第171話 残念ながら未成年です

 ザアアアアァァ……


「え?」


『雨と雷でしょうか?』


 耳を澄ますと、結構しっかり降ってる雨音。時々ゴロゴロという雷鳴が空気を震わせる。


「あー、降るかもって気づいてたのに、ここ見つけてすっかりテンションあがっちゃってた……」


『表の扉を閉めたほうがいい気がします。風が強いと中まで吹き込んできますよ』


「りょ。ルピ、ちょっとここで待ってて」


「ワフン」


 光の精霊にもう一つあかりを頼み、この奥の部屋が暗くならないように。

 扉の隣に立てかけてあった閂を持ち込み、扉を閉めて内側の閂受けに渡す。


『かなり降ってましたね。山小屋まで戻るのはちょっと……』


「うん。ここで就寝ログアウトできるといいんだけど。ルピはともかく、スウィーは大丈夫?」


「〜〜〜♪」


 問題ないとサムズアップするスウィー。

 まあ、たまに山小屋に寝泊まりしてたし大丈夫なんだろうな。


「で、さっきの樽か……」


 奥の部屋に戻り、紙が貼られている樽に近づく。

 見えてた紙は貼られてるっていうよりは、上部の蓋みたいな部分に挟まってる感じ。


『読めますか?』


「うん、えっと……『いつかここを訪れる君に。酒という幸せが在らんことを』だって」


『お酒ですか』


 この樽っぽいのに入ってるのかな?

 でも、さっき紙を取るのに蓋を開けた時は、特にそういう香りもしなかったけど。


「とりあえず、これ鑑定してみるか……」


【魔導醸造器:利用不可】

『マナの力を借りて内容物を醸す器。主に酒造に用いられる。

 基礎魔法学:魔晶石(中)を設置することで、利用可能になる』


「はあ!?」


『魔導具ですね!』


「いや、それはいいんだけど、なんでこんなところに置き去りなんだろ? すごく価値のあるものだと思うんだけど」


『移動できないんじゃないでしょうか?』


「あ、そういうことか」


 よく見ると、樽の部分だけじゃなくて、その下の土台までワンセットなのかな。

 土台は30cmほどの金属製だけど、全く錆びた箇所もなく、あかりに照らされて鈍く銀色に輝いている。

 うん。これって土台の方が魔導具の本体な気がしてきた。上の樽も結構年代ものな感じはするけど……


「えっと、魔晶石(中)が足りないって話だけど、どこにセットすればいいんだ、これ……」


『樽は動かせませんか?』


「ああ、そっか」


 いろんな物を醸造するにしても、毎度毎度、樽を綺麗にするの大変だもんな。

 高さ50cmぐらいの樽をグッと抱え込んで……慎重に動かせるか確認。これ置いてあるだけだな。

 持ち上げたそれを横に避けると、


「これか!」


『その窪みですね』


 ちょうど中サイズの魔晶石がはまる凹みが台の中央に。

 残してくれるなら魔晶石も置いといてくれよって感じだけど、ちょうどいいというか、レッドアーマーベアの魔石(中)を魔晶石にしたやつがある。

 その窪みに魔晶石を入れ……


「醸造できそうなもの、持ってなかった……」


『グレイプルの実とかですか?』


「最初はそれで試すかな。でも、これってグリシン、大豆を醸造したら醤油ができるのかな?」


 大豆を茹でた後、塩水入れて醸造すれば醤油? 入れずに醸造すれば味噌?

 あ、いや、醤油って小麦がいるんだっけ? やってみないとわからないか……


『ショウ君?』


「あ、ごめん」


『私はよくわからないんですけど、これはドラゴンさんに報告しないとじゃないでしょうか?』


「あ! あー、そうだよな……」


 最悪、使っちゃダメって言われるかもか。

 なんとか使わせてもらえないかな……


「そういえば、料理プレイヤーの人たちが、味噌とか醤油をなんとかしようと頑張ってるって、前のライブで言ってたよね?」


『はい。どうなったか見てきましょうか?』


「ごめん。ちょっとお願い」


 古代魔導具だけど、醸造ができるってことは、そのための魔法、多分、醸せる元素魔法があるはずだし、誰かが気づいてる可能性もありそう。


「ワフ?」


「ん、今日はここで一泊しようか」


「ワフ〜」


 とはいえ、この石の床で就寝ログアウトは微妙。

 ロフトでってのが良さそうだけど大丈夫かな?

 結構古い建物だと思うし、俺とルピの二人分支えられるかっていう問題が。


「よっと……」


 ちょうど俺の背の高さぐらいのロフト。右わきの小さなハシゴを使って登ってみる。

 スウィーのおかげでほこりは綺麗さっぱり無くなっていて、それ以外にも何もなし。

 石壁に太い木の柱を渡し、その上に板張りという感じのロフトだけど……大丈夫そうだな。

 広さ的には四畳半ぐらいの心地よい狭さ……


「ルピ、ハシゴ登れるか?」


「ワフン!」


 グッとしゃがみこんでから軽くジャンプし、ハシゴの中段を蹴って、するりと上がってくるルピ。


「おおー、さすがルピ!」


「ワフ〜」


 思わず顔をもしゃもしゃ撫でてしまう。

 なんか、スウィーが両手を広げて「これくらいできて当然でしょ」みたいな顔してるけど気にしない。


 あ、そうだ。

 ランジボアの毛皮があったはずだし……


【セーフゾーンが追加されました】

【住居の追加:SP獲得はありません】

【マイホーム設定が可能です。設定しますか?】


「お、ラッキー!」


『ただいまです。あ、セーフゾーンになったんですね!』


「うん。これで今日はまあ安心して就寝ログアウトできるかな」


 そう答えつつ、マイホームの設定には「いいえ」と答える。

 セーフゾーンの淡い光はゆっくりと広がっていき、やがてうっすらとして消えた。


「あ、で、ありがとう。どうだった?」


『はい。フォーラムをいろいろ見てきたんですが、元素魔法のプレイヤーさんたちと精霊魔法のプレイヤーさんたちが、頑張ってるみたいです』


「おお、マジか。すげー……」


 ミオンの話だと、元素魔法の方は生活魔法の<保温>で一定温度を保つことで菌を培養する方法、精霊魔法の方は樹の精霊に発酵をお願いする方法でアプローチしてるらしい。


「なんだかプロっぽくて、俺がこの古代魔導具見つけたのバレたら、悲鳴が上がりそうなんだけど……」


『かもです……』


 この魔道具の話もしばらく隠す? いろいろと隠し事が多くなるのもなあ。

 というか、


「上手く行ってない理由ってなんだろ?」


『毒性のある菌ができちゃうそうです』


「まあ、カビだもんな……。でも、単純に神聖魔法で解毒とかしてもらえば良さそうな気がするけど」


 体にいい菌だけ残してくれる的な……ダメかな。

 その辺りは女神様の奇跡に頼るとか、めちゃくちゃご都合主義な気がしなくもない。


『ショウ君! その話、部長にしましょう!』


「え、いや……、うん」


 適当な思いつきなんだけどなあ。

 まあ、俺は神聖魔法使えないし、白銀の館で試してもらうなら、いいか……

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