第167話 山吹色の……

 気配感知に引っかかっているモンスターが火球を撃ったのは間違いない。

 そいつの左右後方からドラブウルフたちが、ジリジリと近寄り圧をかけている。

 それに押されてこちらへと近寄って……


「来るぞ!」


 ゴウッ!


「水の盾!」


 飛んできた火球を水の盾で受け止めると、それは爆発することもなく消滅する。

 火球を追いかけるように現れたそれは、


「狸!? いや、これって……」


 ネームプレートは赤く【ルーパグマ】と書かれてるけど、色分けされた鼻筋は間違いなくハクビシン。

 その額には縦に2本の短い角が並んでるんだけど、そんなことより異様にデカい!

 立ち上がったら俺より背が高いんじゃないのかこれ?


「ギュー!!」


 威嚇の鳴き声を上げつつ、前足を浮かせるルーパグマだが、視線がチラチラと動いている。

 レッドアーマーベアほどの威圧感は感じないし、逃げようっていう算段っぽいんだけど……


「ヴヴゥ……」


 ルピが低く唸り声をあげつつ近寄っていく。


『ルピちゃん?』


 ミオンが心配そうだけど、相手を逃さないためにはこれが一番っていう判断なんだと思う。

 ドラブウルフたちも、いつでも飛びかかれる位置まで近づいてきた……


「ギュー……ガッ!」


 ルピの圧に後退りしたルーパグマだが、急に大きく口を開いたかと思うと、そこから火球が飛び出す。


「水の盾!」


 ルピは火球を軽々と避けるけど、通り過ぎて爆発されても困るので相殺!


「バウッ!」


「ギュー!」


 ルピの前足の爪攻撃を食らって、悲鳴をあげるルーパグマ。

 そして、次々に襲い掛かるドラブウルフたち……


「これは……何もしなくて良さそう……」


『すごいです!』


 予想通りっていうか、ルーパグマって接近戦は全然ダメなんだな。

 遠くから口から火球撃って、それで弱らせてからって感じなんだろうけど。


 そんなことを考えてるうちに、ルピたちが完勝。

 倒したルーパグマを囲んで待て状態。


「ワフッ!」


【調教スキルのレベルが上がりました!】


「偉いぞ〜」


 まずはルピをしっかりと褒めてあげる。

 一番偉いんだし、きっちりとドラブウルフたちに指示を出して、ファーストアタックもしたし。

 その様子を見て、ソワソワしてるドラブウルフたちも可愛いんだよなあ……


「解体の前にちょっと待ってくれな」


 まずはルーパグマを鑑定。


【ルーパグマ】

『口から火球を吐き、相手を弱らせてから襲い掛かる狸のモンスター。不利になると逃げることも多い。

 料理:肉は脂身が多い。素材加工:骨、皮、角は各種素材となる』


 一撃当ててから様子見して、なんなら逃げるとか酷いモンスターだな。

 ああ、そんな生態だから脂肪分が多いのか。


『ショウ君、さっき「はくびしん」って言ってませんでした?』


「あー、そういう狸みたいな害獣がいるんだけどね。それに似てるなって」


 ミオンに答えつつ解体。

 きっちり、肉、骨、皮、角と魔石(小)を回収して、ご褒美を準備。


「はい。一人ずつな」


 一番良さそうなヒレ肉をルピに切り分け、残りはドラブウルフたちに。しっかりと頭を撫でてから渡してやる。

 余った肉は帰り際に全部渡しちゃおう。


「ここでちょっと休憩にしようか」


「ワフッ!」


 ルピの号令に一斉に食べ始める。

 俺もインベントリからおやつに用意していたドライグレイプルをぱくっと。


「〜〜〜!」


「ああ、ごめんごめん」


 フードから出てきたスウィーが肩へと座り、ドライグレイプルを要求してくる。

 スウィーに水の精霊の使い方を教わったお陰で火球の対処は難なくできたし、好きなだけどうぞ。


「〜〜〜♪」


『精霊魔法もすごかったです』


「だよな。スウィー、助かったよ」


 その言葉にドヤ顔するスウィーだけど、口の周りが紫になってるぞ……


『土の精霊や火の精霊も使えるようになるといいですね』


「だよなあ。特に土の精霊がいれば、あの崩落箇所をなんとかできるかもだし」


『あの土を固めてた魔法とかだとダメなんです?』


「うーん、全体的に固めて、そこからトンネルを掘るのも考えたんだけど、崩落がどこまで続いてるかさっぱりなんだよな」


 なんかこう、地質調査みたいな感じで細い穴を掘ったりした方がいいのかな?

 でも、今日見た感じだと、下手にあの崩落に手を入れると、上からまたどっさり崩れそうで怖い。


 ミオンとそんなことを話しながら休憩することしばし。

 ルピもドラブウルフたちも肉をぺろりと平らげて満足そうだし、スウィーはフードの中で寝てるっぽいし……


「じゃ、もう少し先まで行こうか」


「ワフン」


 ………

 ……

 …


「あらら……」


 川沿いに下って行くと、水は崖に挟まれた難所へと流れ込んでいく。

 これ以上追いかけるのは厳しいか……


『流れも急ですし、無理すると流されちゃいますよ』


「だよな。君たちのテリトリーってこのあたりまで?」


「バウ!」


 ドラブウルフの父親が「はい!」って感じで答えてくれる。

 そういうことなら、部活での探索はここまでかな。夜は反対側、多分、別のドラブウルフの家族のテリトリーの方を案内してもらおう。


「ミオン、今何時ぐらい?」


『4時過ぎです』


「じゃ、そろそろ引き上げるよ。山小屋戻ったら手紙書かないとだし」


『あ、そうでした』


 とりあえず「ちゃんと受け取りました」って返事ぐらいは書いて送らないとだよな。


「よし、帰ろうか!」


「ワフ!」


 ルピが答え、続くようにドラブウルフたちも「バウ!」と唱和する。

 うんうん、なんかちょっと慣れてきた気がする。


 ………

 ……

 …


 山小屋に戻ってきて、魔導転送箱は1階のミニチェストの上へ。中身はその引き出しへとしまうつもりだけど、まずは返事を書くことに。

 箱に入ってた万年筆っぽいものは、


【魔導刻印筆】

『マナを使って文字を刻む筆。対象の固さによって消費MPは変動する』


 とか書かれててびっくりした。何にでもかけるってことだよな。

 で、『この箱と中身を受け取ったこと』と『手紙の中身について概ね了解したこと』を書いて、


「とりあえず、これでいいかな?」


『いいと思います』


 まあ、無事受け取りましたよがメインだからいいよな。


「あ、そうだ」


『どうしました?』


「ちょっとね。多分、怒られたりはしないと思うし」


 グレイディアの革ポーチに、ドライパプとドライグレイプルをほどほどに。

 追伸で書いとこう。『島で採れた果物を干したものです。お口に合えばいいのですが』っと。

 ドラゴンの口に合わなくても、部下? 庇護下? 好きな種族もいる気がする。


『ショウ君が作ったんですし、きっと気に入ってくれますよ』


「どうだろ。まあ、味見してくれるかどうかもわかんないけどね」


 そもそも竜族って普段何食べてるんだろう……

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