第160話 残るもの、残すもの
「掃除道具はここね」
「りょっす」
とはいえ、運動部でもないし、普段から綺麗に使ってる部室なので、ほこりを払って綺麗にするぐらいかな。
と、ミオンが固まっている……
「ひょっとしてやったことない?」
その問いにVRHMDを外したミオンはこくこくと頷く。
まごうことなきお嬢様だもんなあ。
今どき、生徒が掃除をする学校とかないし、ミオンの場合、自分の部屋も椿さんがやってくれてるとかなのかな。
「え? 出雲さん、掃除苦手なの?」
「はぃ……」
驚いてるってことは、ミオンがお嬢様なの知らないのか。
隠してるわけじゃないと思うけど、自分から言うようなことでもないもんな。
ベル部長から「あなたが教えなさい」的な目線が飛んでくる。
「えっと、まずはこれをこういう感じで、高いところからね」
はたきで高いところのほこりを落とすところからスタート。
掃除の基本は上から下へ。先に下を綺麗にしても、後で上からほこりが落ちてきたら意味がない。
パタパタと棚の上からほこりを落としていく。
「ぅん」
「軽くでいいからね」
そう伝えると慣れない手つきだけど、そっとほこりを落としていってくれる。
そういえば、同じことを真白姉に頼んだら、思いっきりやって壁に傷がついたんだよな……
「自分の部屋は自分で掃除すると思うのだけれど……」
「俺、美姫の部屋も掃除してますけどね」
「それは……過保護じゃないかしら……」
だって、ほっとくと掃除しねーし。
自分で掃除するっていうんならほっとくんだけど、部屋の扉を開けっぱなしにして、俺が我慢できなくて掃除するのを煽ってるっぽいんだよな。
ちなみに、その余計なテクニック(?)は真白姉も使う……
「そういや、この棚とかって何が入ってるんですか?」
「昔の部活のアルバムとかが入ってるわよ。掃除が終わったら、いいもの見せてあげるわ」
ベル部長がちょっと面白そうな話をしてくれる。
「去年、部長が入った時って先輩とかいなかったんですか?」
「いなかったわよ。入れ違いで卒業されたから、私が入らなかったら部が休眠状態になるところだったのよ」
「へー……」
その休眠状態が2年続くと廃部になるらしい。
いったん休眠した部に人が入るって滅多にないだろうし、実質廃部寸前だったってことか。
「ん」
「うん、いい感じ。次はこれで軽く拭いていくんだけど……こんな感じで軽くね」
油汚れとかがついてるわけでもないので、用意されていたウェットクロスで棚の表面や内側をさっと。
こくこくと頷くミオンにそれを渡して……大丈夫そう。なお、真白姉がやると、一発目でウェットクロスが破れる模様。
「手慣れてるわねえ」
「台所とかじゃなきゃ、そんな苦労しないですし」
なんだかんだ、油汚れが一番めんどくさいんだよな。
家の換気扇とかもそろそろ一度洗った方がいい気がしてきた。次の週末にフィルターぐらいは変えようかな。
「最後はフローリングワイパーで終わりよ」
「りょっす。あ、そっちは任せますけど、冷蔵庫の中見ても?」
「え、ええ。いいけど……」
前から気になってたんだよな。
エナドリしか入ってなきゃいいんだけど、とか思いつつ冷蔵庫を開けると、
「あー」
「ど、どうしたの?」
「とりあえず最大にしとけばいいだろって設定やめてください」
予想通りエナドリしか入ってないのはいいとして、温度調整のつまみが最大になってて、奥の方にうっすらと霜が。
0〜5までなら3でいいんだけど、説明書読んでないんだろうな……
一般的な冷蔵庫の設定は、この手の温度調節は真ん中安定なことをベル部長に伝えておく。というか、部長の家の冷蔵庫だってそうしてるはずだし。
「そんなに違いがあるって知らなかったわ……」
「無駄に冷やしてもしょうがないでしょ。ゲームもしてないのにCPUぶん回って電気使ってるみたいなものっすよ」
「それは……確かに嫌ね」
これくらいの霜なら、ほっとけば消えるかな?
まあ、残り続けるようなら、年末に大掃除する時にでも霜取りしよう。
「こんにちはー。お掃除は終わりましたかー」
「ちょうど終わるところでしたけど……それって?」
掃除が終わる絶妙のタイミングで現れたヤタ先生。
手には箱? 菓子折りってわけでもないと思うけど……
「ぁ」
「はいー。届いてましたよー。ミオンさんとショウ君で開けてください」
ん? ミオンが何か送ってた?
俺にその箱が渡されて……重っ!
「え? 何です?」
「開ければわかりますよー」
ヤタ先生はニコニコ。ベル部長はニヤニヤ? ミオンはワクワク?
まあ、開けてみればわかるっていうんなら、開けるんだけど……
「おお? あっ、ああ!」
綺麗な包装を丁寧に剥がして、化粧箱を開けると、そこに現れたのは鉄の盾、もとい、楯。
「二人で持って、そこに立ってくださいー」
「え? 何するんです?」
「記念撮影よ」
ベル部長が棚の扉を開けて結構高そうな一眼レフカメラを取り出す。
そんな備品もあったんだ……
「はいはいー、ここでー」
ヤタ先生に引っ張られ、ミオンと並ばされる俺。
なんか、改まって写真を撮られることってあんまりないので気恥ずかしい……
「これって、やっぱり部活で賞を取ったからとかそういう?」
「もちろんそれもありますがー、何かにつけて写真を撮っておくといいですよー。後から見直したときに楽しいですしー」
「ほらほら。もっとくっつきなさい」
その言葉にぴったりとくっついてくるミオン……
なんかニヤニヤしてるヤタ先生とベル部長……
何枚か撮られたところで、
「はいー、ベルさんも自分の楯を持って並びましょうー」
「はい」
ベル部長がデジカメをヤタ先生に渡し、棚の奥から鉄の楯を取り出す。部長のもここに置いてあったんだ。
三人で並んで撮ったあとは、ヤタ先生も交えて四人でも。ちゃんと三脚まであるし……
「撮った写真って送ってもらえるんですよね」
「ええ、もちろん。でも、部活動として残さないとだから、プリントアウトするわよ」
「え、今どき珍しい……」
アルバムっていうと、
「こういうのはー、古くからある慣わしみたいなものですからー」
「プリントアウトは私の方でやっておくとして、昔のアルバムを見ましょ。ヤタ先生の学生時代もあるわよ」
「え? ヤタ先生ってOGだったんですか? というか、電脳部の先輩?」
「ですよー。何年前かは聞いたら怒りますからねー」
ニッコリ威圧感たっぷりのヤタ先生。
そこは察することにします……
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