第180話 そろそろ衣替え

 手頃な仙人竹を数本確保して山小屋に帰還。作業は蔵の中でやろう。

 さて、まずは釣りスキルをポチッと取得。で、


「最初は伸び縮みとかしない普通の延べ竿でいいよな」


『そうなんですか?』


「リールとかもないしね」


 大物を釣ろうと思ったらリール必須なのかなあ。

 ロープを巻き取る仕組みぐらいなら作れると思うけど、糸が絡まないような機構とかって手が込んでて作れる気がしない。


 まあ、次のライブは堤防で浮き釣りするぐらいだし、俺の身長を超えるくらいの竹竿でいいかな。まずは乾燥させないとだっけ。


「<乾燥>っと……結構MP持ってかれたな」


『大丈夫ですか?』


「うん、平気平気。一本ずつ作るから」


 とはいえ、リールがないからガイドも不要。

 先端に釣り糸を結びやすくするためのリリアンをつけておくことにする。クリムゾンエイプのやつでいいか。


「すっごい適当な作りに見えるけど完成。いや、実際、適当なんだけど」


『私には違いがよくわからないです』


「正直、俺もよくわからない」


 クリーネで釣りしてる人たちは釣具はどうしてるんだろ? NPCの村人に作ってもらえるとかなのかな?

 そんなことを考えつつ、次の竹に乾燥をかけ、革紐のリリアンをつけての繰り返し。


「釣り竿の方は3本もあれば足りるかな?」


『向こうにはいつ運びます?』


「んー、明日の夜か、土曜のお昼かかな。あ、でも、醤油作れるか試したいし、明日の夜には向こう行って仕込まないとか」


 そうなると、今日の夜はグリシンをできるだけ集めてこないと。ワインというかワインビネガーが欲しいから、グレイプルもだな。


『やっぱり、あの港とすぐ行き来できる方法が欲しいですね』


「だね」


 まあ、それはアージェンタさんとか竜族の気分次第だし、もらえたらラッキーぐらいの気持ちでいよう。


 あとは糸やら細かいものを作る。

 道糸、鉤素ハリス、釣り針、錘、浮き……浮き止めも作らないとだけど、これもクリムゾンエイプの革でいいか。


『針はうさぎさんの骨からですか?』


「うん。正直、鏃かこれぐらいしか使い道ないし」


『鉄で作るのかと思ってました』


「鉄で作っても良いんだけど、針ごと持って行かれた時の精神的ダメージが……」


 気合い入れて作っても良いんだけど、何せIROでの釣りは初めて。

 道糸や鉤素も果たして強度的に問題ないのかとか、さっぱりわからないことだらけだし。


『ちなみにどういうお魚を釣るつもりですか?』


「アジが釣れれば良いかなって」


 新鮮なアジなら刺身で食べられる可能性が高い。

 クレフォール……わさびが手に入ったし、そのために醤油が欲しいところだけど、それが無理でも、塩焼きは絶対に美味しいだろうし、干物にしておけば日持ちもするし。


『ごめんなさい。どういうお魚かわからないです……』


「えーっと……あ! そうだ! 海洋生物学取るの忘れてる!」


『あ、図鑑ですね』


「そうそう。あれって絵が描いてあったし、多分載ってると思うんだよな。時間、まだあるかな?」


 なんだかんだで、そろそろ5時半な気がするんだけど。


『あと10分ちょっとありますよ』


「りょ。すぐだから大丈夫のはず」


 作った釣り道具はそのままに山小屋へと。

 お昼寝中だったルピがぱちっと目を覚まし、1階へとついてくる。あ、手紙……来てないな。


「えーっと……あったあった」


 キャビネットを開け、図鑑のうちの海洋生物の本を取り出して上へと戻る。

 机に置いたそれを開けると、ルピも興味があるのか、自分のお座り台から覗き込んでくる。可愛いし賢い。


「っと、まずはスキル取らないと……あった」


 水生生物学スキル、アンコモンで4SP必要だけど迷わず取得。残り10SPになったけど気にしない。キャラレベ上がった時のBPを温存してるし。


「さて、どれかな?」


 先頭からパラパラとめくっていくと……


「あ、多分、これじゃないかな」


【オランジャック】

『沿岸部に生息する20cm前後の魚。食用可。

 料理:そのまま、もしくは干物を焼く調理が一般的。素材加工:干物に加工可能』


『これがアジなんですね』


「うん。ミオンは実物は……普通そんな見ないか」


 見るとして干物になったやつぐらい?

 けど、お嬢様だからアジの干物なんて食べたことないよな……


『あ、そろそろ時間です』


「おっと、続きはまた夜に。ルピ、また後でな」


「ワフン!」


 あとは餌だけど……ミオンが嫌がりそうなんだよな。

 ゴカイとかアオイソメが平気な女子ってなると、それこそ釣りが趣味でもう慣れたって人だろうし、そもそもいるのかって問題が。

 まあ、土曜の昼のうちに何か別の餌候補を探すか……


***


「ふう」


『お疲れ様です』


「二人は何も言わなくてもー、ちゃんと時間前に終わってきますねー」


 とヤタ先生の視線がベル部長に。あ、戻ってきたっぽい。


「私だってキリが良ければちゃんと時間前に終わりますから」


「まあ、俺は他の人の都合とか全くないっすからね」


 なんか話をしてて、それを打ち切ってログアウトとか苦手……。なので、島でのソロプレイはすごくやりやすい。自分が立てたスケジュールで動けるし。


「ところでー、ショウ君は釣りをやるみたいですがー、今度のライブでですかー?」


「あ、はい」


「あら、さっそくなのね」


「まあ、ちょうどタイミング良かったんで」


 クリーネの釣りプレイヤーさんたちの要望が無くても、そのうち釣りライブはしたいかなって思ってたところ。


『何か問題でしょうか?』


「いえいえー、いいと思いますけどー、ミオンさんの衣装も変えたらどうですかー?」


「あ!」


 そういやそうだ。

 せっかく、チャンネル名を普通の(?)にしたんだし、そろそろ衣装替えしてもいい気がする。


『ショウ君はどうですか?』


「うん、衣装替えしたいかな。釣り用ウェアって似合う気がするし」


『着てみたいです!』


 じゃ、そっちもライブの目玉ってことでいいかな?

 今の探検家服は基本ってことにして、ライブのメインテーマに沿った感じのオシャレとかが良さそうな気がする。

 パステルカラーのラッシュガード。下はタイトなデニムと長靴……までは映らないか。


「……私もそろそろイメチェンしようかしら」


『ベル部長は魔女服がすっかり定着しちゃってますね』


「ショウ君、借りていい?」


『ダメです』


「そうよねえ……」


 大きくため息をつくベル部長。というか、俺は物じゃないので勘弁してください。


「ショウ君はー、どうやってコーデが上手くなったんですかー?」


「上手くって言われても。真白姉や美姫に付き合わされてたから、ですかね?」


 あーでもないこーでもないが本当に長いから、パッと似合うのを見つけて、早く終わらせたかっただけです……

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