第181話 目に見える女王らしさ
「うん、似合ってる」
『そ、そうですか?』
白Tシャツ、空色に白の水玉模様ラッシュガードパーカー。
ボトムはスポーツ用の白ショートパンツに黒トレンカを合わせる感じ。
青地に白でIROロゴが入ったキャップを浅く、鍔の上のピンク縁のサングラスは完全にアクセ扱い。
靴は見えないだろうけどスニーカー。
「すごいわねえ……」
「いいセンスしてますねー」
夜のIROログイン前にスタジオに集合。
衣装替えってことで、やっぱり俺に一人任されてしまったわけで……
「でも、もうちょっと釣り人感を出したいかな……」
あ、あれってあるのかな? 探してみるか。
「お、あった。なんでもあるな……」
腰に巻くタイプのライフジャケットと、ああ、この指ぬきグローブも。
あ、最初から『#フィッシング』ってタグで検索しとけば良かったのか……
『こうですか?』
「うん、いいね。リアルでも似合うんじゃないかな」
夏の合宿が沖縄なんだっけ。
その時にでもちょっと着てみて欲しいかも……
「ねえ。やっぱり、ショウ君を一日借りれ……」
『ダメです』
「はいはいー、あとは若い二人にー」
そう言ってヤタ先生がベル部長を連れてスタジオを後に……よし。
「あとこれ」
『え?』
IROで作った【魔狼の牙のペンダント】が
正直、渡すタイミングに悩んでたんだけど、今しかないよなってことで。
「ショウ君、ありがとう」
うう、ミオンの生声はホント心臓に悪いというかなんというか……ドキドキしていたたまれなくなる。
「あー、お礼はルピにもね」
『はい!』
さて、俺もIRO行かないとだ。今日のうちに醸造用のグリシンやらグレイプルを用意しておかないと。
「じゃ、俺も行ってくるよ」
『はい。あの……ショウ君、これと似た服を買ってもいいですか?』
「ああ、リアルで? もちろんいいと思うよ」
リアルの方の服でも経費にしちゃっていいのかな?
まあ、ミオンから椿さんに話して貰えばいいか。
『今度の日曜はどうですか?』
「え? 日曜って……俺が選ぶの?」
『はい。現実にこれと同じのがないかもですし。ダメですか?』
「あ、うん、いいよ。特に用事とかないし……」
そうだよな。全く同じのなんてないと思うし、あるもので選ばないと……
『じゃ、IROしましょう』
「そうだった。行ってくるよ」
『はい、いってらっしゃい』
***
「ごちそうさま」
「ワフン」
今日のご飯はフォレビットのロースト。ルディッシュをおろしたものと、ペリルセンスをすったものをたっぷりと。
兎肉ローストの旨味にごまの香ばしさが合わさりつつも、大根おろしが後味をさっぱりさせてくれる一品。これに醤油が加われば、ライブでお披露目できるレベルだな。
「じゃ、まずはグリシン採りに行こうか」
「ワフン」
「〜〜〜♪」
俺とルピが兎肉ローストを食べてる間、スウィーとフェアリーはドライグレイプルをぱくぱくと。
今日はグリシン探しを手伝ってもらい、そのあとはグレイプルがある教会裏にも連れて行くつもり。
バックパックを背負っていざ出発!
『釣り道具にグリシンとグレイプル、結構たくさんありますけど、一度に運べますか?』
「全部は無理だし、運べる分だけかな。グレイプルの方を優先するよ。グリシンから醤油とか味噌はできるかどうかも不明だし」
『なるほどです』
釣り竿は2本持っていって、ライブ中にどっちも折れちゃったら、そこで終わりにしよう……
『ショウ君、あの醸造器ですけど、木の樽じゃないとダメとかいう可能性は……』
「あっ、それはあるかも……」
しまったな。っていうか、作れたとして別に容器が必要になるじゃん。
作ってはあるけど、それも持っていかないとだ。
「明日の放課後か夜に樽作ってみるよ」
『はい』
大きくなくていいはずだから、余ってる木材でなんとかなるはず……って枠は金属で作らないとかな? 日本の樽なら竹で縛るんだっけ? いや、それは桶か……
なんか、めちゃくちゃ難しい気がしてきたけど、木工スキルと鍛冶スキルでなんとかなってくれるはず!
「時間かかりそうなら、最初に置いてあった樽を綺麗に洗って使うか……」
『そうですね。その樽を見ながらなら、もっと作りやすくなるんじゃないでしょうか?』
「確かに……」
実物が目の前にあれば、それと同じのを作る方が楽だもんな。
バラした方が理解も早そうだけど、元通りに組めるか不安だし、それでライブに間に合わなくなるのは本末転倒。
こっちで小さいのを作ってみて、ダメそうなら向こうでもう一度チャレンジにしよう。
「とりあえず、ワインビネガーができればいいかな」
『あの、ワインビネガーってどういう料理に使うんでしょう?』
「うーん、わかりやすいのでいうとフレンチドレッシング? あとはピクルスとか。ライブではカルパッチョでも作ろうかなって思ってるけど」
『そうなんですね!』
そろそろ本格的に砂糖が欲しくなってきた。サトウキビとかテンサイっぽい植物、どこかにないかな……
「なあ、甘い植物って知らない?」
「〜〜〜?」
肩に座ってるスウィーに聞くと、後ろでホバリングしてるフェアリーたちに説明中? スウィー本人は知らない感じかな。
まあ、気がついたら教えてくれればいいよと伝えておく。
古代遺跡の通路を右に曲がり、南東の森の出口へと進む。
洞窟を出たところ、いい感じの草むらに出たところで、フェアリーたちがわーっと花へと群がっていく。
「あ、そうか。砂糖じゃなくても甘いやつあったじゃん」
『はい?』
「ハチミツ」
『あ!』
ただ、虫をあんまり見ないんだよな。
ベル部長がでかい芋虫のモンスターと戦ったことがあるらしいけど、そう考えるとでかい蜂とかもいたりするんだろうか……
「ま、いずれ蜜蜂とか見つかるかもね。それか『白銀の館』のディマリアさんだっけ? あの人なら知ってるかも」
『ライブで聞いてみてもいいかもですね』
「あー、いいね。っていうかさ、スウィーたちは花の蜜を集めるとかできないの?」
「〜〜〜?」
そう聞いてみると、すいーっと飛んでいって、コプティーの小さくて白い花の前に。
え? ひょっとして……
「〜〜〜♪」
淡い緑の光がふわっと花を包み……とても小さい黄金色の水球が浮かび上がる。
スウィーと一緒に飛んできたそれを手のひらで受け取る。
『ショウ君、それって……』
「ごめん、スウィー。一応、先に鑑定させて」
【女王フェアリーの蜜】
『フェアリーが花から採集した蜜。女王が採集した最高級品。
料理:調味料として利用可能。調薬:あらゆる状態異常の回復薬となる』
『すごいです!』
「やべえ……。スウィー、本当にすごいんだな」
「〜〜〜♪」
ドヤ顔+鼻息荒く胸を張るスウィー。
そして、その顔のまま手をくいくいっと。
「あ、はい。とろとろ干しパプどうぞ」
それをさっと奪い取って頬張り始める。
これがなきゃ、本当に女王っぽいんだけどな……
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