火曜日

第165話 測れない物事いろいろ

「なんかめんどくせえことになってんだな……」


 ナットが嫌そうな顔でそう答える。

 火曜の昼。天気がイマイチなので教室での昼食に。

 昨日のアミエラ領の一件はいいんちょも知ってたので、詳しい説明は丸投げ。


「つまらない意地を張って揉めてもしょうがないでしょ」


「そりゃそうだけどよ……」


 納得いかない風のナットだが、俺もそこは同意見。

 ただまあ、当事者のセス美姫やベル部長が決めたことだしなあ。


「古代遺跡行けなくても、アミエラ領の開拓地は問題なし?」


「ええ、ごく普通に農業や酪農をしてもらって、余った分は王都に出荷ね。代わりに小麦なんかを買ってる感じかしら」


 ごく普通の地方の村として軌道には乗ってるらしいので、そこは一安心。

 加えて、古代遺跡から鉱石と戦利品が出ればってとこだったけど、か……


「いいんちょはどうすんだ?」


「迷ってるところね。ユキさんから、セスちゃんたちについて行っていいって言われてるし、少し違った場所に行ってみたい気もしてるけど……」


 まあ、そりゃそうだよな。

 生産組みたいに、同じところにこもって物作りに励むキャラでもないし、結構戦えるキャラだから、冒険に出たいだろうとは思う。


「行けばいいんじゃないの?」


「その……レオナ様がどうするかわからないから」


 ……キマシ? まあ、そっちのファンが多い人だけどさ。

 と、ミオンがタブレットで何かを探して……ああFFulldiveVVirtualIdleCChampionshipの予選結果か。


「いいんちょ、これ。レオナ様は順当にF・V・Cの予選突破してるし、今週末の決勝が終わるまでIROはインしないと思うよ」


 ミオンがこくこく頷いてくれる。


「そうなのね。じゃ、セスちゃんたちと行こうかしら……」


「ちなみにどこ行くって?」


「ああ、王都流れてる川を辿って、海のある漁村に行くんだって」


 俺の思いつきだけど、二人とも『人魚』目当てっぽい?

 なんで、いいんちょには是非同行してもらって、常識人としてストッパーの役目を果たして欲しいところ。


「面白そうだな。船とかあんのかな?」


「俺もちょっと気になってるんだよな。まあ、俺の島に来れるようなでかい船はないと思うけど」


 そういえば、島には今のところ港跡はなかったよな。

 普段の移動が転移魔法陣だったとは思うけど、最初にどうやってあの島に来たか不思議なんだよなあ。

 古代文明の時代には魔導飛行船とかそういうのがあったりしたのかな……


***


「あ、すいません。待たせちゃいました?」


「大丈夫よ。今来たところだから」


 鍵を開けて部室に入ると、さっさとVRHMDを被るベル部長。

 急ぎの何かがある感じ?


「何かありました?」


「昨日、聞き忘れてたんだけど、マリーさんは今どこに?」


「え? あーっと……すいません。俺もわかんないっす」


 なんで知らないんだよって感じもするけど、マリー真白姉の行動は何一つ読めないからなあ。

 多分、セスにもわからないと思う。


「そう、ごめんなさいね」


『お義姉さんに何か?』


「いえ、マリーさんと一緒にシーズンさんがいるはずなのよ」


「あー、まだ振り回してるのか……」


 ベル部長としては、魔女ベルがどこで何をしてるかはギルメンで共有しときたいらしい。まあそうだよな。

 アミエラ領で揉めた結果も共有しておかないと、戻ってきて「は?」みたいなことになるよな。


『ショウ君やセスちゃんからメッセージを投げておくのはどうですか?』


「うん、まあ、送っとくか。ただ、読んでも忘れちゃうからなあ」


「ああ、大丈夫よ。ディマリアさんからシーズンさんにメッセして貰えばいいから」


 なんでも、二人は従姉妹らしいので、そっちから連絡してもらえるそうだ。

 うん、俺やセスからマリー姉に連絡するよりは確実だな……


***


 あの後、今日の動画(山小屋リフォーム総集編)をベル部長にも確認してもらってから公開。

 コメント欄の様子見をしつつ、ベル部長にIROの世界での長さとか重さの単位の話を聞いたんだけど、これがなかなか面白かった。

 魔導具のメートル原器が商業ギルドにあるらしく、そこで測ったロープとかを基本に使ってるんだとか。


 重さに関しては、銅貨が基準になってるそうで、200枚で1キロという扱い。

 ちゃんと水1リットルと釣り合うか測って調べたプレイヤーさんがいるそうで……すごいよな。


「島じゃどっちも測れないんだよな……」


『ですね』


 島には商業ギルドもなければ、銅貨もないし、水1リットル(0.001立方メートル)を測る方法もないので、地図スキルは保留……


「さて、じゃ、開けるよ」


『はい』


 今日はまず下で銀竜アージェンタさんから送られてくる魔導具(?)の受け取り。

 それが終わったら、上へ行って山菜でも探すかな?

 北側の教会の先は夜にでもという予定……


「4725」


 解錠コードの扉を開けて中を確認。

 うん、もうスケルトンは出てこないな。


「ワフ」


 ルピが大丈夫だよと先導してくれるのに続く。

 スウィーは今日もついてきてるんだけど、フードの中からいびきが聞こえる気がする……


「あとは女神像だよなあ」


『どの女神様なのかは教会によって違うんですね』


「妙に細かいよね。まあ、日本らしい気がするけど」


 ベル部長に昨日の動画、ムカデ戦の後、洞窟を出たあたりからを見てもらい、例の祭壇の一番奥が空っぽな件を質問。

 やっぱり、女神像が置かれてる場所らしいけど、場所によってどの女神様なのか違うらしい。


『部長のアイデア、試してみますか?』


「うーん、もう少し落ち着いたらね」


 ベル部長のアイデアというのは、俺がその女神像を作って飾ればっていう……

 そもそも女神像自体を見たことないんだけど。


 転移エレベーターを下りて、巨大な転送部屋に到着。天井のあかりはついたまま。

 非常用の魔晶石にMPはあんまり入れなかったのに、結構長持ちするんだな……


「ワフ」


「お、なんか置いてある」


 小さい方の転移魔法陣の真ん中に豪勢な小箱がぽつんと。

 なんかお高そうな感じなんだけど、もらっちゃっていいのかな。


『ショウ君、鑑定を』


「あ、そうだった」


 まずは箱を鑑定。


【魔導転送箱】

『MPを注ぐことで中身の物を、対となる魔導転送箱へと転送する。到着時は上部の水晶が点滅する』


「ええー、なんかすごい高価そうな物なんだけど……」


『開けてみませんか?』


「りょ。なんか入ってるよな、きっと」


 とりあえず最初の手紙とかかな?

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