ?
だとしたら、竜族の機嫌を損ねて、今任されてる古代遺跡を取り上げられたら困るよな……
「どうしたの?」
「あ、いや、セスが信頼されてるとは思うんですが、教えてもらえるものかなって。それに教えてもらえたとして、広めていいものなのかとか」
「そうよねえ。教えてもらえたとして、他言無用と言われたらどうしようもないわね……」
俺も古代魔導施設の暴走の件は内緒にって言われてるしなあ。
まあ、内緒って言われてなくても話せそうにないけど……
「こんにちはー」
「『こんにちは』」
「どもっす」
ヤタ先生が現れて自分の席へと座ると、ベル部長が開いていたワールドクエストのページに目を通す。
「今度のワールドクエストの進捗はいまいちっぽいですねー」
「交渉っていう目標が厄介なんですよ。ヤタ先生、何かいい案はありませんか?」
「そうですねー。いっそのことー、直接会いに行くとかどうですかー?」
俺、直接会ってるんだよな。
ちらっとミオンの方を見ると……ニコッと返された。
「一部、そういう人たちもいますね……」
『どうやってですか?』
「北の山脈が『白竜山脈』って言われてて、その向こうに竜族、ドラゴンが住んでるって話らしいわ。だから、その山脈を越えようって」
「それって逆に怒られたりしないんですかね」
不法侵入っぽい気がなんとなく。
アージェンタさんに伝えておいた方がいいのかな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます