第182話 持ちつ持たれつ

 グリシンをバックパックいっぱいに採集して、いったん山小屋へ戻る途中。

 スウィーにもらったフェアリーの蜜は……


「めっちゃ甘くて美味しかったけど、量が……」


『フェアリーさんたち全員で集めてもらって、コップの半分ぐらいでしょうか』


「ま、気が向いたらでいいよ。俺も好きにやってるんだし」


 ドライフルーツをお駄賃にってのも考えなくもないけど。

 ちらっとスウィーを見ると……


「〜〜〜¥」


 指で輪っかを作ってニヤリ。

 女王らしくない俗っぽさ……


「まあ、集めてくれたらその分、とろとろ干しパプ作ってあげるから」


「〜〜〜♪」


 まあ、お互い持ちつ持たれつならいいかな。

 スウィーが逆向きに座って、後ろのフェアリーたちに何やら説明してるし。


『花壇を作った方がいいかもですね』


「あ、そうか。山小屋の近くに花壇はいいね」


 畑はあまり作らない分、花を増やすか。

 側溝のあたりが殺風景になってるし、花壇とか生垣を沿わせれば、なかなかいい感じかも。


「ワフ」


「おっと」


 いつの間にか階段下まで戻ってきてた。

 ルピが駆け上がっていくのを追いかけて山小屋に帰宅。

 土間でいったんグリシンを甕に移し替えてると、スウィーが食器棚にあった空の薬瓶を持ってきた。


「〜〜〜?」


「ん? ああ、これに集めてくれるの? もちろん、使っていいよ」


「〜〜〜♪」


 サムズアップで返してくれたスウィーがフェアリーたちに説明してくれてるっぽい。

 まあまあ、お任せしていいんだけど、これから教会の裏手に行くし、そっちにも花はあったはず。


「次はグレイプル採りに行くよ」


「〜〜〜♪」


 グリシンは大豆だから目一杯詰め込めるけど、グレイプルの実はブドウだからなあ。

 実を潰さずに運ぶ方法を何か考えないと……


 ………

 ……

 …


「ふう、こんなもんか」


『たくさん採れましたね』


 インベントリにいっぱい、バックパックにも潰れない程度にいっぱいのグレイプルの実。

 そして、


「〜〜〜♪」


 ルピに乗ったスウィー、そしてフェアリーたち。

 教会の裏手にあるグレイプルや、その周りに咲いている花から蜜を集めてきてくれた。


「ワフン」


 ルピの首にぶら下がっているのは、小瓶を入れたポーチ。

 救助犬ってこういう感じなんだっけ? いや、小さい樽だっけ? まあ、可愛いのでよし。


「ありがとな」


「ワフ〜」


 薬瓶とポーチを受け取って、ルピをわしゃわしゃと撫でると、その後ろから圧が。

 フェアリーたちにもちゃんとご褒美をあげないと。


「はいはい、これ好きなだけ食べて」


「〜〜〜!」


 とろとろ干しパプを6つ、石壁で小さいテーブルを作って置くと、わーっと群がってワイワイと食べ始めた。


「俺もちょっと休憩」


『はい。これで準備は整ったと思いますよ』


「かな?」


 インベの方からグレイプルの実を取り出し、そのスペースにフェアリーたちが集めてくれた蜜が入った小瓶を。あ、その前に一応鑑定しておこう。


【フェアリーの蜜】

『フェアリーが花から採集した蜜。

 料理:調味料として利用可能。調薬:軽度の状態異常の回復薬となる』


 効き目に差があるんだ。やっぱりスウィーって女王なんだな……


『なんだか、使うのがもったいない気がしますね』


「だよなあ。でも、日にこの小瓶一本って考えると、使わないとどんどん溜まっちゃうし、その時はフェアリーたちに何か作ることにするよ」


 サクッと作れるのはグリーンベリーの蜂蜜漬け、ならぬ、フェアリー蜜漬け?

 ちょっと作ってみたくなったけど、漬け込むならもう少し量がないとだよな。


『今日の残りの時間は畑づくりですか?』


「うん。昨日植えたオーダプラも順調に育ってるみたいだし、もう来週には収穫できる感じ?」


『グレイプルの実は採集すると15分で復活してましたけど、植物によって違うんでしょうか?』


「ちゃんと根付くまでは時間かかるとか? ちょっと待てば収穫できる方がありがたいけど……別にすごい量が必要なわけじゃないからなあ」


『そうですね』


 グレイプルの実とかも順番に収穫してるうちに、最初のやつが復活してたりしてびっくりする。

 一日まるまる農作業すると、すごい収穫量になる気がするんだけど……。でも、保管場所がないし、無駄に採集する意味もないか。


「月曜は農作業の日でいいかな?」


『はい。具体的な内容を教えてもらっていいですか?』


「えーっと……」


 ログインしてご飯はいつものルーティンとして……

 まずは家庭菜園の方を収穫&お手入れかな。ああ、あと花壇もか。

 その後、ここ、教会の裏手の畑を収穫&お手入れ。グレイプルの実は足らないと感じたらで良さそう。

 で、戻ってまた家庭菜園の方を収穫&お手入れって感じ。


『だいたい2時間ぐらいで終わりそうですね。あと1時間はどうします?』


「のんびり? ルピと遊びながら雑談してれば、あっという間な気がする」


『はい!』


 月火はのんびりで行こう。

 なんか本土の方は大変そうだけど、島には関係のないこと。

 アージェンタさんの方が気になるけど……


 ………

 ……

 …


「ふう、あとは明日持っていくものをまとめるだけか。今って11時ぐらい?」


『はい。もうすぐです』


「りょ。じゃ、今日は終わりにしようか」


『ショウ君、手紙がまた来てないか確認を』


「あ、そうだった」


 1階にあって目にしない分、ついつい忘れちゃうんだよな。ログインしたら、ご飯にする前にチェックする方がいいのかな。


「ん?」


 光の精霊にあかりを頼んで1階へと降りると、例の魔導転送箱の水晶が点滅している。


『着信してますね』


「まさか、もう送ったとろとろ干しパプ、食べきっちゃったとか?」


 30個はあったはずなので、1日1個で1月はもつ計算だったんだけど。

 いや、ドラゴンの巨体からしてみれば、一口で終わる量か……

 おかわりを要求されても、用意できるのは来週とかになるんだよなと思いつつ、箱を開ける。


「手紙と……本?」


『この島の古代遺跡についての資料でしょうか?』


「かな? とりあえず手紙を……上で読むよ」


 箱を閉め、本と手紙を持って2階へ。

 本をテーブルに置いて、手紙を開きつつ座ると、ルピがお座り台に乗って覗き込んでくる。可愛くて思わずなでなで……

 おっと、えーっと、


『ショウ様


 果物の乾物、多めに送っていただき、ありがとうございました。

 お姫様ひいさまには、1日2個までと約束させましたので、しばらくは大丈夫です。

 島にある魔導具につきましては、ご自身の判断で利用してもらって構いません。それが危険なものである場合は、別途回収に伺います。


 お礼と言いますか、島および古代遺跡の地図作成に有用な、空間魔法の魔導書をお送りしました。

 ご指定の転移魔法陣ですが、対になる物を探すための個体番号が必要となりますので、空間魔法を習得の後、転移魔法陣を鑑定して得た個体番号をお伝えください。

 対応した物がないか確認いたします。


 お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします』


「え? 空間魔法?」

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