第172話 それでも世界は廻っている

「今って10時半ぐらい?」


『少し前ですね』


 外の雨音は相変わらず。他に特にできることもないんだよな。

 こういう時のために、インベに本の一冊でも入れとくべきかな。


「〜〜〜♪」


「ワフ〜」


 スウィーとルピ、俺もだけど、ドライグレイプルをおやつがわりに食べてる。

 まあ、たまにはぼーっとするのもいいか……


『明日はいったん戻ってから教会裏ですか?』


「かな。これ、今日も結構食べちゃったし、また取りに行かないと」


 ドライグレイプル品切れ間近。

 ドライパプもそろそろ無くなりそうだしなあ。


『あの場所を畑にするのはどうですか?』


「あー、それもありか。でも、ちょっと遠くない?」


『山小屋の近くもいいんですが、この先、鶏さんや牛さんを飼うことになったら、あっちになるんじゃないかなって』


「おお、確かに……」


 ゲームだし、臭いがどうこうは無さそうだけど……

 あ、でも、王都だと街の外に養鶏場があるとかどうとか、ライブで誰か教えてくれてた気がするな。


『あの教会も含めて、全体的にセーフゾーンになってくれると良いんですけど……』


「だね。ムカデ倒したことでセーフゾーンができてたけど、あれが広がってくれたりしないかな」


 そういえば、南西の森の出口の草むらって特に何かあるわけじゃないのにセーフゾーンなんだよな。……俺が見逃してるだけで、実は何かある?


『あと、女神様の像を置けばセーフゾーンができたりしないかなって』


「ああ! それはありそう!」


 女神様の像か……

 セスあたりに王都の神殿に行ってもらって、参考にすれば作れるか?

 いや、そもそも鶏や牛を見つけるのが先か……


『それと、私のわがままですけど、あの山小屋の場所が綺麗なので、あんまり畑が増えると……』


「あー、納得。確かにあそこに畑がんがん増やすと、段々畑になっちゃうしね」


 それはそれで風情があるけど、せっかくいい感じの草っぱら斜面。

 天気の良い日はもちろん、雨降った日も良かった。


「狩りと採集は南西の森、パプの実とか川魚は南東、農耕と畜産は北西、ここ北東は醸造と漁?」


『はい。わかりやすくて良いかなって』


「そうだね。じゃ、土間の隣の畑は小さめで。教会の裏手に大きな畑を作るかな」


 ペリルセンス(ごま)、グリシン(大豆)、オーダプラ(じゃがいも)は、やっぱりたくさん作りたい。

 ここで醸造ができるってなると、グリシンは多くて困ることないもんなあ。

 ただ……


「他はまあちょっと歩けば行ける場所だけど、ここが結構遠いんだよな」


『そうですね。今の場所が住居になったのは良かったですけど、毎回泊まりになっちゃうと大変です』


 なんかこう、さくっと来れるショートカット……


「1階の転移魔法陣の先がここならなあ……」


『銀色のドラゴンさんに聞いてみるのはどうでしょう?』


「あ、そうか。例の暴走があって行った先だし、例の記録には中央とか書かれてたよな。アージェンタさんが把握してる可能性はありそう」


 でも、暴走して建物が崩壊とかなら、埋もれちゃってるって可能性もあるか。

 まあ聞いてみれば……聞いてわかるものなのか? それに、古代遺跡の調査とは全く関係ない気もするし……


【古代遺跡が発見されました!】


「え?」


『ちょっと見てきますね』


「あ、うん」


 別にいいかなと思ったけど行っちゃったか。

 久しぶりの古代遺跡発見かなと思ったけど、ナットがいる王国の南西、ノームたちの昔の里の向こうでも見つかった話があったっけ。

 その前に、帝国の北西でも見つかったとか聞いたし。


「ワフ」


「ん? ああ、木窓開けてみるか」


 ルピがロフトの壁際、木窓を開けて欲しそう。

 締め切ってると空気が澱むし、外の様子もちょっと確認したい。

 両開きの扉を……中央の留め具を慎重に外して押し開ける。


 ザアアァァ……


「雷はおさまったけど、雨は本降りって感じかな」


 高い位置にある窓で、軒先も長いので吹き込んでくる心配はなさそう。

 でも、網戸とかあると便利なんだけどな。いや、簾っぽいものを作って吊るせば良いのかな? 山小屋でもやってみるか……


『ただいまです』


「あ、おかえり」


『帝国の北東にある森で、かなり大きな古代遺跡が見つかったそうですよ』


 あー、そういえば、あっち方面は今まで特に何もなかったか。

 西は王国、中央に帝国、南に公国、東に共和国。

 北にはアージェンタさんが言ってた竜の都? 東ももっと行けば魔王国だったっけ。


「ダンジョン?」


『荒廃した都市の跡みたいな場所だそうです。ひょっとしたら、そこにダンジョンもあるかもですけど』


「え、でかいってそんなレベルの大きさなんだ!?」


 ミオンがフォーラムで見聞きした話だと、帝国や王国の首都ぐらい大きいんじゃないかって話。

 じゃ、さっそく調査って話になるところなんだけど……


『竜人族の人たちが現れて、中に入りたいなら竜族の許可を取るように言われたそうです。アンデッドが多くて危険だからと……』


「竜族って……」


 アージェンタさんたちのことだよな。

 竜人族ってドラゴニュートかな? 有翼人や巨人以外にも従えてるようなこと言ってた気がするし。


『あと、そのパーティーにいた神官さんが、神聖魔法で上限突破したそうです。ワールド初だったみたいで、ショウ君の時にもあった3SPを獲得したみたいですよ』


 その神官さんは、クローズドベータからのトップ組。

 素のスキルレベルが最大の10になって、かつ、法衣の補正が神聖魔法+1あって突破したらしい。すごいな。


『それで、ショウ君の時と同じように、別のスキルが取得できるようになったそうですが……聞きます?』


「うーん、なんだろ? 安直に上位神聖魔法とか? そこは特にネタバレって思わないし教えてくれる?」


『はい! 聖霊魔法だそうです。妖精さんの精ではなく、聖母さまの聖の方ですね』


 ん? あ、ひじりって字の方の聖霊か。なるほどなるほど。


「イメージ的に聖剣とかそっちが思い浮かぶんだけど、そっち寄りなのかな?」


『まだ詳しいことはわからないそうですけど、神聖魔法が回復や防御寄りだったのに比べて、聖霊魔法は攻撃もあるそうです』


 よくある光線技とかそういうやつだよな。

 ホーリーレイとかホーリーウェーブとかそういうやつ。アンデッドにめっちゃ効きそうだし、ちょうど良いタイミングだったのか……


【ワールドクエストが開始されました】


「『え?』」

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