雲蒸竜変

第161話 単位はやっぱり揃えたい

『先生、学生の頃と雰囲気が全然違いましたね』


「俺もそれ思った」


 あれから昔の部活動のアルバム(紙)を見せてもらったんだけど、ヤタ先生、黒縁メガネでおかっぱ頭っていう、めちゃくちゃ地味な感じ。

 今のちょっとおしゃれな赤縁メガネに少しだけ面影はある感じだけど。


「ワフ」


「ごちそうさまでした」


 今日のゲーム内夕飯はパーピジョンとルディッシュの煮込み。干しチャガタケの出汁が効いてて旨味がすごい……


『今日はドラゴンさんの魔導具を受け取りにですか?』


「それは明日でいいかなって。多分だけど、1日後とかでいいはずだろうし、向こうも急いでた感じじゃなかったし」


 竜族が女神様から古代遺跡の管理を任されてるらしいけど、この島は本土からは随分と離れた場所。

 暴走した施設と違って安定稼働してたみたいだから、危険な施設ってわけでもないと思う。……崩れてて制御室に行けないのがちょっと不安だけど。


『今日は真っ直ぐ進みます?』


「うん、そのつもり。島の向こう側に出れるといいんだけど」


『ショウ君、その前に地図のスキルを取りませんか? あとできっと役に立つと思うんです』


「あ、そうだった! さんきゅ」


 えーっと、地図スキルは……え?


「取れないんだけど……」


『え? 何か前提が必要なんでしょうか……』


「だと思う。となるとアンコモンかレアか……」


 地図に必要そうな前提ってなんだろう。

 あ、測量と計測とかそっち? いや、でもそんなスキル見当たらないし。


『少し気になったんですが、この世界って長さとか重さとかの単位ってどうなってるんでしょうか?』


「そういえばそうだな。プレイヤー同士は普通にメートルとかキロとかで通じるからいいんだけど……。いや、図鑑には体長何メートルとか書いてあったから通じるのか?」


『あ、ごめんなさい。後回しでいいですよ』


「うん。まあ、明日にでもベル部長あたりに聞いてみるよ」


『はい』


 ………

 ……

 …


「とりあえず、見える範囲にも気配感知の範囲にもモンスターはいなさそう」


「ワフン」


 右手には上り階段、左手には下り階段、そして真っ直ぐ続く通路。

 左右の通路は把握済みで、そのうちまた行かないとだけど、今日は真っ直ぐを選択。


「〜〜〜!」


 フードからスウィーが「ゴーゴー!」って感じではしゃいでる。

 まあ、女王にもいろいろあるってことだよな……


『あの「記録」に書いてある通りなら、また「解錠コード」の扉がありますよね?』


「のはず。あれがあったせいで、逃げてきた人たちがってことなのかな?」


『上の通路の崩落も気になります』


「だね。例の暴走の頃にもうああなってたとは思えないし」


 そんなことを話しているうちに、特に分岐路もなく見覚えのある扉にたどり着く。


「例の『解錠コード』が必要な扉?」


『ですね』


 扉に描かれてる模様というか魔法陣が違うらしい。俺にはよくわからないけど。


「じゃ、開けるよ」


『気をつけてくださいね?』


「りょ」


 そっと手を添え、いつもの問い合わせに「4725」と答えて、無事ロックが外れたことを確認。

 ゆっくりと押し開けると、そこには天井からの淡い光に照らされた通路が続いていた。


「ふう。とりあえず第一関門は何もなし、と」


『緊張します』


 前が『開けたらそこにはスケルトンが!』って感じだったもんな。

 あのスケルトンが、例の古代魔導施設の暴走から逃げた人たちなら、扉の向こう側にはいないんだろうけど。


「こっちは照明が点いてるってことは、ここから先は区画が違うんだろうな……」


「ワフ」


「ん、進もうか」


 ルピがスタスタと進んでいくし、敵はいないんだろう。

 ああ、こういう時に気をつけないといけないのは……


「スウィー、たまに後ろ確認して」


「〜〜〜♪」


 ありえないはずだけど、一応お願いを。

 扉閉めて行こうかと思ったけど、逃げて来た時に困るし。


『この先は南側みたいに分かれてるんでしょうか?』


「上下対称ならそうだよな。まあ、その時は左側、西側からにするよ」


『そうなんですか?』


「この道が西よりだからね。西側の方が外に出るのは近いはず」


『なるほどです』


 とはいえ、島全体のサイズ感もイマイチよくわかってない。

 無人島スタートに選んだ時に、選択地図上でのざっくりとした形は見えたんだけど、菱形だったかなーってぐらいで……


「あれ? 上階段?」


『対称じゃないみたいですね』


「ワフン」


「うん、行こうか」


 ちょっと拍子抜けだけど、上階段ってことは外へ出る可能性が高い。場所的には島の北西かな?

 真っ直ぐ北へ上り、西へ折れて上ったところで、真っ直ぐな通路になって、そのまま進むと……


「これは普通の魔導扉の方?」


『です』


 ということは、これを開けると……洞窟かな? で、モンスターがいる可能性も高そう。


「ルピ、スウィー、敵が出てくるかもだぞ」


「ワフ!」


「〜〜〜!」


 両開きの扉、その取っ手に両手をかけると、例の祝福を受けし者の問いかけが聞こえる。それに「はい」と応じて扉を手前に開けると、廊下から溢れた光が向こうを照らして……


「っ!! <火球>!」


 洞窟のような場所に照らし出された、体長3mほどもある巨大ムカデを見て、思わず火球の魔法を唱えた。そして、そのまま扉を閉める。

 扉の向こうから火球の爆発音が……


「……やばいかも。思わず撃っちゃったけど、火球はまずかった」


『しょうがないです。私もあれはちょっと……』


 普通の人は生理的に無理なやつだよな。

 それはそれとして、火球の爆発で天井が崩れてたりしないといいんだけど。

 扉に耳をあてて、向こう側の音が聞こえたりは……なんかカサカサ言ってるな。


「やるしかないか……」


「ワフ」


 元気よく答えるルピに、スウィーは……フードの中に入っちゃったか。

 まあ、ムカデとかクモとかって、フェアリーは苦手だろうなあ。


『気をつけてくださいね?』


「うん。ルピも油断するなよ。ムカデは毒持ちかもしれないし、切ってもしばらく生きてるからな?」


「ワフン」


 知ってるよって感じかな? それなら安心。

 一応、インベにはレクソンから作った解毒薬も持ってきてる。

 あとはきっちり精霊の加護をもらおう。対毒は水の精霊あたりに期待したいとこだけど……


「援護頼む」


 その言葉に精霊石から光が溢れて俺を包む。

 ちょっとステータス確認。【精霊の加護(光・樹・水)】を確認。

 扉を開けたら少し下がるか。

 囲まれるよりも、この明るい通路に入ってきたやつを叩いていく方が安全だろうし。


「ルピ。中へ誘い込むから少し下がって」


「ワフ」


 さて、やるか!

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