第163話 あるべき場所にいないもの

「なんだろ、ここ……」


『特に通知が出ませんでしたし、古代遺跡の続きでしょうか?』


「あ、そっか。別の古代遺跡だったら、発見アナウンスが出てたはずか」


『はい』


 ざっと見回すと、二、三人が並んで歩けるぐらいの道幅。両脇は崖というか、石垣が積まれてる感じで、あきらかに人の手が入っている。

 ただ、その石垣や石畳の隙間から雑草が生えまくっているので、誰かが使ってるという感じは全くしない。

 まあ、そんな人がいたら、ここ無人島じゃないもんな……


「ルピとスウィーはこの辺は知ってたりしない?」


 その問いかけに、二人とも無言で首を横に振る。だよなあ。

 ルピがあの昔の寝ぐらからここまで来るとなると山越えだろうし、スウィーはそもそもこの島にいたかも怪しいし……


「ミオン、ごめん。今って何時ぐらい?」


『9時を回ったところですよ』


「さんきゅ。じゃ、もう少し調べて、10時回ったら帰ることにするか」


 山小屋からそんなに遠くないとはいえ、毎回こっちに来るために時間かかるのも問題だよなあ。

 本土だと乗合馬車ができたら時短できるのが羨ましい……


「ワフ」


「うん、気をつけてな」


 道はほぼ真っ直ぐなので、ルピが少し前を先導してくれる。

 なだらかな上り坂を進んだその先に現れたのは……


「うわぁ……」


『これは……教会とか神殿とかそういう建物だったんでしょうか?』


「あー、そういう感じする」


 目の前に現れたのは石造りのなかなか大きな建物。

 ミオンの言う通り、なんか教会っぽい感じ? 尖塔とかいうやつが目につく。

 もうちょっと近くに……と思ったところで、スウィーが俺の後頭部をトントンと叩く。


「どした?」


「〜〜〜♪」


「ん? あっちって……あっ!」


 俺の背丈ほどの木にぶら下がってる赤紫の果実の集まり。

 ダッシュで駆け寄って鑑定!


【グレイプルの実】

『グレイプルの果実。果皮は渋みがあるが、中の実は酸味と甘味が絶妙。

 料理:果汁を飲料、調味料として利用可能。素材加工:酒、酢の原料となる』


「ぶどう!」


『やりましたね!』


「〜〜〜♪」


 スウィーがさっそくというか、自分で一つもいでそれを丸齧りする。

 俺もさっそく……


「あー、これ美味しい……」


 ぶどうって生食用と加工用って違うはずだけど、IROの中だと一緒なのかな。

 ともかく、これでワインは作れるはず? あとレーズンを作って、そこから酵母を起こせばパンも……


「ワフ!」


「ごめんごめん。ルピもほら。美味しいぞ!」


 俺の手からグレイプルの実を食べ、尻尾を激しく振るルピ。

 ちょうどいいし、ちょっと休憩にしよう。

 一房取って、地べたに腰を下ろす。


「たくさんあるし、好きなだけ食べていいよ」


「ワフ〜」


「〜〜〜♪」


 ルピはいいとして、スウィーは小さい体のどこに消化されてるんだ? いやいや、ゲームだったな、これ……


『うう、美味しそうです……』


「あはは。椿さんにお願いして買ってきてもらえば?」


『そうします……』


 なんか、めちゃくちゃお高いぶどうとか買ってきそう……

 それにしても、この周りには結構、見たことのないものがあるな。

 ん? あれは井戸? なんか、やぐらだったものは朽ちてるっぽいけど、昔はここに人が住んでたってことだよな。


「ここって、あの教会っぽい建物の裏手なのかな」


『そうですね。この場所と、あの洞窟ぐらいしか行ける場所がなさそうです』


「となると、あの向こうが正面側になるか……」


 ぐるっと一回りしたら、ちょうどいいくらいの時間になりそう。

 建物の中まで確認したいところだけど、モンスターとか出てきたら時間足りないか。


「よし、行こう」


「ワフン」


「〜〜〜!!」


「ああ、うん。他のフェアリーたちのお土産用ね。帰りに収穫するから」


 スウィーにそう答えて宥める。

 ルピが「しょうがないなあ」みたいな顔してるし……


「じゃ、左側は狭いし、右側から」


『はい』


 山肌をえぐった跡に整地されてるこのスペース。裏手から見て、建物右側は結構広い。

 建物自体はしっかりしてそうだけど、窓は全て木戸で塞がれているので中の様子はわからず。


「これは……馬房っていうか馬小屋かな」


 木造であちこち朽ちてるけど、柱、屋根、柵、そして、飼い葉桶のようなものも。

 どれくらい前かわからないけど、馬を飼ってたのか。

 そのまま表まで進むと……


「うわ……」


『すごいです……』


 建物の正面、その先にあるのは大きな鉄柵の扉。

 崖の切れ目、しっかりとした石造りの門柱の間に挟まれたそれは、西洋の城とかにありそうなやつ。


「結構広いんだな、この島……」


 鉄柵の隙間から見える向こう側は、なだらかに下っていく道が川と交差し、その辺りには何軒かの家が見える。

 ただ、道は草が生い茂ってるし、家はどれも朽ちちゃってるっぽいし、今すぐ確認に行くのは躊躇われる感じ。


『扉は開きますか?』


「どうだろ。っていうか、どうやって開けるんだ?」


『ショウ君、鑑定を』


「あ……」


 フルダイブなせいか、どうもゲームなのを忘れがち。

 しっかりと鑑定を……


【古代魔導大門扉】

『古代魔法によって施錠されている大門扉。城門などに利用される』


「なんか凄そうな扉だけど、地下のと同じ仕組みかな」


『開けてみますか?』


「いや、今日は時間もないし落ち着いたらで」


『あ、そうですね』


 この大門の向こうは確実に違うエリアだと思うし、そっちのモンスターが入り込んでこないための扉とか?

 なら、まずはこの場所の安全を確保したいところ。振り返ると……やっぱり教会っぽいなあ。


「あれ? この扉っていつもの?」


『ですね。解錠コードが無い方です』


「建物にも使えたんだ……」


 遺跡専用かと思ってたけど、扉なんだし重要施設なら使うよな。

 じゃ、いつものように……


「ごめん。ちょっと待って」


 MPはもう全快してるので、精霊の加護をお願いする。あと、光の精霊にあかりも頼んでこれでいいかな? 何かいたときは隠密を使おう……


「よし、開けるよ」


 ぐっと力を込め、いつもの問いかけに『はい』と答える。

 両開きの扉をゆっくりと開いて……気配感知に反応なし。

 あかりに照らされた内部は長椅子が二列に並んでいて、礼拝堂って感じかな。


「大丈夫そう」


『ホッとしました。ここはやっぱり教会みたいですね』


「だね。中は意外と綺麗っていうか、ほこりが多いぐらいで、長椅子なんかは全然使えそう」


 精霊の加護を解除し、上を見ると天井が高い。外からは二階建てに見えたけど、高いところには廊下があるだけか。

 ゆっくりと祭壇に近づいて行って、徐々に違和感がこう……


「こういう場所って一番奥に神様の像とかあるんじゃなかったっけ?」


『そんな気がします。IROだと違うんでしょうか?』


「これも明日聞いてみようか」


 祭壇の場所はそれっぽく一段上ったところに。

 さらに奥には……


「ここに神様、いや、女神様の像が置いてあった気がする……」


『ですね』


 明らかに不自然なスペース。

 さらに一段高い場所に、円形のスペースがあって、真っ白な台座だけが残ってる感じ?


「あれかな。引っ越していなくなる時に、女神像はちゃんと持っていったとかかな?」


『そうですね。誰もいないところに女神様を置き去りにはしない気がします』


 うーん、神聖魔法が取れるかもと思ったけど、ちょっと厳しいか……

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