第169話 眼下に広がる新たな場所

 ルピのお母さんが亡くなってる話をどうしようか悩んで、ヤタ先生に相談したところ、


「隠して後でバレると印象悪いですよー」


 と言われてしまった。

 まあ、冷静に考えればそうだよな。

 それに、俺とルピが身につけてる【魔狼の牙のペンダント】とか、めざとい人に見つかって突っ込まれそうだし。


「ワフ?」


 解錠コードの扉の先、十字路に着いたところで「どっち?」とルピ。


「上行くよ。今度は東側ね」


「ワフン」


 ルピが軽快な足取りで階段を上っていくのを追いかけつつ、ミオンと雑談の続き。


「動画いつも任せちゃってるけど、編集って大変じゃないの?」


『平気ですよ。編集AIに指示を出すだけですし』


「……そうなんだ」


 動画の編集AIとかって業務用とかのやつだよな……

 いやまあ、ミオンのお母さんが芸能事務所をやってるわけだし、その手の業務用のAIだって買えちゃうんだろうけど。


「どこまで収録になりそう?」


『お墓を作ってあげるところまでだと長いかもです』


「あー、ドラブウルフ呼んだり、クリムゾンエイプ倒したりしたもんなあ」


 俺が弓の練習してる部分はカットしていいとしても、ルピがカッコよくハウリングするところは映したい……


「ちょっと短くなるかもだけど、水源地と水の精霊のところまでとか。あの展望台からの眺めもじっくり入れる感じでどうかな?」


『そうですね。スウィーちゃん、大活躍でしたし』


 そういや、スウィーは前回のライブの最後に登場して、話題かっさらっていったんだったな……


「ワフ」


「おっと、ごめんごめん」


 転移エレベーターに乗ってボタンをポチッと。

 一瞬、ふわっとしたのちに……開く扉は後ろだったんだった。


 少し進んだところはもう崩落現場。

 スウィーがフードから出て、先に手前の抜け穴を潜って行った。多分、またお供えの花を探してくれてるんだろう。


「土木スキルで見た感じ、もう抜け穴は大きくしても大丈夫そうなんだよな」


『ルピちゃんに合わせて大きくしてあげてくださいね』


「りょ、っと」


 そう答えつつ、穴を潜って展望台へと出る。

 天気はいいんだけど、なんかちょっと空気が……


「雨降るかも」


『え? わかるんですか?』


「何となく? まあ、マントにフードついてるし、雨宿りする場所もあると思うし」


 最悪、ルピの前の寝ぐらでログアウトしてもいいかな。

 あそこなら、大型モンスターも入ってこなさそうだし。


「〜〜〜♪」


「ワフン」


「スウィー、いつもありがとな」


 ちゃんとお参りしてから、今日は水源地の向こうへ。

 ルピに先導してもらい、スウィーにはフードに入ってもらって、後方を確認してもらう。

 まあ、ルピの足取りが軽いし、この辺にいたクリムゾンエイプは一掃したもんな。


「お? 来たかな? 呼んであげて」


 ルピが頷いて軽く吠えると、現れたのは昼とは違うドラブウルフの家族。

 ルピの前に綺麗に並んで伏せの体勢。


「来てくれてありがとな。今日は案内よろしく」


「「バウ!」」


 揃って返事してくれたのが夫婦なのかな。

 その後ろの兄弟? 姉妹? まだちょっと幼い感じがあるけど、それでもルピよりは大きい。


「ワフ」


「ん、行こうか」


 水源地から、東へと続く道を進んでいく。

 雑草がすごいところは少し草刈りを……お?


「ルピ、ちょっと待って」


「ワフ」


 これは……


【オーダプラ】

『小さな白い花を咲かせる多年草植物。大きく育つ地下茎は食用可能。芽や痛んだ場所には毒性があるので注意。

 料理:地下茎は各種料理の食材となる』


『食材ですか?』


「いもかな。じゃがいもか、さつまいもか……」


『え?』


 インベからスコップを取り出して掘り起こすと、じゃがいもそっくりのやつがズラーっと連なっている。


『すごいです!』


「なんか、やっと主食っぽいものを手に入れた気がする」


 ごま油があるから、やっぱり揚げ物かな? フライドポテト、コロッケ、ポテトチップ。粉にして芋餅とかもありか……


「ワフ」


「あっ」


 気配感知に何かが引っかかった。

 ルピやドラブウルフたちが体勢を整え、その方向を睨んでいる。


 何となくだけど、ランジボアな気がする。

 真っ直ぐこっちへと突っ込んできそうなんだけど、数的質的不利とか考えないのか?

 ゲームだしって言われるとそうだけど……

 あ、ひょっとして、俺が掘った芋の恨み?


「ブギャー!」


「<石壁>!」


 飛び出してきたランジボアの目の前に石壁を置き、倒されないように両手で支える。

 鈍い打撃音と共にかなりの衝撃が伝わってくるけど、まあまあ慣れた。

 これが一番簡単だよなと思うんだけど、スキル上げるのに盾使えば良かったかも……


「ワフッ!」


 ま、あとはルピとドラブウルフたちにおまかせかな。

 ちょうどいいし、ここで少し休憩にしよう……


 ………

 ……

 …


 ランジボアを解体し、肉はルピとドラブウルフたちのおやつに。俺とスウィーもドライグレイプルで。次はまた北へ行かないと、グレイプルの実が無くなりそう。

 それはまあ、いいんだけど……


「ルピ」


「ワフ?」


 つぶらな瞳で「何?」って顔をされると辛いものが……

 でも、聞いとかないとなんだよな。


「ルピのお父さんはどこへ?」


「ワフ〜」


 あぐらの中に飛び込んできて、頭を擦り付けてくるルピ。

 思わず撫でくりまわしてしまう……


『ルピちゃんのお父さんはショウ君ですね』


「それは嬉しいんだけど、本当の父親は見たことないってことかな?」


『かもですね……』


 物心つく前に居なくなってるって線か。

 この山の中をあちこち調べてれば、そのうち出会えたりするんだろうか……


『ショウ君、お芋は持ち帰ってお料理ですか?』


「え? あ、半分はね。もう半分は畑に植えるつもり」


『畑づくりも頑張らないとですね』


「そうなんだよな。やりたいことありすぎて……」


 畑は農業スキルや園芸スキルのこともあって、早めに手をつけたい。

 レクソン(クレソン)、キトプクサ(ギョウジャニンニク)、ペリルセンス(ゴマ)、グリシン(大豆)。

 ついさっき、オーダプラ(じゃがいも)が加わったし、グレイプル(ぶどう)も泉近くの森に増やそうかな。


「よし、まずはこっち側を探索しないと」


『はい』


「ワフン」


 ルピの号令にまったりムードだったドラブウルフたちがシャキッと。

 スウィーはフードの中へ……お昼寝タイムなんだろうな。


 ………

 ……

 …


 東、厳密には東北東へと進むと、やがて大きな崖へとぶち当たる。

 ただ、今度の崖はちょっと違う感じ。


「なんか登る道があるな」


『やっぱり昔からあった感じでしょうか?』


「だと思う」


 ルピがドラブウルフと話しているのは、この先が危険かどうかとかそういう風?

 ドラブウルフの父親が、


「バウ」


 と吠え、崖に刻まれた道へと案内してくれる。

 続いてルピ、俺、ドラブウルフたちが一列に、つづら折りの道を進む。


「さて、ここが上っぽいけど……」


 崖上から見えるのは北東方面へと続く斜面。

 そこには人が使っていたと思われる道が確かにあり、その先には……


「港! 堤防! それに灯台!?」


『すごいです!』

 

 そこに人の気配はなさそうだけど、石造りの建物が三軒ほど見える。

 何か新しい発見ができそうな予感!

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