第162話 独力で獲得しました

「シャーッ!」


 両開きの扉を引き開けたところで、飛びかかってくる煤けた色のムカデ。

 ネームプレートを見ると【トープセンチピード】ってやつらしいけど、鑑定している暇はない。

 円盾でその噛みつきを弾いて、その首(?)に剣鉈を、


「<急所攻撃>!」


 ガンッ!


「え?」


 急所攻撃のアーツを発動したはずなのに、剣鉈が当たったのはムカデの殻の硬い部分。


「あぶっ!」


 再度の噛みつきをもう一度円盾で防ぐと、ムカデは俺を見定めるように鎌首(?)を持ち上げて威嚇する。


「なんで、急所攻撃が効かないんだ、こいつ……」


『ショウ君、虫のモンスターには急所攻撃を避ける敵もいるそうです!』


「マジか。てか、ベル部長たちが苦労してるのもそのへんもあるんだろうな……」


 ムカデは頭をフラフラとさせ、俺の隙を窺っている感じ。さすがに何度も円盾に噛みつくのは嫌ってことか。

 しかし、まいったな。殻の部分に当たっても剣鉈じゃ、ダメージが通りづらい気がするし、そうなるとルピの爪なんかも微妙なはず。


「シャーッ!」


「くっ! <急所攻撃>!」


 ガンッ!


 円盾で噛みつきを受け流し、伸び切ったところに剣鉈を振り下ろしてみたがダメ。

 こっちの攻撃に気づいたら、咄嗟に体をうねらせて、微妙に当たる場所をずらしてるのか、こいつ……


「バウッ!」


 戻っていくムカデの頭を狙ったルピの攻撃も、咄嗟に体を捻らせて弾かれる。


「キシャーッ!」


「やばっ!」


 ムカデの口から放たれた黄色い液体がルピにかかりそうになって、慌ててそれを円盾で遮る!


『ショウ君!』


 円盾から白い煙が上がり、防ぎきれなくて肩口に当たったせいか、HPがじわじわと減っていく。

 これは酸かなと思ったら、加護の水色の光がそれを覆ってあっという間に消えた。


「さんきゅ!」


 水の精霊の加護があるんだから、火傷とかそっちへの耐性というか、フォローをしてくれるんだな。あとでベル部長に報告しよう。

 で、


「ワフ……」


「しょげるなよ、ルピ。おかげでちょっとわかったし」


 ムカデの動きを見る感じ、何か気配感知の上級っぽいものを持ってる気がする。

 こっちの攻撃を感知して対応する何か。【危機感知】とかそういうやつじゃないかな。

 それならこっちにもやれることがある……


 キシキシと手足と甲殻が擦れる不快な音が響き、ムカデが再び攻撃体勢に。

 ルピは俺の後ろ、いつでも飛び出せるようにスタンばってもらう。


『ショウ君?』


 ミオンが不思議がってるが、説明してる余裕はない。そもそも、うまくいくかどうか微妙だし……


「シャーッ!」


 円盾を壊す勢いで噛みつきにきたムカデの頭を、今回は思い切り受け止めて押し返す!

 そして、そのまま、


「<土壁>!」


 俺の体が完全に隠れる大きさの土壁を間に立てる。


「バウッ!」


 ルピが俺の後ろから左回りに土壁を回り込み、俺は……


(<急所攻撃>!)


 ムカデの首の節目(?)に剣鉈を叩き込むと、それを一気に振り抜く。

 体から泣き別れた頭がどさっと床に落ち、体は何度も何度ものたうちまわった後に、その動きを止めた。


【精霊魔法スキルのレベルが上がりました!】

【隠密スキルのレベルが上がりました!】

【隠密スキルのレベルが上がりました!】

【短剣スキルのレベルが上がりました!】

【隠密&短剣アーツ<バックスタブ>を独力で獲得しました!】


【トープセンチピードを討伐しました】

【セーフゾーンが追加されました】


「ふう……」


『ショウ君。今、私からも何をしてるか見えなかったんですけど……』


「え? 隠密スキルってそんなとこまで影響出るの?」


 これはちょっと予想外……

 単純に向こうが【危機感知】っぽいもので避けてるなら、それを【隠密】で上回れないかなってだけだったんだけど。


『隠密スキルだったんですね!』


「そそ。土壁は相手の視線を遮るためで、ルピに注意を引いてもらえば、隠密行動から急所攻撃も通るかなって思ったんだけど……なんか予想以上のことが起きたっぽい」


『それが……ばっくす、たぶ? ですか?』


「バックスタブだね。不意打ちとかそういう感じのやつ」


 職業があるRPGとかならローグとかアサシンが使うんだけど、IROはスキルから得られるアーツだったってことか。


『独力で獲得しましたっていうのは……』


「そんなつもりは全然なかったんだけどなあ」


 結果としてバックスタブになったので、アーツとしての<バックスタブ>を獲得したってことなのかな。


『レベルもいろいろ上がりましたね』


「うん。まあ、ちょっとその前に鑑定かな」


【トープセンチピード】

『全長3m近くになる巨大ムカデモンスター。口から酸性の液体を吐くので注意。

 素材加工:殻は各種素材となる』


【鑑定スキルのレベルが上がりました!】


『おめでとうございます!』


「さんきゅ。っていうか、これ解体したら……」


【解体スキルのレベルが上がりました!】


『また上がりました!』


「だと思ったよ。やっぱり、新しいものを鑑定したり解体する方が、スキル経験値も多いんだろうなあ」


 魔石のサイズは小か。あと、殻を何かに使えるかもってことでインベに収納。

 この目隠しに使った土壁は……とりあえず放置でいいか。余裕がある時に回収で。


『セーフゾーンはさっきの出た場所でしょうか?』


「多分そうかな。ゴブリンの集落を潰した時と同じだと思う」


 倒したムカデが寝ぐらにしてた洞窟がセーフゾーンになってるはず? 確かめればいいか。


「ワフ」


「うん、行こうか。スウィーももう大丈夫だぞ?」


「〜〜〜?」


 フードから顔を出して、ムカデがいないのを確認してホッとした様子。でも、いつでも隠れられるようにっていう感じ。


「火球撃っちゃったけど大丈夫かな……」


 光の精霊に出してもらったあかりで照らされた場所は、ちょっとした広さがあって、左隅に人一人分のセーフゾーンが淡く光ってる。


『大丈夫そうですね』


「良かった」


 一応、天井や壁を確認。

 少し焦げた感じはあるけど……あれ?

 これって土木スキルで確認できたりしないのか?


『どうしました?』


「あ、いや、ちょっと……」


 どうやって……検査? 鑑定っぽい感じかな? 意識をこう……


「あ、できた」


『えっ!?』


 見た箇所の強度なのか、グリーンのメッシュが表示されてるので大丈夫?

 スキルレベルが上がれば、もっといろいろ見える感じになるのかな……


「土木スキルで強度が見えてるっぽいんだけど……よくわかんないな。とりあえず保留で」


『はい』


 あとは……なんか骨があるけど、これは鳥? なんの鳥だろ……

 っていうか、あのムカデ、鳥とか食べてたのか。いやまあ、あの大きさがあって、酸を吐けるから捕まえられそうだけど。


『外につながってるみたいですね』


「さて、どんなところかな……」


 えーっと、方角的には北西に向かっての出口か。

 しばらく歩いたところで、陽の光に照らされた外が見えてきて……石畳?


「ワフ!」


 駆け出したルピをゆっくりと追いかけて行くと、外の様子がどんどんと流れ込んでくる。

 そして、完全に外に出た場所は、石畳の参道という感じの場所だった……

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