第170話 残されたもの……
崖に囲まれた三日月型の小さな入り江なんだけど、興味深いのは北側に防波堤があること。さらにその奥には灯台。
防波堤の内側は船着場? その辺りに倉庫っぽい建物が二つ、一回り小さい家屋が一つ。
南側はほぼほぼ岩場っぽいけど、この高い場所からは死角になるので下りてみないとだよな。
「バウ……」
「ん? あ、テリトリーってここまで?」
その問いに寂しそうに頷くドラブウルフたち。
ここから先、テリトリーを外れてまで付き合わせるわけにもいかないか。
「また来るよ。で、ちょっと待って……」
ランジボアの肉、まだまだ余裕はあるし渡しちゃおう。
一抱えはある肉の塊を四等分して渡す。これでも結構でかいけど、頑張って持って帰ってもらおう。
「ワフ」
「「バウッ!」」
ルピの号令を待って、肉を受け取ったドラブウルフたちが山の方へと帰っていく。
さて、さっそくと思ったんだけど、
「ミオン、今って何時ぐらい?」
『9時半を回ったところです』
「微妙な時間……」
途中で休憩挟んだしなあ。
とはいえ、ここまで来て引き返すのはもったいない。
『1時間ほど回ってでしょうか?』
「そうかなあ。11時回っちゃうかもだけど……」
『私は大丈夫ですよ』
「うーん……じゃ、それで」
悩んでてもしょうがない。
見える範囲をさくっと調査して、気になる場所は後日でいいかな。
この港で一泊できる場所を探すつもりで行こう。
「よし、行くぞ!」
「ワフ」
焦る気持ちを抑え、滑らないように慎重に坂を下る。
海岸沿いまで出ると、見えなかった南側もだんだんと視界に入ってきて……何もなさそう。
北側へと続く道を進み、建物の近くまで。
どれも石造りのシンプルな建物で、手前の小さいのは事務所? 奥に並ぶ大きい二つは倉庫かな。
『ショウ君が作った蔵に似てますね』
「この事務所っぽいのとか似てるけど、ちゃんと扉がついてるし中が気になる……」
先に堤防まで見て回って、中はあとで確認かな。
「〜〜〜?」
「あ、スウィー起きたんだ」
ずっとフードの中で寝てたのかと思ったら、いつの間にか左肩に。寝起きの顔でキョロキョロとあたりを見回している。
海を右手に、建物を左手に進み、堤防の根元に到着。
やっぱり船着場だったらしく、船を繋ぎ止める太い石の杭が三つ。
「うーん、すごい普通の港……」
『なんだか日本のどこかにいるみたいです』
「だなあ。なんか、釣りしたくなってきた」
『ショウ君、釣りスキルまだ取ってませんよね』
「うん、そろそろ取ってもいいかも」
釣竿は仙人竹。針は鍛治と細工で行けそう。道糸はロープを細く作って、
なんか、意外といけそうな気がしてきたな……
「ワフ」
「うん、行こうか」
堤防の先までぶらぶらと。
幅は3m、長さは30mほどで、なかなか年季が入ってる感じ。
「魚が泳いでるのが見える……」
『鑑定は無理ですか?』
「無理っぽい」
ネームプレートも出てこないのは、ちゃんと見えてないからか、釣りスキル取らないとなのか……
じいちゃんが『見えてる魚は釣れない』とか言ってた気がするし、釣竿作る時にしよう。
「〜〜〜!」
「あぶねっ! 中にいた方がいいぞ?」
潮風に煽られて、飛ばされそうになったスウィーをキャッチしてフードへと。
またぶらぶらと堤防を戻って、北端にある灯台の下まで来たのはいいんだけど、
「これはどっちの扉?」
『普通の扉の方に見えます』
「じゃ、開けてみるか」
『古代遺跡かもしれませんし、先に事務所の方を見ませんか?』
「あ、うん。こっちは後回しにしようか」
さらに戻って小さい石造りの建物。
小さいと言っても、隣の二つの大きな倉庫に比べたらって感じで、サイズ的にはうちの蔵よりも大きい。
「ワフ」
「ん、そうだね」
光の精霊にあかりをお願いする。
両横の高い位置に小さな木窓が二つずつ。あかりとり用なんだろうけど、きっちりと閉められてる。
「よいしょっと!」
太い角材を渡しただけの閂を持ち上げて外す。
閂受けの金具が錆び付いてて……ちょっと無理したらぼろっと折れちゃいそうだな。
『ショウ君、壊さないでくださいね?』
「はい」
山小屋の木窓、開けただけで壊しちゃったからな。
そーっと手前に開けると微かに軋む音。
真っ暗な中にあかりを入れると、そこに見えるのは石の床、丸テーブルが三つ、椅子がいくつかあって、奥には大きなカウンター?
「うーん……酒場?」
『そんな感じですね。右側から裏に回れそうな?』
「ん? ああ、あそこから奥があるのか。バックヤードかな……うわ!」
一歩踏み込むとほこりがもわっと舞い上がって視界が霞む。
これ、掃除しないと状態異常になりそうなんだけど……
「〜〜〜!」
「ん? スウィー?」
「ワフ」
フードを引っ張って、扉の前からどけってこと?
ルピに促されて、扉の右側へとよけると……
「〜〜〜♪」
「おおお!」
スウィーの精霊魔法? 扉からほこりが吐き出され、みるみるうちに換気される室内。
『スウィーちゃん、すごいです!』
額の汗を拭うジェスチャーをして、ドヤ顔ホバリングするスウィー。
いやいや、ホントすごいな。これはドヤ顔していいよ。
「助かったよ。これでオッケ?」
「〜〜〜♪」
とろとろ干しパプを半分にして渡すと、俺の肩に座ってそれを食べ始める。
改めて中を覗くと、もうもうとしていたほこりは一掃され、室内もすっかり綺麗な状態に。
『今のは風の精霊でしょうか?』
「なるほど。便利だな……」
リアルでも使えたら、家の掃除とかめちゃくちゃ楽そう。
「風の精霊石って、もう作り方判明してたりする?」
『いえ、まだです。みなさん、風の強い場所や可能性がありそうな場所に行ってるみたいですけど』
「そっかー……」
ダメ元で、極小の魔晶石をスウィーに見せるが、首を横に振られてしまう。
条件を満たしてない的なやつだよな。水源地まで行った時は協力、というか、勝手に水の精霊石にしてくれたし。
「まあ今はいいや。とりあえず、ここ調べよう」
「ワフン」
丸テーブルや倒れている椅子を壁際によけ、カウンターの場所まで進む。左端からカウンターの向こうへ。
壁沿いの食器棚はからっぽだけど、使ってた形跡はあるし、島を出るときに全部持って行っちゃった感じかな。
右奥からバックヤードを覗いてみると、
「部屋だ。っていうか、ロフトがある」
『下に見える樽に何か紙が貼られてませんか?』
「え、あ、ホントだ。……ホラーじゃないといいんだけど」
『……』
ゴロゴロゴロゴロ……
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