第176話 行かない場所と行けない場所

 最上階の床の裏面が見えてきたところでいったんストップ。

 金属? 石か木だと思ってたけど……古代魔導扉と同じ感じ。


「まあ、いちいち気にしててもしょうがないか」


「ワフン」


 螺旋階段を上り切ったところは四畳半ぐらいのスペース。

 一応、土木スキルでしっかり確認して……大丈夫っぽい。


 真ん中に見えるのは金属のツルッとした柱。いや、柱っていうか、天井も含めてかなり大きな盃のようなものが据えられていて、その上に照明部分が乗ってるっぽい。


「これが土台で、見えないけど上に光るパーツが乗ってるんだろうなあ」


『みたいですね。鑑定してみたらどうでしょう』


「あ、そうだった」


【古代魔導灯籠】

『備え付けの魔晶石に蓄えられたマナの力によって発光する灯籠』


 え? 備え付けの魔晶石? どれだ?


「〜〜〜♪」


「お、さんきゅ」


 いつの間にかフードを飛び出していたスウィーがこっちこっちと手招きする。

 スウィーの指差す先には中サイズの魔晶石が埋め込まれていて、一目で空っぽなのがわかる。


『MP注いでみますか?』


「んー……、今はやめとくよ。これがきっかけで何か来たりしたら嫌だし、アージェンタさんに確認とってからかな」


『あ、そうですね』


 で、それはいいとして、壁に外へと出る小さい扉がある。中腰にならないと潜れないぐらいのやつだし、メンテナンス用とかそういうのだろう。


「とりあえず開けてみるかな」


『危なそうなら外には出ない方が……』


「うん。中から見える範囲だけにするよ」


 扉の前にしゃがみそっと手を触れると、これも古代魔導扉らしく、いつもの問いかけが。

 はいと答えて……これはまあ引いて開けるよな。


「お? 足場と手すりもあるし外へ出れる?」


「〜〜〜♪」


「ちょっ、また潮風に飛ばされるぞ!」


 スウィーがまたふらっと出て行こうとしたので、慌てて手で遮る。

 振り向いて「てへぺろ♪」みたいな顔して、フードの中へと滑り込んだ。


「ちょっと顔だけ出して確認するよ。ルピはステイだけど、俺が落ちそうになったら引っ張ってくれな」


『はい』


「ワフン!」


 ただの待てだと心配しそうだし念のため。

 落っこちそうになったら、マントをぐいっと引っ張ってもらおう。


「スウィーも気をつけて」


 四つん這いになって、まずは顔を外に。足場は灯台をぐるっと一周してるっぽい。

 足場自体は問題ないと土木スキルが教えてくれてるけど、地面まで30m以上はありそうだったし、無理はしない方向でいいかな。


 ちょっとだけ前へ進んで、上半身を外に出す。

 うん。次にくるときはロープ持ってこよう。命綱がないと怖い。

 ゲームだとわかってても、高さとかリアルにもある怖さは苦手……


『ショウ君、左下に何か』


「え?」


 ちょっと頭を高くし、手すりの間から左下を……


「あれって洞窟?」


『っぽいです。下から行けるんでしょうか?』


「そういや、裏側まで見てなかった。よし、降りよう」


 そうと決まれば、こんな高いところに長居は無用。さっさと戻って扉をきっちりと閉める。


『降りるときも注意してくださいね』


「あ、うん、はい」


 この螺旋階段、降りる時の方が絶対に怖いよな!


 ………

 ……

 …


「はあ、怖かった。この先、空を飛べるようになったとして、俺、絶対無理だな」


 一番下まで降りてきたところで、思わず座り込んでしまった。

 階段の隙間から下が見えて、マジ怖かった……


『お疲れ様です。ショウ君、飛行機とかも苦手ですか? 夏は沖縄に行きますけど……』


「苦手っていうか乗ったことないんだ」


 じいちゃんちが山奥の田舎だったけど、リニアで移動した後に電車っていうパターン。

 飛行機は……どうなんだろ。その時になってみないとわからないな。


「ワフ?」


「ん、大丈夫」


「〜〜〜…」


 ルピは心配そうに覗き込んでくるし、スウィーはしょうがないなあみたいな顔してるし、さすがにちょっと恥ずかしい。


「今って5時前ぐらい?」


『はい。洞窟の様子を見てくるぐらいの時間はあると思います』


「おけ。じゃ、行こうか」


 灯台を出て、扉はしっかりと閉める。

 そのまま裏手へと回ると……


「ああ、こんな感じになってたのか」


 石畳の広い階段が北へと続いていて、その先が上から見えた洞窟の入り口。

 しかもこれは……


『古代遺跡ですね』


「うん。いつも通ってる通路よりも倍は大きいけど、造りがそっくりだ……」


 横幅も高さも倍あるんだけど、石の床、壁、天井はそっくり、というか同じだと思う。

 ただ、天井のあかりは点いてないせいで暗く、奥までは全然見通せない。


「結構深そうだな」


『どうしますか?』


「気配感知は今のところ反応ないし、少し先まで見てくるよ。ルピもスウィーもそれでいい?」


「ワフン!」


「〜〜〜♪」


 賛成多数ってことで進軍決定。

 光の精霊にあかりを出してもらって、ゆっくりと奥へと。

 方角的には西へ進んでるはずだし、この通路を辿っていけば、例の制御室まで行けるとか?


 キョロキョロと確認しながらの移動だけど、特に目立ったものもなく。

 この広さにした意味がいまいちわからないな。


「あ……」


『扉ですね。解錠コードがない方だと思います』


「うーん、時間が微妙だし戻るか」


 開けたら間違いなく道が続いてるか、なんならモンスターがいる可能性も。やるなら時間的に余裕がある時にやりたい。


『夜に開けますか?』


「もうちょっと落ち着いてからかな。ここの扉のことも伝えて、返事を待ってからで。ライブ終わってからの方がいいと思うし」


『そうですね』


 アージェンタさんの話だと、ここは僻地で優先度も低い場所らしいし、急いでどうこうっていうのもないはずだし。

 というか、そろそろ一度戻らないと食糧がなくなる。次来たときに、こっちで数日やっていけるようにして、それからだな。


***


「ただいま」


『お帰りなさい』


 ベル部長はまだゲーム中。

 今日は水曜だから、ヤタ先生は職員会議だっけ。


『ショウ君、釣りについてのメモが間違ってないかと、言葉の意味を教えてください』


「あ、うん、えーっと……」


 釣り竿とかは説明不要だろうけど、道糸とか鉤素ハリスとか言われてもだよな。

 その辺をざっくり説明していると、


「ふう。二人とも朗報よ」


「え?」


『何がでしょうか?』


「ゲームドールズの人やファンもワールドクエストに向けて動くらしいわ。どうも古代遺跡の塔の攻略も詰んでたみたいね」


 ありゃ、そうなんだ。

 まあ、あそこには古代遺跡の塔しかないし、他の種族、竜族と関わりがあるようなNPCも出てこなかったもんな。


『詰んでいた理由はなんでしょう?』


「10階まで隈なく探索はしたそうだけど、それ以上は行けてないそうよ」


 そういえば、あのエレベーターってボタンが10階までしか明るくなってなかったっけ。

 でも、それって何か攻略できるようなことなのかな?

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