第166話 遠巻きにされるもの
「やっぱり手紙入ってるな。あとは……紙と万年筆?」
『読んでみますか?』
「そだね。とりあえず読んで、返事が必要なら、山小屋に帰ってから書くことにするよ」
四つ折りの手紙も、俺が使うための紙もかなり上質っぽい。
万年筆みたいなのは魔導具な気がするし、竜の都って人間の国よりも発展してるのかな?
「えっと……」
『ショウ様
先日は突然の訪問、失礼いたしました。
ショウ様のおられる島と古代遺跡については、現在、文献を調査しているところです。
竜族としては、大陸から大きく離れた孤島であり、かつ、派遣できる調査員を確保できない状況のため、無理のない範囲で調査報告をいただければと思っております。
また、ショウ様よりお伺いした有翼人たちの無礼についても別途調査中です。
先の文献調査も含め、進捗がありましたら、この魔導転送箱にてお伝えいたします』
えー、マジかー……
『どうします?』
「これもクエストなのかな。まあ、負担にならない程度でやる感じ? 向こうも古代遺跡について調べてくれてるみたいだし……」
『そうですね』
手紙を魔導転送箱に戻して、箱ごとインベントリに入れる。
この後は上階段、展望台の向こうの調査に行くので、返事はそれが終わって戻ってきてからかな。
手紙にも『無理のない範囲で』って書いてくれてるし、急いで返事しなくても大丈夫だよな。
………
……
…
上階段から転送エレベーターを通り、行き止まりになっちゃってる崩落現場に到着。
ここでちょっと試したいことが。
「ルピ、スウィーもここでちょっと待ってて」
ルピに待てを。スウィーにはフードから出てもらって、ルピにまたがってもらう。
『どうしたんです?』
「いや、この前、ムカデがいた洞窟で強度みたいなの見れたから」
『あっ』
この崩落現場、土砂で塞がれた場所がどうなってるのか見てみたい。
意識を集中して、崩れた部分全体を見ようとしたが、わかったのは視点の先だけ。
「うーん、広い範囲でわからないと面倒だな。もっと土木スキル上げないとなのかな」
注意しつつ、少し近寄って下の方は緑……大丈夫そう。上の方は……黄色いメッシュに時折オレンジが混じってる。
『危ない気がします』
ミオンの言葉に頷く。
一般的に考えたら、緑が安全で赤が危険。黄色は注意……オレンジはやばそう。
「とりあえず、今日はこれでいいや。どうにかする方法はまた考えるよ」
『はい』
ルピとスウィーを呼んで、横の穴を潜って展望台へ出る。
前回は展望台から水源地まで行って、その後はルピの昔の寝ぐらまでだった。
今日は水源地を下って行って、古代遺跡に入る別ルートがあるかどうかと、食材を探す予定……
「〜〜〜♪」
「スウィー、ありがと」
「ワフ」
スウィーが取ってきてくれた小さな白い花をルピのお母さんのお墓に。
「じゃ、行こうか」
「ワフン」
展望台を下りてしばらく進むと水源地に。
南東へと流れていくせせらぎをゆっくりと追いかけていくんだけど……
「……なんかいる……っていうかついてきてる?」
「ワフ」
「ああ、そういうことか。呼んであげて」
ルピがそれに応えるように軽く吠えると、後ろからこっそり(?)ついて来てたっぽいドラブウルフの一家がやってくる。
『狼さんたちですね』
やってきた錆色の狼4匹、夫妻と子供二人かな?
お座りしてるルピの前に伏せるんだけど……
まあ、ルピの方が偉いっていうか『狼の王』だもんなあ。
「途中でグレイディアとかランジボア出たら狩ろうか」
「ワフ」
ルピを先頭に、俺が続き、その後ろにドラブウルフたちを従えて進む。
なんだかルピが張り切ってるっぽいのは、いいところ見せよう的なやつかな?
風格のある歩き方をしようとしてて可愛い。
「お、これって。ルピ、ちょっと待ってて」
【クレフォール】
『清流の水辺に生息する植物。根や葉は食用となり、強い刺激を持つ香味があるため、薬味や調味料として使われる。
料理:葉・根ともに食用可能』
「わさび!」
『え、それってわさびなんですか?』
「うん。あー、まあ、実物見ることなんてないかな」
でも、ミオンは回らないお寿司とか食べるだろうし、板前さんが目の前でおろしてくれたり?
俺は単に、じいちゃんの山菜取りに付き合わされたから知ってただけなんだけど。
「〜〜〜?」
「いや、スウィーは絶対に食べない方がいいぞ……」
悶絶する未来しか見えないし。
ルピやドラブウルフたちは嗅覚が鋭いからか、すでに遠巻き気味。
まあ、わさび生で食べる動物って……グレイディアとかなら食べるのか?
食べるのは自分だけだと思うんで、2本だけ採集して先へと進む。
「ん?」
せせらぎはやがて小川になり、川幅も1mを超えたところで、先が急に開けた。
『滝でしょうか?』
「っぽい」
手前で止まったルピがこっちをみて、どうするのって顔。
追いついて下を見ると結構高い。10m以上はある感じだし、飛び降りるって選択はないな……
ロープとか持ってきてれば、大きめの木に巻き付けて降りるっていう手が……ルピたちがダメか。
「ワフ」
どうしたものかなと思っていると、ルピがドラブウルフたちと相談してるっぽい?
ああ、別に下に降りれる道がないかって話かな。
「バウ」
「お、別の道あるんだ」
『すごいですね』
「こっち側はこの家族のテリトリーなんだろうね」
先導するドラブウルフの父親? とそれに続くルピ。母親と子どもたちは俺の後ろに続く。
結構な斜度の斜面を滑り落ちないように気をつけて下りて行くと、一度離れた小川に戻ってきて、滝の下へとたどり着いた。
「下から見ても結構高いなあ」
見上げた先がさっきまでいた場所。
流れ落ちる水量は今は大したことないんだけど、雨がどっさり降ったらすごいんだろうなあ。滝下の水底、結構深そう……
【気配感知スキルのレベルが上がりました!】
ルピと同時に反応し、ドラブウルフたちも警戒態勢をとる。
今までにない感じの気配に精霊の加護をお願いし……
ゴッ!
「ちょっ!」
火球が気配感知した先から飛んできたのを、前に出て円盾で受ける。
爆発を起こしたそれが、俺のHPを削り、かつ、ノックバックさせる。
『ショウ君!』
「大丈夫。精霊の加護のおかげでHPダメは大したことないよ」
ゴブリンマジシャンの火球が結構なダメだった覚えがあるけど、あの時はレベルも低かったし、今は精霊の加護つき。
問題は相手がどこにいるか、気配感知でなんとなくの場所しかわからないところ。
今までのモンスターはわかりやすく攻撃してきたけど、こういう姿を見せずに魔法撃ってくる奴は初めてだな。
「ワフッ!」
「「バウッ!」」
ルピの命令(?)で左右に2匹ずつドラブウルフが散っていく。
なるほど、挟み撃ちにしてってことか……
「無理すんなよ!」
そう声をかけると、それぞれが尻尾を振って答えてくれた。
俺たちはここで待機なんだろうけど、飛んでくる火球に警戒を……
「〜〜〜!」
スウィーの精霊魔法なのか、薄い水の膜が俺の顔の前に現れる。
「ああ、なるほど!」
『スウィーちゃん、すごいです!』
俺もこういう使い方すれば良かったのか。というか、ベル部長が使ってた魔法障壁も忘れてるし!
これで火球は食らう前に防げそうだし、後は攻撃してきたモンスターをドラブウルフたちがうまく誘い出してくれるかなんだけど……
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