第164話 うん、知ってた
教会の中は他に目新しいものは無し。
本があればと思ったんだけど……持ってっちゃうよな。
「こんなとこかな。スウィー、帰るよ」
フードから出て、あちこちをふらふらと飛び回ってたスウィーを呼び戻す。
何か面白いものでも見つけてくれるかなと思ったけど……そもそも甘い果物にしか興味なかった。
「じゃ、あとはグレイプルを収穫して帰ろうか」
「ワフ」
「〜〜〜♪」
誰も来ないとは思うけど、またムカデが現れて、この中に入られるのはなんかあれ。
きっちりと扉をしめて外へと出る。
「10時まわったぐらい?」
『はい。ついさっき10時になりました』
明日はまた昼から学校でできるし、急ぐ必要もない。
大門の向こうより先に上かな? ルピの父親とか兄弟とか見つかるといいんだけど……
………
……
…
「はいこれ。とりあえず二房あれば足りるよな?」
「〜〜〜♪」
サムズアップして返すスウィー。
土間のテーブルにグレイプルの実を二房置いて、あとはお任せ。
神樹のある森の方へと飛んでいくスウィーを見送る。
インベいっぱいに採集してこようかと思ったけど、魔導保存庫の空きもあんまりなかったなと思って自重。
採集スキルが久々にレベルアップしたけど、やっぱり初めて採集するものだったからかな?
「うーん、レーズン作りたい……」
11時までまだ少しあるんだよな。
『すぐにできるものなんですか?』
「多分? 要は干し葡萄な訳だし」
乾燥の魔法が優秀すぎて、干す関連のは大抵できそうな予感。
本来なら時間をかけて乾燥させることが必要なものも、この魔法とゲームの時短が合わさってうまくいく感じ?
『見たいです!』
「じゃ、ちょっと試すかな。あ、普通に料理スキル持ってる人とかやってるだろうし、特別すごいわけじゃないよ?」
『はい』
石窯に火を入れて弱火に調整。
土鍋に何個かグレイプルの実を入れて火にかける。
『え? 焼くんですか?』
「うん。殺菌の意味も含めて?」
俺も詳しいことはよくわからないけど、ばあちゃんがオーブンで焼いてから干してたからなあ。
焦げないように転がしつつ10分ほど焼くと、皮に多少皺が寄ってきて、レーズンっぽさがなんとなく。
「で、これを……<乾燥>」
みるみるうちに萎んでいくグレイプルの実。
体積が減った分、皮の皺がどんどん増えていって……これぐらいかな?
【料理スキルのレベルが上がりました!】
【素材加工スキルのレベルが上がりました!】
『おめでとうございます!』
あ、両方上がった。
いや、それは今は良くて。
「ありがと。で、見たことある感じになったでしょ?」
『はい、レーズンですね!』
よく見るレーズンよりちょっと大きいけど、まあまあレーズン。
一応、鑑定しておくかな。
【ドライグレイプル】
『グレイプルの実を干した物。皮の渋みと酸味が薄まり、甘味が濃く残って美味。
料理:パンや菓子に利用される。素材加工:グレイプル酵母の材料となる』
「よしよし」
これで酵母が作れるから、あとは小麦さえ調達できればパンが作れるはず……
『すごく甘いんですか?』
「んー、甘いって言っても果物の甘さだし、干しパプよりも酸味は少しあるんじゃないかな」
いくらでも作れるのはわかったし、一つぱくっと……
「あ、やばい。これいくらでも食べられるぐらい美味しい……」
現実世界のレーズンって、そんなに買ってまで食べるほどでもなかったけど、これだったら買うな。
「ワフ!」
「はいはい。ルピにも……」
と思ったら、スウィーが連れてきたフェアリーたちにガン見されてました……
***
「ただいま」
『お帰りなさい』
「待っておったぞ、兄上!」
「遅くにごめんなさいね……」
11時を回ったところで二人が待ってるらしいので、バーチャル部室に戻ってきた。
セスは元気そうだけど、ベル部長はお疲れのご様子。
「どうしたんです?」
「アミエラ領、いえ、ウォルースト王国はあの古代遺跡を諦めるそうよ」
「『えっ?』」
セスがジンベエ師匠を伴って、アミエラ子爵様と会談。
状況報告ということで、先日、有翼人たちが現れて、一方的に要望を出して去って行ったことを伝えた。
それを聞いた子爵様は驚き、しばらく席を外したのちに戻ってきて、例の古代遺跡は諦めてくれということになったそうだ。
「なんか……もっと熟考するかと思ったんですが。というか、国から撤退指示って早くないです?」
「子爵殿は席を外して、王都で直接指示を仰いだのであろう」
「は? 王都で直接って、そんな一瞬で行け……あー!」
あるな。一瞬で行ける方法。
山小屋の1階にも眠ってるけど。
「直接聞いたわけではないゆえ、想像に過ぎんがのう」
「子爵様は国の宮廷魔術士でもあるし、その通りでしょうね」
『納得です』
緊急事態が起きた時に、転移魔法陣で行ったり来たりできるんだろうなあ。
「でも、そんなすぐ撤退する理由って? あいつらレオナ様にボコられてたし、勝てないわけじゃないと思うけど」
「子爵殿曰く、彼ら有翼人は確かに竜族の庇護下にあるそうだ。故に、彼らと揉めて、竜族とも揉めるのは避けたいとな」
ああ、やっぱり銀竜アージェンタさんの話は正しかったわけか。
「驚かないのね?」
『ショウ君は本でドラゴンの存在を知ってましたから』
「っす」
ミオンがフォローしてくれたのに乗っかる俺。
さっきのは驚く場所だったかな。……俺の演技じゃ、逆に怪しまれるか。
「うーん……」
なんというか、めちゃくちゃ納得いかない。
これって、俺がアージェンタさんにいろいろ裏話を聞いてるから? いや、そうでもないよなあ。
「我々は撤退するが、彼らに上がりを払ってでも、あの古代遺跡に行ってみたいというものもおろう。それを考えれば、ここで必要以上に揉めるのは得策ではあるまい」
『あの、それで今日ショウ君を呼んだのは?』
「生産組はいいんだけど、戦闘班はあの古代遺跡をあてにしてたのよね。しばらくは別の場所で活動しようと思うんだけど、良い場所が思いつかなくて」
とベル部長。
「俺に聞かれてもって感じですが、ナットがいる南西部はダメなんです?」
「あの場所は候補としては二番手よの。他になければそうするつもりではあるが、できればどこも手をつけてない場所が良いのう……」
王国の地理すら危うい俺に聞かれてもなあ。
ちらっとミオンを見てヘルプを求めると……
『王国には海辺の街とかないんでしょうか? そういう場所にも古代遺跡とかありそうな気がします』
「あー、港町とかっていう話、いまいち聞かないすね」
っていうか、船の技術ってどの程度なんだろ。
帆船があるようなら、うちの島に来られる可能性が微妙に……距離的に無理だな。
「ふむ、確か王都を流れる川を下って行けば海へと出るであろうの」
「その先にはクリーネっていう漁村があるわ。たまにクエストの行き先になることがあるけど、そんなにレベルの高いモンスターはいなかったわよ」
「まあ、観光がてら行ってみたらどうです? 有翼人とか巨人とか出てきたんだし、人魚とかと出会ったりするかも?」
「「それね!(だ!)」」
え? そんな思いつきでいいの?
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