第159話 きれいさっぱり?

『ショウ君、扉を閉めておかないとです』


「おっと、やべ」


 銀色のドラゴン、アージェンタさんはあの後すぐ転移魔法陣で帰っていった。

 後日またって話をどうするのかと思ってたんだけど、戻った後、連絡を取れるような魔導具を送ってくれるらしい。

 どういう魔導具なのかさっぱりだけど、多分なんとかなるんじゃないかと。鑑定スキルもあるし……


「えーっと『4725』っと」


 扉を閉めて、解錠コードは今までのを使い回し。

 解錠コードなしにできなかったので、前のやつをそのままで。


「よし、競走の続き!」


「ワフ!」


「〜〜〜♪」


 ルピと山小屋へと戻る道を走る。

 スウィーは俺のフードの中で、結構激しい揺れがある気がするんだけど平気っぽい。ロデオ感覚で楽しんでる気がする……


「さ、さすがに辛い……」


 階段を駆け上がって、山小屋のある盆地に出たところでギブアップ。

 これってVITがもっとあれば平気だったりするのかな。


『ショウ君、そこまで急がなくても、まだ5分ほどありますから』


「りょ。あとは歩くよ……」


 山小屋までは緩やかな下り。

 息を整えつつ歩いてる間に玄関に到着。


「じゃ、また後でな」


「ワフン」


 そう伝えるとルピはロフトベッドの下側に潜り込み、スウィーはルピを枕に……

 まあ、ここに住んでもらってもいいんだけど、そうなると他のフェアリーたちはどうなんだっていう。


「ま、後でいいや。おやすみ……」


***


「ただいま」


『お帰りなさい』


「ベル部長は……まだプレイ中かな」


 とりあえず、アージェンタさんと話した内容は全て内緒。ミオンにもお願いしてある。


<ショウ君、ちょっといいですか?>


<え? あ、うん、どうしたの?>


 目の前にいるのにウィスパーされるとびっくりする。ベル部長がいつ戻ってくるかわからないからなんだろうけど。


<さっきの限定配信ですけど、ちゃんと保存されてないみたいです……>


<え? ミオンは見えてたし聞こえてたよね?>


<はい。でも、ドラゴンさんがいる間の出来事が全く保存されてなくて、そこだけスキップしたみたいになってます>


 マジか……。これって、ゲームからの配信に保存できないようなロックが掛かってるとかそういうやつ?

 フルダイブ系のコンサートライブとかで、その録画動画が出回るとまずいからって仕組みがあるけど、あれと同じ?


<ゲーム以外の場所で他のプレイヤーに知られたくないってことかな。動画がないと信憑性も下がるし>


<なるほどです。でも、そもそも秘密にしておくんですよね?>


<うん、アージェンタさんと約束したし。ミオンも巻き込んじゃったけど、内緒にしててくれる?>


<もちろんです!>


 約束した以上、俺からバラす気はない。

 なので、バレるとしたら、誰かがそれに気づくか、アージェンタさんからバラすかした時だと思う。

 というか……


<次のワールドクエストに絡んでる気がするから、俺から言うのはネタバレっぽくてどうかと思うんだよな>


<そうなんですか?>


<なんとなくだけどね。ベル部長たちが有翼人と揉めてるとか、帝国は巨人族と交渉してるとか、共和国は魔王国だっけ? とにかく、いろんな種族と遭遇してるし>


 アージェンタさんの話で、有翼人と巨人のバックがドラゴン、竜族なのはわかった。

 あとは共和国には魔王国、公国はエルフが避難してきてたそうだけど……そっちはバックはないのかな。

 ああ、あと、ナットがいる王国の南西部か。ノームを救うことができたけど、その後は特に何か起きてたりはしないよな?

 ワールドクエストが終わってからのメインストーリーが『幻想邂逅』だったし、多分そのうち本土でもドラゴンと遭遇する気がする……


「あら、待たせちゃったかしら?」


『いえ、大丈夫ですよ。今、ちょうど4時半です』


 ベル部長が戻ってきたので内緒話も終わりに。

 で、ちょうど良かったというか、


「王国の南西、ノームたちの昔の住処のさらに先に古代遺跡が見つかったそうよ」


「え? いつです?」


「お昼すぎだったらしいわ。ちょうど私たちがログインする前だったみたいね」


 ワールドアナウンスもその時ログインしてないとわからないんだよな。

 ミオンがさっそくというか、公式フォーラムを見に行ってくれてる模様。


『どういう古代遺跡かはまだ不明なんですね』


「そうね。見つけた『昼下がりの華』の方たちは情報だけ渡して『月夜の宴』の人たちに後を任せるそうよ」


 なるほど。昼から夕方メインのギルドだから、後は夜メインのギルドにパスってことか。


「それ以外には特に?」


「特にって、他に何かあるの?」


「あ、いや、有翼人とか巨人とか遭遇してる場所もあるから、他にも何かあるのかなって」


「ああ、そういう。公国はワールドクエストで避難してきたエルフと協議中らしいわね。元いた里が壊滅してたらしいわ」


 とベル部長。

 いかんいかん。アージェンタさんと会ったことで「他にも?」って意識が向きすぎてるな。


『ノームさんたちと似た感じですね』


「そうね。揉めてるのは有翼人だけよ……」


 ベル部長の話だと、アンハイム領の北西に見つかった古代遺跡に関して、巨人族は特に要求などしてこなかったらしい。

 アージェンタさんが言ってた『負い目』みたいなやつのせいなのかな。


『共和国は何も起きてないんでしょうか?』


「共和国はちょっと別かしらね。でも、魔王国からの使節団が来てるらしいわ。アンシアさんが新しい交易をするにあたっての交渉だとか」


 と苦笑いのベル部長。


「交易って何を?」


「何をって、ショウ君の放送を見て思いついたらしいわよ?」


「『え?』」


 氷姫アンシアが領主に就いた旧聖国の場所から東へ行くと、魔王国の南端の漁村に出るらしい。

 そこで採れてる魚介類を取引するそうで……


「あー、すいません。あれ、ライブの日の昼に見つけたやつなんで」


「ああ、気にしなくていいわよ。魚介類はアミエラ領では扱いようがないもの。それに、いつもいつも『白銀の館』が先行するのもね」


 あ、そっか。魚介類だもんな。

 王国だとどこで取れるんだろ? 明日にでもナットにちょっと聞いてみるか……


『そういえば、とろとろ干しパプも流行してますよね』


「あれもショウ君のおかげね。クエストで待ちがある間、みんな食べてるわよ」


「ははは……」


 まあ、せっかくのフルダイブなんだし、食べるなら美味しい方がいいよな。


「さて、部室の掃除をしましょうか」


『あの……部長。先生は今日は来ないんでしょうか?』


「来ると思うわよ。……部室の掃除が終わった頃にね」


「ええー……」


 俺たちが好き勝手使ってる部室だし、自分たちで掃除するのはいいんだけど、ヤタ先生の席もあるのに……

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