第173話 それ書く必要なくない?
「えええ……、ワールドクエストがこんな時期に始まると思わなかったんだけど……」
『ショウ君、クエストの内容を教えてください』
「あ、うん。えーっと……」
【ワールドクエスト:死霊都市:第一部「交渉」】
『グラニア帝国の北東、別名、漆黒の森の奥に廃墟となった都市が発見された。
古代魔導都市がそのまま残っている希少な遺跡だが、この都市はアンデッドに占拠され、その危険性ゆえに竜族の監視下にある。
都市の内部を調査するには、まず竜族の許可を得る必要があるだろう。
目的:竜族との交渉。達成率1%』
その死霊都市を探索したかったら、まずは竜族に認められろ的な?
それにしても、死霊都市って……
「古代魔導施設の暴走だっけ? あれのせいで?」
『だと思います。当時の人は9割亡くなったってお話が……』
都市丸ごとか……
何が起こったかさっぱりわからないままって人も多かったんだろうな。
「今回は国同士の諍いは関係なさそうだけど、ベル部長たちはどうするんだろ」
今日は港町、いや、漁村か。そっちへ行くって言ってたから、完全に反対方向。
俺の提案だったし、微妙に申し訳ない感じ。
『部室で待ちますか?』
「あ、うん、そろそろ時間だよね」
『はい』
なんだかんだ駄弁ってちょうど良い時間。
今日はここで就寝ログアウトして、明日の部活で山小屋に帰ろう。
「ルピ、スウィー、今日はここまでな」
「ワフン」
「〜〜〜♪」
あかりは小さくしてもらって、おやすみなさい……
***
「ただいま」
『お帰りなさい。部長とセスちゃんはまだゲーム中ですけど……』
ワールドクエストが発生したし、ギルドの人たちと相談中とかかな?
だったら、今日じゃなくて明日の部活にかな。と思ったら、
「ああ、良かった。いたわね」
「兄上! ただいま!」
「おかえり。ワールドクエストの話があるんじゃないかと思って」
「うむうむ!」
ベル部長と
今回のワールドクエストの説明ページっぽい。
「前ってこんなページあった?」
『いえ、今回からだと思います』
「前回の概要と結果も増えてるわ。新規さんから不満があったからじゃないかしら」
ああ、そっか。前回の後から入った人には訳わからんよな。
まあ、島は全く関係なかったし、いや、スウィーに連れて行かれたけど、達成率とか無関係。
今回のもどういう内容なのか興味はあるけど、その死霊都市に行けるわけでもないしなあ。
「うーむ、クエスト概要はゲーム内の記述と変わらんのう。ただ、気になるのはここよな」
「ん? どれ?」
セスが指差す先には注意書きみたいなものが書いてあって、
--------
【クエスト期間】
本クエストの終了時期は達成率によって変化しますが、三部構成で二ヶ月前後を予想しております。
【クエスト褒賞】
終了時の状況により、参加全プレイヤーに5〜15SP。
・貢献度トップ100プレイヤーに15SP。
・貢献度トップ1000プレイヤーに9SP。
※貢献度ランキング表示は行いません。
【その他】
前回同様、離島プレイヤーは不参加扱いになります。
--------
「……離島プレイヤーのこと、わざわざ書かなくて良いと思わない?」
『前回のワールドクエストの褒賞、ショウ君がもらったか気になってる人がいたんだと思いますよ?』
「まあ、兄上は別で褒賞をもらっておるからの。ワールドクエストもとなると、バランスが取れんのであろう」
「そうよねえ」
そう言って笑うセスに納得して頷くベル部長。
運営、そこまで考えてるかなあ……
『部長やセスちゃん、ギルドのみなさんはどうされるんですか?』
「例の有翼人から竜族に接触できる可能性がありそうですけど」
「話の通じる相手以外とは交渉などしたくないのう」
「しばらくは様子見ね……」
と二人とも渋い顔。わかるけど。
あいつらに何かお願い事をしたら、とてつもない要求が来そうだし。
「そういえば、シーズンさんと連絡つきました? てか、
ベル部長に聞きつつ、後半はセスに。
神聖魔法で思い出したのと、聖霊魔法って話もあったなとか。
「ええ、ディマリアさんから連絡は取れたわ。今は共和国にいるらしいけど、今回のワールドクエストで死霊都市に行くかもしれないわね」
「姉上なら行くであろうのう。シーズン殿は振り回されてはおるが、楽しんでるようなので問題あるまい。ギルドの方はゴルドお姉様も戻られたのでな」
まあ、本人が楽しんでるなら水を差す必要もないか。
『部長たちは今日行った漁村のあたりの探索を続けるんですか?』
「しばらくはそのつもりよ。ただ、死霊都市方面に行く人が増えたら、その間に塔の方に行きたいのよね」
「あー、あれ、途中でしたよね」
今はまだゲームドールズやファンの人たちが多いので、面倒なことにならないように避けてるんだとか。
ワールドクエストで死霊都市に人が行って、塔の方の人が減るようならってことか。
「そうそう、クリーネにいたプレイヤーに頼まれたことがあるのよ」
「頼まれたって?」
「ベル殿がミオン殿と知り合いであろう。そこから兄上に『釣りをやってくれ』と伝言を頼まれておる」
なんでも、クリーネって漁村は、現状のIROで唯一海釣りを安全に楽しめる場所らしい。
なので、リアルでも釣り好きな人たちが集まって、日がな釣りをしてるんだとか……
『すごいですね……』
「彼らのほとんどは、リアルで釣りに行くと奥方が怒るからという理由でIROで釣りをやっておるようだがの」
なんていうか、うん、まあ。
海釣りってそれなりに危ないし、旦那さんが心配だってことじゃないかな。
「でも、それだけ釣り人がいたら、結構いろんな魚とか釣れてるんですよね?」
「ええ、私がわかる範囲だけど、アジなんかはあったわね。干物にしたものを頂いたけど、すごく美味しかったわ」
くっ、俺も釣りするか……
「ただ、醤油がないのが辛いのう」
『ショウ君』
「あー、うん、それなんだけど……」
このことは話しておかないとだよな。
ミオンがさっきの動画を取り出してシークしてくれてる。
再生するのはもちろん【魔導醸造器】のところ。
「ほう! このようなものがあるのか!」
「……これをお酒じゃなくて、醤油作りに使うつもりなのね?」
「です」
ベル部長、フリーズ耐性ができたっぽい?
で、その後のミオンとの会話、現状失敗してる醤油作りに、神聖魔法を加えたらってあたりも聞いてもらう。
『うまく行きそうな気がしませんか?』
「ええ、でも、それはもう試してダメだったのよ……」
なんでも、ディマリアさんも味噌醤油作りを模索してるらしい。
で、神聖魔法の解毒も試してみたそうだけど、毒そのものに解毒をかけても何も起きないんだとか。
毒っていう状態異常を治すのが解毒なのかな?
「他は試しました? 浄化とか祝福とか」
「え? それは試してないんじゃないかしら……」
「兄上は浄化や祝福の方が、解毒よりも可能性が高いと?」
「うん。まあ、浄化は悪い物を消すんだろうし、祝福は良い物の力を増す感じ? 両方かければ、人に良い菌だけ残ったり……」
ちょっとご都合主義すぎるかな?
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