第175話 軽く調べて後は流れで

 目を開けると見覚えのない天井。

 ログインする前に、今日は北東の海岸スタートだってわかってたので、驚きはしない。


「ルピ、おはよ」


「ワフ〜」


 じゃれついてくるルピをひとしきり撫でてから……スウィーどこいったんだ?

 確か……


「〜〜〜Zzz」


『寝てますね』


 枕元に畳んであったローブの上に大の字でいびきを書いているフェアリーの女王。

 まあ、明るくすれば起きるだろう。


「あかり……じゃなくて、窓開けるか」


 木窓を開くと、昨日の雨模様はすっかりどこかへ行ってしまったようで、柔らかい光と爽やかな潮風が吹き込んでくる。


「〜〜〜!?」


「スウィーもおはよう。朝ご飯にしようか」


 眠気覚ましならグリーンベリーの方がいいだろうと思って渡す。

 ルピにはランジボアの肉があるので……先にロフトから降りよう。


「よっと」


 ロフトから飛び降り、酒場らしき部屋の方へと。

 こういう探索中の外泊のために、野営道具一式を用意しとくべきだったなあ。


「外に出ようか」


「ワフン」


 スウィーは俺のマントのフードに入ってぐてーっと。フェアリーにも低血圧とかあるんだろうか? それでもグリーンベリーはもぐもぐしてるんだよな……


「今度はランチプレートも持ってくるよ」


「ワフ〜」


 ランジボアの肉をスライスしてルピに。

 地面に落とさないよう、器用に咥えて食べるルピ。綺麗好きな点も可愛いし賢い。

 俺はドライパプを半分に割ってぱくり。もう半分は予想通りスウィーに取られた。


『山小屋に戻りますか?』


「んー、せっかくだし、部活中は倉庫と灯台を確認して、夜に帰ることにするよ。また来るとは思うけど、気になる場所はチェックしときたいし」


『はい。あ、ショウ君、次のライブのことなんですけど、ここで釣りをしませんか?』


「あー、それいいね。クリーネの人たちが釣りをやって欲しいって言われてたし」


『です』


 こっちでのんびり釣りをして、釣れた魚で飯テロかな?

 何が釣れるかわからないし、ひょっとしたら釣れないかもしれないけど……


「何も釣れなかったら、それはそれでかな?」


『大丈夫ですよ』


「だといいんだけどね」


 じいちゃんに連れられて渓流釣りは結構あるんだけど、海釣りはほとんどないんだよな。単に田舎が山奥だったからだけど。


「そうなると釣りスキルかな。あと釣具をいろいろ作らないと。ごめん、ちょっとメモってくれる?」


『はい!』


 釣りスキル、図鑑に魚のもあったはずだから海洋生物学スキルかな。

 釣り竿は仙人竹、道糸は細めのロープ、鉤素ハリスはランジボアの毛を使う感じ。

 鍛治と細工で釣り針。浮きと錘も必要か。それぞれ大きさを何種類か考えよう。あ、毛鉤とかも作れそうな気がするな。


『私、全然わからないままメモしてるので、あとで見直してくださいね?』


「あー、うん、どういうものかは説明するよ。あと、飯テロするのに醤油を間に合わせたいところだなあ」


『はい。あの醸造できる魔導具を紹介するんですね』


 グリシンを古代魔導醸造器で醤油に。ルディッシュおろしの準備もしておこう。

 ただの焼き魚だけだとあれだし、また何か思いついたらだな……


「よし。じゃ、倉庫から見ていくか」


「ワフ!」


 ………

 ……

 …


「うーん、こっちも空っぽだなあ」


『何を置いてあったんでしょうか?』


「謎だよな。この扉とか結構なサイズがあるし」


 大きな錆びた引き戸を頑張って開けてみたが、倉庫は二つとも空っぽ。

 ほこりだけが溜まってたけど、ぱっと見で何もなかったので放置で。しばらく開けっぱなしにしておけば、多少は綺麗になると思う。


『何か大きなものを置いてあったとして、どうやって運んできたんでしょう』


「それも謎だよね。転移魔法陣もなかったし」


 思いつくのは、船を修理するための資材あたり?

 例の記録だと僻地扱いだったけど、教会もあったし、その先には廃屋もあったし、誰か住んでた頃もあったはず。そのころの名残とかかな……


「まあ、これもアージェンタさんに聞いてみるか」


『はい』


 というわけで、本命の灯台へ。

 古代魔導扉って錆びないんだな……


「じゃ、開けるよ」


『モンスターが出るかもです。気をつけてくださいね?』


「りょ」


 開けてすぐ何かモンスター出てくる可能性あるかな? ゴーレムとかガーゴイルとかならあるか……

 精霊の加護を発動させ、光の精霊にあかりを。準備オッケーかな?

 ゆっくりと扉に手を添えると、いつもの問いかけが聞こえる。


【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。解錠しますか?】


「はい」


 扉の抵抗が無くなったのを確認し、そっと手前に開ける。

 照らされた先に……モンスターは特にいない? 気配感知にも……ないな。


「ワフン」


「おけ。行こうか」


 目の前にあるのは石造りの螺旋階段。見上げるとずっと上まで続いていて、一番上の部屋かな? そこに吸い込まれている。


『何もアナウンス出ませんでしたね』


「あ、そうだった。これって古代遺跡じゃないのかな?」


『そうですね。それか、この島全体で一つの古代遺跡とかでしょうか?』


「あー、そうかも。でないと、発見の報償SPもらえまくるもんな」


 そんなことを話しつつ、まずはあたりを確認。

 真ん中の螺旋階段はあとで上るとして、他に何かあったり……しないか。

 おっと、精霊の加護は解除しておこう。


「うーん、本当にただの灯台なのかな。まあ、上ってみればわかるか」


『階段が崩れないか心配です』


「ああ……」


 長い間放置されてたわけだし結構やばいかも?

 いや、こういう時のためのスキルがあったじゃん。


「ん……どうかな?」


 土木スキルを意識して螺旋階段の上り口を確認。

 グリーンだから大丈夫かな。その次とさらにその次も……


【土木スキルのレベルが上がりました!】


『おめでとうございます。土木スキルで確認できましたね』


「うん。っていうか、もっと普段から確認していけば良かった」


 この確認だけで、スキルレベル7ぐらいまでは上がりそうな気がする。

 とりあえず、階段を一段ずつ確認しつつ上るか。


『どれも大丈夫そうですね』


「うん。まあ、油断はしない方向で。ルピも気をつけろよ」


「ワフン」


 問題ない階段だなーって思わせておいて、最後の方で崩れるとかお約束だもんな。

 こういうとこから落ちた時、風の精霊がいたらなんとかなったりするのかな?

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